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コラム:世界景況感改善で現実味増す円安シナリオ=鈴木健吾氏
2017年7月12日 / 07:35 / 4ヶ月後

コラム:世界景況感改善で現実味増す円安シナリオ=鈴木健吾氏

[東京 12日] - 筆者は1月の当コラムドル120円は年後半まで持ち越しか」で、2017年のドル円相場について、年前半は米大統領選挙後の急上昇に対する反動などもあって調整的な値動きを予想。その後の年半ば以降に、1)世界的なリスクの後退、2)米国への期待、3)日銀の緩和継続、の3つを材料にドル高円安となる展開を予想した。

年前半の下押し場面ではロシアゲート問題などを嫌気して1ドル=108円台まで下落し、筆者の想定していた110円程度の水準をオーバーシュートする場面もあったが、その後反発。徐々にドル高円安圧力が強まりつつあるようだ。

特にここにきて、世界の景況感改善やリスクの後退を受けた主要中銀のスタンスの変化が追い風となっている。

過去10年にわたり、世界経済はさまざまな困難に直面してきた。2007年のサブプライム危機を皮切りに、2008年のリーマン・ショックや2009年以降深刻となった欧州債務危機、世界経済のけん引役が期待された新興国経済の失速、その後の原油を含む資源価格の急落や反グローバル化の流れなど、枚挙にいとまがない。

主要中央銀行はつい最近までこれらの困難に対する対応を余儀なくされてきた。実際、英中銀(BOE)の直近の利下げ実施は昨年8月、日銀のイールドカーブ・コントロール導入は昨年9月と、追加策の導入からまだ1年も経っていない。

果敢な緩和の成果もあって、米国は一足先に環境が好転し、米連邦準備理事会(FRB)は2015年末より金融政策の引き締めに舵を切ったが、ここにきてその他の主要中銀の動向にも変化がみられている。その傾向が特に注目を集めたのは、6月末にポルトガルで開かれた欧州中央銀行(ECB)主催のカンファレンスで相次いだ要人発言だ。

<「デフレ圧力はリフレ圧力に変わった」>

上記のカンファレンスにはドラギECB総裁はもちろん、ポロズ・カナダ中銀総裁やカーニーBOE総裁、黒田東彦日銀総裁やバーナンキFRB前議長ら、そうそうたる面々が集まった。

ポロズ・カナダ中銀総裁はこの中で、「(これまでの)利下げはその役割を果たした」「カナダの成長はポテンシャル以上だ」と述べ、金融緩和が行き過ぎの域に入りつつある可能性に警戒を示した。これに先立つ6月12日には、ウィルキンス・カナダ中銀副総裁も「成長が継続する中で景気刺激策の維持が今後も必要か検討する」と述べており、近く緩和政策の転換を検討する意向を示している。

こうした発言を受け、6月1日に5%以下だった7月の利上げ実施の可能性は6月末には80%以上に急上昇。7月12日にはカナダ中銀の政策会合が予定されているが、2010年9月以来約7年ぶりとなる利上げを実施する可能性が高い。

カーニーBOE総裁も6月28日、「景気刺激策の解除が必要となる公算は大きい」と述べた。やはりこれに先立つ21日にはホールデンBOE理事が、今年下半期の利上げを支持する可能性があるとの認識を示していたことや、6月の英中銀金融政策委員会で利上げ支持票が5月の1票から3票に増え、評決が5対3となっていたことと合わせ、年後半の利上げが現実味を帯びる状況となっている。

また、ドラギECB総裁も6月27日、「ユーロ圏の回復が強まり、拡大していることを示すあらゆる兆しがある」と発言。「デフレ圧力はリフレ圧力に変わった」とデフレからは脱却したとの認識を示した。

IT技術の革新や人口構成などといった構造の変化によって、物価や賃金の上昇が非常に緩やかにしか進まないという共通の問題を抱えつつも、雇用をはじめとした緩やかな景気回復の進展や資産価格の上昇を背景に、米国に続いてこれら主要国の中銀も金融政策の方向性を大きく転換する方針を示している。しかも年後半、早ければ数カ月以内にも行動するとの観測が強まっている。

一方で、これら主要先進国の引き締めスタンスと一線を画しているのが日銀だ。岩田規久男日銀副総裁は6月22日、「下振れリスクが大きい状況が続いている」とあくまで慎重姿勢を示している。欧米金利の上昇に連れて長期金利の上昇圧力の強まった7月7日には指し値オペと5―10年債買い入れオペの増額を発表し、これを抑え込む姿勢を鮮明にした。

主要国との金利格差を通じた本邦長期金利の上昇圧力に対する対応手段を確保する意味でも、国債購入の年間80兆円という枠組みは、(実際の購入額はともかく)目先変更しないだろう。それどころか、7月に公表予定の日銀展望レポートでは物価見通しが引き下げられる可能性が高い。

このような中、日銀は、年内はもちろん来年も含めて当面、主要中銀と一線を画した緩和的な政策を続ける可能性が高い。こうした姿勢は景況感や金利差を通じて円を押し下げるだろうとみている。

<新興国は景気刺激の利下げが可能に>

加えて、新興国の景況感や金融政策にも変化がみられる。経済協力開発機構(OECD)の調査によれば主要な新興国・資源国の景気先行指数(加重平均値)は2011年から悪化の一途をたどってきたが、昨年を境に大幅に好転している。

また、ブラジルやロシアの利下げ実施にも注目したい。昨年後半から、ブラジル中銀はすでに6回、ロシア中銀は4回もの政策金利引き下げを実施した。これは事態の悪化に対応したわけではない。数年前までブラジルやロシアは資金逃避によって通貨が急落する中、通貨防衛のため利上げを余儀なくされた。しかし、ここにきて状況が落ち着いてきたことで、景気刺激のための利下げを実施できるようになっている。

環境の好転が、主要先進国には引き締め(利上げや量的緩和縮小)、ブラジルやロシアなど新興国には緩和(利下げ)、と正反対の結果をもたらしていることは興味深い。いずれにせよ、このような世界的な景況感の改善はリスクオンを通じ、また日銀と他の主要先進国の金融政策の方向性の違いは金利差を通じ、年後半のドル円相場の押し上げ要因となるとみている。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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