December 20, 2017 / 8:29 AM / 7 months ago

コラム:2018年の為替、強い通貨と弱い通貨の見極め方=鈴木健吾氏

[東京 20日] - 10年前の2007年、米国でサブプライム問題が表面化。その後、金融危機が勃発し、世界経済は低迷に陥った。各国政府・中央銀行は景気浮揚のためにあらゆる手段を講じたが、米国を除いて不景気のトンネルの出口が見えない状況が長らく続いた。しかし、2017年はようやくその出口が見えてきたかもしれない。

実際、2016年まで多くの中央銀行は緩和姿勢が明確だった。日銀は同年1月にマイナス金利、9月にはイールドカーブ・コントロールを導入。豪州中銀(RBA)は5月と8月に利下げし、英中銀(BOE)も7月に利下げを実施。主要新興国では韓国中銀(BOK)が6月に利下げを実施している。

しかし、2017年は日銀もRBAも様子見姿勢に徹し、BOEは11月に約10年ぶりの利上げを実施した。欧州中銀(ECB)も事実上の量的緩和ペース縮小(テーパリング)に着手。BOKも11月に約6年ぶりの利上げを決定しているほか、カナダ中銀(BOC)も7月に約7年ぶりの利上げに踏み切った。通貨防衛ではなく、堅調な経済を背景に複数の中央銀行が引き締めを採用したのは実に久しぶりだ。

背景にはもちろん、景気動向の変化がある。経済協力開発機構(OECD)の予想によれば、OECD加盟35カ国に新興国10カ国を足した45カ国において、2017年はマイナス成長となる国がなくなる模様だ。世界同時回復は2007年以来10年ぶりである。

中国経済の堅調も大きい。深刻な地方債務問題を理由に、ここ数年は同国経済に対して辛口予想が多かったが、事実上の統制経済のもとで成長を維持している。2017年秋の5年に一度の共産党大会で「習近平の新時代」を打ち出し、中華民族の偉大な復興のため「経済建設の重大な成就」を成すとしたなか、2018年も中国は底堅い成長を維持する可能性が高いとみている。

<低金利・株高基調のゴルディロックス継続へ>

2017年、最も目を引いた大きな変化は世界的な株価上昇だろう。4月を除いて毎月史上最高値を更新した米S&P500指数だけでなく、2016年はマイナスだったユーロストックス600や、ほぼプラスマイナスゼロだった日経平均株価も、2017年は上昇基調を描いている。

日欧の企業は2016年まで業績下方修正が多かったが、2017年に入って以降は12カ月先の予想1株当たり利益(EPS)が右肩上がりだ。加えて、米国や新興国の同指標は日欧を上回る伸びをみせている。

一方、世界中で足取りが鈍いのが物価上昇率だ。背景としては、グローバル化やインターネットなどの技術革新、高齢化といった人口動態などの構造変化も指摘される。ただ、この物価上昇率の鈍さが、各国中銀の引き締めを緩やかなものにし、低金利・株高の適温(ゴルディロックス)相場を引き起こしている。

2018年も、基本的には2017年の環境を引き継いでゴルディロックス的な状況が続き、世界経済がリーマン・ショック後の不景気から脱却する動きが継続する展開を予想している。物価が上昇したとしても非常に緩やかなものにとどまるだろう。これにより中央銀行の引き締めも緩やかなものになり、世界の金融政策はなお緩和的な状態が続くことになる。また、中国経済の底堅さは継続し、中国の需要に加えて産油国の生産調整などから資源価格も安定した状況が続くとみている。

さらに、2018年の企業業績も12カ月先の予想EPSが伸びていることから堅調なものとなり、株式市場を下支えするだろう。株価の堅調な値動きはマインド改善につながる。米国の減税措置など各国の財政政策も回復を後押しするだろう。基本的に株式市場には強気の材料となり、長期金利もやや押し上げられるのではないか。

<ドル円の主戦場は112―118円か>

このような前提のなか、為替市場の構図を考えてみたい。

2017年は主要通貨に対してドルがほぼ全面安になった。背景として、1)2016年終盤のドル大幅上昇に対する調整、2)トランプ政権への失望、3)経済が上向いて金融引き締めに転じた国が出てきたなかで、そうした国の通貨が上昇することによるドル安、の3つがある。

一方で、強力な緩和が続く円も、どちらかと言えば、売られた通貨だ。結果、ドル円は上記1番目の理由によって年序盤に下落後、ドル安・円安の構図のなかでおおよそ1ドル=108―114円台のレンジ推移に終始した。ユーロやポンド、豪ドルなど他の主要通貨は、ドルに対しても円に対しても上昇している。

年序盤以降の構図としては、「景気浮揚や金融緩和策の変更が認められた通貨(ユーロなど)」が一番強く、その次が「米ドル」と「円」、そしてその後を「政治不安など悪材料のあった通貨」が続くことになった。

2018年の経済環境が2017年の延長線上となり、世界経済が「リーマン・ショック後からの脱却」をさらに進めていくというシナリオのもとでは、通貨の強弱も2017年の構図を引き継ぐ形となろう。

構図としては強い順に「景気浮揚や金融緩和策の変更が認められた通貨」「米ドル」「円」「政治不安など悪材料のあった通貨」となることを予想している。結果、ドル円よりもクロス円の上昇が顕著となりやすい。世界の成長が続けば、2017年に最も強い通貨の分類だった「景気浮揚や金融緩和策の変更が認められた通貨」は増える可能性が高い。

ドルと円は、ロシア疑惑などトランプ政権に対する懸念は継続する一方で、景況感格差や金融政策の方向性も明らかだ。2018年はトランプ大統領の政権運営に対する慣れと期待の低さから、この悪影響よりも実体経済の格差や金融政策の方向性の方が材料視されるとみている。ドル円はこれまでのレンジを上方にブレイクし、主戦場は112―118円程度のレンジになるのではないかと予想している。

なお、2017年に上昇した英ポンドについては英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)問題に絡み、徐々に「政治不安など悪材料のあった通貨」に分類される可能性があり、注意が必要と考えている。

北朝鮮や欧州の分断、米中間選挙での共和党大敗や、インフレ率の急上昇など、いくつかのリスクはあるが、基本的には世界経済の回復が進むなか、ドル円はファンダメンタルズを反映したドル高円安方向をメインシナリオとしている。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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