January 16, 2018 / 6:27 AM / 7 months ago

コラム:ドル全面安の賞味期限、110円で底入れか=鈴木健吾氏

[東京 16日] - 2018年に入り、為替市場では主要先進国・新興国通貨に対してドルが全面安の展開となっている。ドル円相場も年初一時1ドル=113円台前半まで上昇する場面があったが、その後の1週間で110円台前半まで反落し、インターコンチネンタル取引所(ICE)のドルインデックスも90.4とほぼ3年ぶりの低水準を付けた。

2017年末の米税制改革法案成立などを背景に、年初よりドル高を見込んだ向きは出鼻をくじかれるスタートとなっている。このドル安傾向は続くのだろうか。

<中国の米債報道は政治的駆け引き>

米国(ドル)サイドの材料をみると、昨年末に米政府・議会は難しいと思われた税制改革法案の年内成立に成功している。この効果に対する期待もあって、年初より米国株式市場では主要3指数がそろって史上最高値を更新した。

さらに、米長短金利も比較的大きく上昇。この間発表された米指標は、住宅関連指標や12月ISM製造業指数、同コア消費者物価指数や同小売売上高など全般的に米国経済の成長傾向を改めて印象付ける内容だった。これらはいずれもどちらかといえばドル買い材料だ。あえて悪材料を挙げれば12月ISM非製造業指数や同非農業部門雇用者数が事前の市場予想を下回るものになったが、水準的に落胆するような内容ではない。

ただ、米国以外の要因に目を向けるとドル売りを誘発する材料がいくつか目につく。9日には日銀の国債買い入れオペ減額が量的緩和ペースの縮小(テーパリング)観測につながり、円買いからのドル売り材料になった上、10日には中国が米国債の購入を減少ないし停止させる可能性が報じられ、これも米国債の売り(米金利の上昇)とドルの下落につながった。

また、11日には欧州中央銀行(ECB)理事会議事録(12月14日開催分)でフォワードガイダンスの変更を議論していたことが明らかになったことや、ドイツで大連立協議が前進したことがユーロの上昇を通じたドルの圧迫材料となった。

中国による米国債購入減少・停止報道に関しては、関係者の話として対米貿易関係に緊張があることが理由として挙げられており、貿易問題で米国をけん制する狙いが指摘されている。しかし、すでに世界最大の外貨準備を保有する中国が流動性の面から米国債を大きく減らす選択肢は考えにくい。

加えて、今回の局面でもみられた通り、米国債需給の悪化懸念が強まればドル安が人民元高をもたらす。すでに2017年半ばより人民元は対ドルで大幅に上昇しており、さらなる人民元高は貿易黒字国である中国自らの首を絞めかねない。

実際、これが報じられた翌日に中国国家外為管理局(SAFE)がこの報道を否定したことからも、あくまで政治的な駆け引きの1つとみるべきだろう。目先、トランプ米政権が中国に対する巨額貿易赤字を減らすために検討してきた制裁措置の実施を月内に判断するとされており、その動向には一定の注意が必要かもしれないが、現実的に中国が米国債の購入を大きく減額・停止することはないとみている。

<米国材料を無視したドル全面安の限界>

日銀は9日のオペで残存10―25年と25年超のオファー額をそれぞれ100億円ずつ減額した。特に10―25年は、2018年度の国債発行計画で発行が減額された年限ではなく、2017年には常に同額のオファーが行われていただけに、為替市場ではテーパリング観測につながり、円高を通じたドル安材料となった。

しかし、少なくとも目先は日銀が緩和縮小を強く打ち出すとは思えない。日銀が前年比プラス2%を目標とする消費者物価指数は11月分で同0.6%と遠い。変動の大きい食品やエネルギーを除くと同0.3%という水準であり、所定内給与も同0.4%程度。つまり所得も物価もようやく水面上に顔を出したレベルにすぎないということだ。

加えて、日銀には過去の苦い経験がある。2000年のゼロ金利解除も2006年の量的緩和解除も、長くはもたなかった。3度目の失策は避けたいところであり、基本的には声明にある通り、2%を安定的に持続するために必要な時点まで慎重な姿勢を続けるだろう。

むろん、いわゆるステルステーパリングは今後も続くのだろうが、あくまで積極緩和姿勢を前面に出しつつステルス調整に終始するとみられる。今回の騒動で金利が上昇した場合、2017年2月のケースと同様に、10年国債利回り0.11%近辺では指値オペも辞さないだろうと思われる。

前回のコラムで2017年序盤以降の為替市場の序列として、「景気浮揚や金融緩和策の変更が認められた通貨(ユーロなど)」が一番強く、その次が「米ドル」と「円」、そしてその後を「政治不安など悪材料のあった通貨」との構図になっていると指摘したが、改めて景気浮揚と金融政策変更期待がユーロを押し上げた格好だ。本来、円はドルとともに売られる通貨だが、今回は日銀のテーパリング観測によって円高となってしまった。

また、中国の米国債購入に絡む報道により、米金利とドルの動きも過去の相関から大きく乖離(かいり)してしまっている。ここ2年の米10年債利回りとドル円の単純な回帰式からは、10年債利回りが2.55%の水準ならばドル円は115円を上回っていてもおかしくはない状態だ。

ただ、そもそも米国の材料を無視し、米国以外の材料に基づいたドル全面安の継続は難しいとみられることや、前述の通り、日銀と中国の話題の持続力は限定的にとどまると思われることなどから、今回のドル円相場の下落は徐々に収束すると予想している。

現状、テクニカル的にドル円の下落トレンドが明確であることから、目先はなおドルの下値を模索する動きもあるだろう。だが、1)昨年9月の安値と11月の高値の61.8%押し水準が110.10円近辺であること、2)110.00円は心理的節目であること、3)12月日銀短観における大企業製造業の想定為替レート(110.18円)水準より下では買い意欲が強まると思われることなどから、年初からの短期下落トレンドは1ドル=110.00円割れ水準で底入れしていくのではないかと考えている。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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