June 15, 2018 / 9:03 AM / a month ago

コラム:トランプ劇場と金融政策が奏でるドル円予想レンジ=鈴木健吾氏

[東京 15日] - ドル円相場は2018年序盤、米国株の急落や地政学リスクなどいくつかの材料が影響して急激なドル安円高となる場面もあったが、その後徐々に落ち着きを取り戻した。

 6月15日、みずほ証券チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は、ドル円相場について、夏場にかけてファンダメンタルズと金融政策が下支えし、貿易戦争への懸念が上値を抑える状況が続くと予想。写真はディーリングルームのテレビ画面に映るトランプ大統領。都内の金融機関で2017年2月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

4月終盤以降は過去1年間の平均値である200日移動平均線(6月15日現在、110.20円程度)からおおむね上下1.5%程度の小幅なレンジ内でもみ合う展開がみられている。

地政学リスクなど一部材料が市場から退出しつつある中、米国のファンダメンタルズの強さとこれを背景とした利上げ加速期待がドル円を下支え、一方で、貿易問題や新興国市場の動向などに関するリスクが上値を抑える構図となっているようだ。

年後半もこれらがドル円のドライバーとなる可能性が高いとみているが、直近、日米欧の金融政策決定会合が開催され、また貿易問題に関してもいくつか新しい動きがあった。足元の動向と今後の相場に対する影響について、簡単に整理してみたい。

<日米欧金融政策はドル円の下支え要因>

日本時間14日早朝に結果が公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、大方の想定通り0.25%の利上げを実施した。

2018年の実質国内総生産(GDP)、2019年にかけてのインフレ率、2020年にかけての失業率も改善方向に修正したことや、声明文中の「フェデラルファンド(FF)金利は長期的に適切な水準を下回る状況が続くと予想している」という文言が丸ごと削除されたこと、そして、いわゆるドットチャートにおける2018年および2019年末の政策金利予想水準が引き上げられたことなど、総じてタカ派的な内容だった。

今後数年、潜在成長率とみなされる長期的な均衡成長率(1.8%)を超える成長が期待される中、これに対応する形で緩やかな利上げを継続し、徐々に正常化から引き締めへ入っていくとの道程はおおむね市場のコンセンサスとみていいだろう。

この引き締め効果によって米景気は2019年終盤から2020年にかけて徐々に鈍化に向かう可能性が高いとみているが、それがオーバーキル(過剰引き締め)になるかどうかを判断するのは時期尚早だ。足元の米経済は減税効果もあって堅調な状況が続いており、今後少なくとも1年程度は続くとみられる米国の経済成長とFRBの利上げ姿勢はドルの下支え要因となるだろう。

14日の欧州中央銀行(ECB)理事会は、資産購入プログラム(APP)の規模縮小と年内の終了、少なくとも2019年夏まで現行の政策金利水準を維持する方針を決定した。足元の経済減速を認識しつつも、ユーロ圏経済は基調的に堅調で、中長期的にはインフレ率は目標水準に向かって上昇し、APPの段階的な縮小後もその水準が維持される見込みであると評価した。

ECBスタッフによる経済見通しにおいては、2018年の実質GDPを下方修正したものの、2019年にかけてのインフレ率と2020年にかけての失業率について改善方向に修正。ただ、市場の反応は、金利低下・株価上昇・ユーロ下落といった動きとなった。

背景には、「期待ほどタカ派的ではない」との評価があったと思われる。これは、1)6日にプラート専務理事がタカ派的な発言を行っていたことで市場の期待値がかなり強気に傾いていたこと、2)声明で少なくとも2019年の夏までは利上げを行わない方針が示されたこと、3)理事会後の記者会見でドラギ総裁が利上げについては議論しなかったとしたこと、などが影響したのだろう。

しかし、直後の評価はともかくECBの打ち出した方針は、年内の量的緩和の終了と将来の利上げ方向への転換である。目先は投機筋のユーロロング・ポジションの積み上がりなどもあってユーロは軟調な動きを示すとも思われるが、少なくとも対円では徐々に底堅さを増していくのではないかとみられる。

本日15日には日銀金融政策決定会合が開催され、金融政策の現状維持が決定された。声明もおおむね前回の内容を引き継ぐものとなったが、1点、物価の現状判断について前回「消費者物価の前年比は1%程度となっている」としていた部分が「0%台後半となっている」に引き下げられた。

消費者物価の前年比2%を「物価安定の目標」として実現を目指し強力な緩和を続ける日銀にとって、その達成までの距離は足元縮まるどころか開いている。物価の見通しを引き上げた米連邦準備理事会(FRB)、ECBとの違いも鮮明だ。2019年10月に消費増税が予定されていることも加味すると、日銀の強力な緩和姿勢はより長期化する可能性が高まった。

今回示された日米欧金融政策の方向性や認識などの違いは、当面、金融政策を理由とした円買い圧力は限定的なものにとどまることを示唆している。中長期的なドル円相場の下支え要因となるだろう。

<主戦場は108円台半ばから112円前後か>

一方で、ドル円の上値を押さえる要因として指摘した貿易問題も、今後数カ月にわたって市場の材料となりそうだ。

カナダで8―9日に開催された主要7カ国(G7)首脳会議では、通商政策を巡って米国と6カ国の対立が鮮明となった。トランプ米大統領は米朝首脳会談のため途中で席を立ったが、G7首脳宣言の承認を拒否し、対立は解消しないままだ。

加えて、本日15日には米国が中国からの500億ドル分の輸入品についての関税引き上げリストを公表し、その後速やかに関税を適用する見込みだ。中国はこれに対して激しく反発し、500億ドル分の報復関税を行うことや、これまで積み上げた米中貿易協議での合意内容を白紙に戻す意向を表明している。

20日には欧州委員会が米国による鉄鋼・アルミニウムへの関税に対する報復措置を決定し、7月1日からの適用を実施する見込みだ。これら中国や欧州連合(EU)の対抗措置をトランプ大統領が甘受するとも思えず、今後報復関税の応酬になっていくリスクが高まっている。

関税の応酬を繰り返す貿易戦争状態となればドル円は大きく下落する可能性がある。米通商政策を嫌気したドル売りとリスク回避の円買いというだけでなく、貿易量の減少と物価の上昇は米国の成長率を大きく引き下げ、FRBの利上げもストップさせるだろう。

米国のみならず、世界経済への影響も深刻となろう。経済協力開発機構(OECD)の試算によれば貿易コストが10%上昇すると、世界経済の成長率は1.4%程度引き下げられる。

問題はトランプ大統領がどこまでやるかにかかっているが、基本的には主に以下の3つの理由から中間選挙前の夏から秋にかけて決着する可能性が高いと考えている。第1に、11月6日に予定される米中間選挙に向けたパフォーマンスの一環であると思われること。第2に、米国経済や金融市場への悪影響が非常に大きくなるとみられること。第3に、結局、関税による物価上昇は米国の消費者が負担することにななり、行き過ぎれば支持率を失う可能性があるためだ。

しかし、その手前では、「トランプ劇場」において対中国、対欧州との激しいやり取りが繰り広げられる可能性が高い。これはドル円の上値を抑制する要因となるだろう。

ドル円相場は目先夏場にかけてファンダメンタルズと金融政策が下支え、貿易戦争への懸念が上値を抑える状況の継続を予想している。前述の200日移動平均線プラスマイナス1.5%のレンジである、108円台半ばから112円程度が主戦場となる展開が続くのではないか。その後、上記予想通り貿易戦争リスクが後退すれば、改めて金融政策の方向性の違いなどを背景にこのレンジを上抜く展開をメインシナリオとしている。

鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。

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