July 13, 2018 / 7:29 AM / 4 months ago

コラム:貿易戦争収束後のドル円急上昇シナリオ=鈴木健吾氏

鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト

 7月13日、みずほ証券・チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は、ドル円について、テクニカル的にもち合い離れの転機となる前兆がみられ、貿易戦争への懸念が低下すれば上方向に発散する可能性が高いと指摘。写真はドル紙幣、トルコで2017年11月撮影(2018年 ロイター/Sertac Kayar)

[東京 13日] - 貿易戦争への懸念から金融市場全体に警戒感が強まる中、為替市場ではリスク回避を理由にドルや円、スイスフランなどの「安全通貨」が上昇する場面がみられてきた。

ドルも円も買われる通貨となった結果、ドル円は5月以降約2カ月にわたり109円から111円を中心とした狭いレンジでの値動きが続いた。しかし、ここにきて徐々に円よりもドルの強さが勝り、7月10日には過去2カ月間のレンジを上抜いて約半年ぶりの112円台を示現する動きをみせている。

「リスク回避の円買い」という傾向の強い為替市場において、貿易戦争に焦点が当たる中でのドル高円安には、正直、違和感もある。

振り返れば「リスク回避の円買い」という言葉が頻出するようになったのは、2007年のサブプライム危機や2008年のリーマン・ショック、2009年前後から顕著になった欧州債務危機などの経済危機が起きたころからだ。これより昔は「有事のドル買い」という言葉がよく使われていた。

国際決済銀行(BIS)によれば、2007年当時の世界の通貨取引はドルとユーロ、円とポンドの4通貨で全体の約8割近くを占めていた。欧米を震源地に世界経済が動揺する中で、流動性や安全性から消去法的に円が選好され、「リスク回避の円買い」が引き起こされたとみられる。実際、これにより2007年以降、円は各通貨に対し大幅に上昇した。

しかし、当時とは違い足元の米国経済は非常に良好だ。加えて、貿易戦争懸念が商品価格の下落を通じて逆相関傾向の強いドルの押し上げ要因となっていることや、良好な企業業績と減税による米企業のレパトリ(本国への資金還流)などが、貿易戦争が懸念される状況下においても「リスク回避の円買い」を上回るドル買いを引き起こしている可能性がある。

<テクニカル分析が示す「上方向への発散」サイン>

こうした動きにより、テクニカル的にも目先ドル円の上昇に勢いがつく可能性が出てきた。

ドル円は年序盤、約3カ月にわたって明確なドル安円高トレンドを描き、年初の113円台から3月の104円台まで一方的に下落した。そこから約1カ月間の反発局面を迎えると5月初めには110円台を回復し、その後は2カ月強の間、過去約1年の平均値である200日移動平均線(110円台前半)を挟み、上下約1%程度の狭いレンジでのもみ合いが続いてきた。

2カ月以上にわたるもみ合いの結果、110円台前半には200日移動平均線に加え、50日移動平均線、20日移動平均線など複数の移動平均線が収束してきている。テクニカルの教科書的には、「移動平均線の収束は相場の煮詰まり感を示し、近くもち合い離れの転機となる前兆」とされている。

今回、約2カ月間続いたレンジを明確に上抜いて半年ぶりに112円台に乗せたことで、この収束が終了し上方向への発散がスタートした可能性がある。年初からの値動きのパターンからは、今後1―2カ月程度かけて年初来高値113円台を上抜く動きへつながる可能性が高いとみている。

<ドル円の上値余地は最大120円>

もっとも、このドル買いが続くかどうかはトランプ米大統領の通商政策次第だ。貿易戦争の激化によって良好な米国経済に陰りが見え始めればそれ自体が嫌気される上、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを見送るとの観測による米金利低下からドルが急落に転じる可能性は捨て切れない。

トランプ大統領の通商政策については、前回6月15日付のコラムでも書いた通り、1)11月6日の中間選挙に向けたパフォーマンスの意味合いが大きいと考えていること、2)米国経済と金融市場に対する悪影響が非常に大きくなる恐れが強いこと、3)関税引き上げによる物価上昇は結局、米国民が負担することから、行き過ぎれば支持を失う可能性があること、などから最終的には態度を軟化させ、1930年代のような深刻な貿易戦争への突入はテールリスクだろうと考えている。

基本シナリオとして、目先引き続きトランプ大統領は強硬姿勢を崩さずに関税の導入を主導するものの、株価の下落や米国内からの反発、貿易相手国からの働き掛けなどにより交渉のテーブルにつき、相手国からある程度の譲歩を引き出すことで上乗せ関税を一部取り下げ、市場は徐々に落ち着きを取り戻す展開を想定している。

もちろん、一気に関税が全て取り下げられ、問題がすっきりと解決するものではないだろう。一部関税やそれに関する相手国との交渉や非難合戦はある程度続くとみられるが、事態の悪化に歯止めがかかり、少しずつでも緊張が緩和に向えば市場は安堵するとみている。

ドル円は今年、年初の高値113.40円から3月の安値104.64円まで上下8.76円の値動きとなっている。すでにこれで年間の上下が終わってしまったのではないかとの見方もあるようだが、筆者はそう考えていない。

通商問題が鍵となり、これが話し合いや緊張緩和方向に向えば、リスクオンや米国の好調な経済とFRBによる利上げなどを評価して上方向に、逆に終わりの見えない貿易戦争に突入するリスクが高まれば下方向に、これまでのレンジを抜ける可能性が高いと考えている。

変動相場制が始まって以降のドル円の年間最小値幅は2015年の10.01円、昨年までの過去10年間の平均年間値幅はおよそ16円程度だ。年初の113.40円が今年の高値だと仮定すれば、過去最小値幅でも103円程度、平均値幅なら100円割れ程度へ下落する可能性がある反面、3月の104円台を今年の安値と仮定すれば、上値は114円から120円程度という数字となる。

基本的にはこれまで同様、深刻な貿易戦争が回避に向かい、ドル円はファンダメンタルズ格差などを背景に上方向にブレークするとの見方をメインシナリオとして維持している。

鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below