August 15, 2018 / 6:32 AM / a month ago

コラム:トルコ・ショックは世界金融危機の火種となるか=鈴木健吾氏

[東京 15日] - トルコリラは10日、対ドルで20%前後の急落をみせた。翌週13日にかけてはリスク回避傾向が加速し、世界中の株価指数が下落。為替市場では新興国通貨が軒並み下落する反面、安全通貨とされる円やドル、スイスフランが上昇する動きとなった。

 8月15日、みずほ証券チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は、今回のトルコリラ急落は世界経済の急激で大幅な悪化を招くきっかけとはならず、市場は徐々に一定の落ち着きを取り戻していくと分析。写真中央は米ドル、下はトルコリラ。イスタンブールで8月撮影(2018年 ロイター/Murad Sezer)

にわかにトルコを巡る懸念が米中貿易戦争懸念に並び、グローバル経済のリスク要因として浮上した。

もともとトルコリラは年初より下落基調にあった。経常赤字の大きさやインフレ率の高さなどがファンダメンタルズ面で材料視され、政治的にはエルドアン大統領の強権的な政治姿勢が嫌気されていた。

これに加えて10日にはトルコで軟禁中の米国人牧師を巡り米国との対立が先鋭化したことや、欧州の銀行が抱えるトルコ向け債権の大きさを欧州中銀(ECB)が懸念しているといった報道などがきっかけとなり、トルコリラの急落につながった。

この結果、トルコ同様に高インフレや経常赤字を抱えるアルゼンチンペソも急落し、同国中銀は13日、通貨防衛のための緊急利上げに追い込まれている。また、トルコ向け債権が大きいとして名指しで報道されたイタリアやスペインの銀行の株価も13日にかけて7―8%もの急落を演じた。

今回のトルコリラ急落が、1997年のアジア通貨危機のような新興国通貨の連鎖的な急落や、欧州銀行の破綻など金融危機の火種となり、グローバル経済を大幅に悪化させるとの懸念が台頭したのである。

<局地的な悪材料か>

だがその後、株式市場が多少の反発をみせるなど、事態の悪化に一定の歯止めがかかっている。結論から述べると、今回のトルコリラ急落が世界経済を揺るがす危機にまで拡大する可能性は低いと考えている。

インフレ率や経常赤字は新興国の中でもトルコとアルゼンチンが頭ひとつ抜けている。国際通貨基金(IMF)によれば、アルゼンチン、トルコに次いで高インフレなのはメキシコだが、その水準はトルコの半分程度であり、経常赤字も対GDP(国内総生産)比でみれば数分の1に過ぎない。他の新興国通貨も「同類」とするにはやや無理がある。

また、国際決済銀行(BIS)によれば、トルコ向け貸出に占める欧州銀行の割合は74.8%と極めて高いが、欧州銀行からみたトルコ向けの貸出は全体の1%強にすぎない。この一定程度が不良債権化するとしても、金融システム不安につながるとの懸念は悲観的過ぎる。

グローバルなリスク回避の連鎖につながらなければ、あくまで局地的な悪材料の1つということになる。名目GDPで世界21位のアルゼンチンが今年5月にIMFに金融支援を要請した際にも世界の金融市場の動揺は限定的にとどまった。トルコの名目GDPはアルゼンチンよりも3割ほど大きく世界17位だが、世界の金融市場への影響は限定的とみられる。

ただ、トルコ自身にとって状況は深刻だ。トルコは危機対応として、スワップなどの資本規制や流動性の供給、銀行の自己資本ルールの一時的な緩和などを行ったが、いずれも問題の根本的な解決にはならないだろう。特に資本規制は経常赤字を補てんする資本流入の妨げとなり、さらなるトルコリラ安圧力につながる可能性もある。

トルコの実体経済はこれまでのところ堅調だが、足元のリラ下落が続けば、輸入物価の急激な上昇や外貨建て負債を抱える企業・金融機関が破綻する可能性、また海外投資家の資金引き揚げなどといった悪影響が拡大する可能性がある。

<安保・難民問題に要警戒>

トルコがこうした悪循環を避けるためには取り急ぎ、1)米国との関係改善、2)中銀の大幅利上げ、が必要となろう。

米国との関係改善には、2016年のクーデター未遂に絡んで軟禁状態にある米国人牧師の解放が最も手っ取り早いが、エルドアン大統領は今のところこれを否定。一方で、駐米トルコ大使がボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と13日に面会し、この問題を協議したとの報道もあり、何らかの進展があるかもしれない。

トルコ中銀は利上げ期待の高かった7月24日の会合で利上げを見送った。エルドアン大統領の強硬な利上げ反対姿勢が影響しているとされ、市場はこれを嫌気した。今回のリラ急落局面でトルコ中銀が毅然とした態度を示せれば市場の安心感につながるとみられる。

これらの対策が行われればリラは一定程度反発し、懸念は徐々に解消に向かうだろうと考えている。

ただ、今回のトルコ問題の中長期的な懸案事項として、欧州の政治に与えるリスクには一定の注意をしておきたい。具体的には安全保障問題と難民問題だ。

トルコは地理的にロシアに近い北大西洋条約機構(NATO)の一員だが、足元、米国との関係が悪化する一方、ロシアとの距離が縮まっている。エルドアン大統領の「新たな友人や同盟を探し始めなければならなくなる」との発言も気掛かりだ。

また、トルコは欧州連合(EU)との合意に基づいてシリアなどから欧州への難民流入の堰(せき)となっている。難民問題がドイツのメルケル政権を揺るがしたことは記憶に新しい。

このような点やトルコ側の対応などに今後も一定の注意が必要ではあるものの、今回のトルコリラ急落はグローバル経済の急激で大幅な悪化を招くきっかけとはならず、市場は徐々に一定の落ち着きを取り戻していくのではないかとみている。

鈴木健吾氏(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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