April 14, 2016 / 7:11 AM / 3 years ago

コラム:投機主導の円高は短命、ドル円反発へ=鈴木健吾氏

[東京 14日] - 新年度入り早々、ドル円は年初来安値を更新し、約1年5カ月ぶりの1ドル=107円台までドル安円高が進む展開となった。この動きについては、3月29日にイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が講演でハト派的な発言を行ったことによって米利上げ期待が大きく後退し、ドル安円高圧力につながったとの解説がよく聞かれる。

確かに同日のイエレン発言をきっかけにドル円の短期トレンドは下落方向に転換しており、これがその後のドル安円高の「きっかけ」となった。しかし、107円台までの下落をみると、必ずしも「米利上げ期待の後退を背景としたドル売り」とは言えないようだ。

上記イエレン発言のあった3月29日から翌週の週末4月8日にかけて、ドル円は113円台後半から一時107円台後半まで急激なドル安円高が進んだが、この間の、当社の主要取り扱い通貨12通貨の騰落率を並べると、面白い結果となった。

ドルよりも英ポンドやメキシコペソの方が下落しており、豪ドルも対ドルでほとんど動いていない。12通貨のなかでドルは、どちらかと言えば弱い通貨であるものの、決して「ドル全面安」という状況ではない。

一方で同期間に群を抜いて上昇した通貨がある。円だ。つまり、113円台から107円台への下落は、「米利上げ期待の後退を材料としたドル売り」ではなく、円買いだ。実際のところは、「米利上げ期待の後退をきっかけに、ドル円が心理的節目110.00円などを下抜いて、約1年5カ月ぶりの安値を断続的に更新する動きとなり、この流れに介入の可能性は低いとみた投機筋が参戦。急激な円高を示現した」という動きだったのではないか。

したがって、米国の金融政策動向は建前やきっかけに過ぎず、実際にはテクニカルなトレンドやそれに便乗した投機筋の動きが直近の急激な円高を演出している可能性が高い。

実際、4月1日の日銀短観の悪化や米雇用統計の良好な内容をほぼ無視してドル安円高が進んだことや、投機筋のポジション動向をみる際によく参照される、シカゴ国際金融市場(IMM)の非商業部門の円買いポジションが過去最高水準に積み上がっていることとも整合的だ。このような動きが主体だとすれば、先行きを占ううえでテクニカルなターゲットを知ることは重要となる。

また、当局にとっては投機的な動きをけん制するうえで、介入というカードを温存する(かに見せかける)ことも重要となるだろう。

<コアレンジは引き続き1ドル=109―119円>

テクニカルなサポートポイントとしては105円から106円近辺の水準が非常に重要だ。これらのポイントは2月19日の当コラムでも指摘した通り、ヘッド・アンド・ショルダーやフィボナッチ級数などのテクニカル分析から導かれる。

加えて、年間値幅から考えても妥当な線だ。2000年以降のドル円相場における高値と安値の平均値幅は約15.90円、同かい離率は約14%。今年の高値は今のところ1月29日の121.70円だが、これに値幅を当てはめると、105.80円、下落率を当てはめると104.66円になる。

さらに、経済協力開発機構(OECD)が算出する2015年の購買力平価は106.043円、世界銀行が算出する2014年の購買力平価も104.72円となっており、ファンダメンタルズからも妥当な水準だ。ドル円相場は下落トレンドのなか、上記105―106円水準をターゲットとした動きになっているとみられる。

しかし、日本当局にとってこの水準へ円高を容認することはリスクが大きい。第1に、相場に勢いがつけば、必ずしもこの水準で止まるとは限らない。105円水準を下抜けた場合には、次の心理的節目である1ドル=100.00円近辺を目指す動意が強まる可能性がある。

また、105円で止まったとしても、ダメージは大きい。4月1日に公表された日銀短観によれば、大企業製造業の2016年度の想定為替レートは117.46円。ここから10%円高になった水準が105.71円となる。我々の試算によれば、10%の円高は東証1部上場銘柄の経常利益を6%程度下押し、これを反映して株価も下落するだろう。加えて、円高は輸入物価の下落を通じてデフレ圧力をかける。

日本の現状を確認すると、10―12月期の国内総生産(GDP)はマイナス成長であり、物価も低迷している状況だ。このうえさらに円高、企業業績悪化、株価下落、デフレ圧力となれば、消費増税どころではなくなる。直近では5月の主要国首脳会談(伊勢志摩サミット)に先立ち、安倍首相が米国を訪問してオバマ大統領と会談し、「先進7カ国(G7)が世界経済をけん引していかなければならない」と述べたとされる。サミットのホスト国としての面目も丸つぶれになりかねない。

このような状況下、円高阻止に向けて麻生太郎財務相や菅義偉官房長官などが口先介入を繰り返している。実際にできるかどうかよりも、介入というカードは存在している姿勢を一貫することが投機筋に対する一定の歯止めとなるだろう。4月14日から15日にかけて行われる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも介入を全否定する流れだけは避けたいところだ。

もっとも、前述の通り、直近みられたドル円の急激な下落がファンダメンタルズを反映しているというよりも、テクニカルなトレンドに投機筋が便乗したものだとすれば比較的短命に終わる可能性が高い。

言うまでもないが、上記の通り日本経済の状況は非常に厳しく、日銀が検討しているのはマイナス金利拡大を含む追加緩和。一方で米国は緩やかな景気回復が継続しており、FRBは中国などの外部要因を配慮しつつも、検討しているのは利上げだ。この傾向は目先だけでなく数年単位で続く可能性があり、結果として金利差拡大を通じて中長期的にもドル円をサポートするだろう。

目先も、日銀に対しては4月もしくは7月の追加緩和の有無、FRBに対しては6月の利上げの有無に対する注目度が高い。投機筋のポジションも積み上げ余地が減少するなか、口先介入などによって時間を稼ぎ、過熱感が払しょくされていけば、早晩、ドル円は節目となった1ドル=110円を回復するだろうとみている。

基本的にはこれまで同様、109―119円といったレンジをコアとした見方を継続しており、一時的には投機的な動意の強まりなどによってこのレンジを外れることはあっても、あくまで一時的にとどまるだろうと考えている。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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