July 14, 2016 / 8:46 AM / 2 years ago

コラム:行き過ぎた円高、ドル円の反発余地は=鈴木健吾氏

[東京 14日] - 先月半ばの当コラムで、筆者はドル円の見通しについて、「100円から105円近辺で底値を形成し、その後やや反発、年後半は105円から115円といったレンジを中心とした動きになる」と予想した。

ところが6月24日、英国で予想外の欧州連合(EU)離脱が選択されると、ドル円は流動性が枯渇するなか滑るように急落し、想定していた下限である100円を割り込み、99.00円をつける動きとなった。引き下げ方向の見直しは必要なのだろうか。

結論から言えば、筆者はその必要はないと考える。「リスクの後退」「テクニカルな過熱感」「ファンダメンタルズ」などを理由に、100円近辺、もしくはこれを割り込む水準は一時的にとどまり、年後半の中心的なレンジは105円から115円近辺になる展開を引き続きメインシナリオとしている。以下、その根拠を説明しよう。

<第2のリーマン・ショックは杞憂>

昨年から今年前半にかけては、いくつかのリスクの高まりが円高の要因とされてきた。特に「原油価格の急落」「中国経済への懸念」「米国景気の減速懸念」などが材料視され、直近では英国のEU離脱選択が円高をもたらした。しかし年後半にかけては、このようなリスクに対する危機感は緩和されていくだろうとみている。

実際、原油価格は産油国間の対話がスタートしたことなどにより反発に転じている。米国のシェールオイル産出のための掘削(リグ)も大きく減少しており、年後半に再び原油価格が安値を更新するような動きは想定していない。原油価格の反発はリスクを通じた円高圧力の後退だけでなく、貿易収支の悪化というファンダメンタルズ面でも円安圧力につながる。

中国経済は楽観できる状況ではないものの、緩やかな軟着陸を目指して当局がなりふり構わぬてこ入れ策を実施しており、目先の危機感は後退している。ソフトランディングできるかどうかはなお予断を許さないものの、その結果が判明するのは今年ではなく数年後になるのではないか。

加えて、米国では外部環境の不透明さなどを理由に、利上げの先送りが続いているものの、直近7月に入って発表された雇用統計など複数の経済指標からも「経済の緩やかな回復傾向」は改めて確認されている。業績の改善期待を背景にNYダウ・SP500とも史上最高値を更新しており、この動きは資産価格や雇用、賃金などの経路を通じて年後半も米経済を下支えする要因となるだろう。

英国のEU離脱に対する影響、評価はなお不透明感が強いものの、貿易などを通じた直接的な世界経済への悪影響は軽微にとどまる見込みだ。世界的な株の下落など金融市場の動揺も、7月半ばを迎えるなかで、徐々に落ち着きを取り戻しつつある。

一部には不動産などの英国資産の急落を受けたファンドの損失や金融機関の不良債権の増加など、不動産バブル崩壊がバランスシートの毀損を通じて金融システム不安へとつながったリーマン・ショックを思い起こさせる状況がみられるが、当時よりも危機管理に関する規制や対策が進んでいることや、離脱選択の場合に備えて金融当局が一定の準備をしていることなどもあり、英国のEU離脱は第2のリーマン・ショックにはならないと考える。

メイ新英首相も就任し、EUに対する離脱の通告も年単位で先延ばしされる可能性も出てきたなか、「不安はくすぶるものの、これまでと変わらない」状況となるのではないか。スコットランドの独立を問う動きには注意が必要だが、年後半、英国のEU離脱問題が世界経済に及ぼす悪影響は直後に比べてマイルドになるとみている。

<テクニカル的にも円高は行き過ぎ>

ドル円相場は、昨年末からほぼ一方的な円高ドル安が続き、トレンドは明確に下向きだ。今年はすでに22.70円(高値1月29日121.70円、安値6月24日99.00円)も下落した。

2000年以降の動きをみると、リーマン・ショックがあった2008年に上下約25円動いているが、今年はまだ半年しか経っていないにもかかわらず、その値幅はすでに2008年に次ぐ大きさとなっている。半年間の動きとしてはテクニカル的な過熱感があるし、日本のファンダメンタルズに対する悪影響も大きい。

投機筋のポジションをみる際に参考にされるシカゴ国際金融市場(IMM)の非商業部門の円買いポジションも過去最高水準に積み上がっており、投機筋の円買い余力も限定的となりつつある。トレンドは明確に下向きではあるが、テクニカル的な過熱感は強く、これまでの円高ドル安ペースが年後半も続くとは考えづらい。

また、前述の通り米国の経済は緩やかな拡大を継続しており、株式指数も史上最高値を更新している。外部環境をにらみ連邦準備理事会(FRB)は利上げに対して慎重な姿勢を崩さないとみられるが、「いずれ利上げ」との期待は市場でくすぶるだろう。

日本サイドでは一層緩和圧力が強まろう。ドル円は内閣府の企業行動に関するアンケート調査で示される「輸出を行っている企業の採算円レート」である1ドル=103.20円を下回る動きをみせた。採算割れすれば当然、企業業績は赤字に陥り、株価の下落をはじめ雇用や所得に悪影響を及ぼす。日銀がプラス2%を目標とする生鮮食品を除く消費者物価も今年に入ってゼロ以下で推移するなか、緩和に踏み切らざるを得ない状況になりつつある。

直近、ヘリコプターマネーという禁じ手的な極論が話題となっているのも、円高が日本経済に対する悪影響を強めるなか、日銀の緩和政策に手詰まり感がささやかれ、大統領選を控える米国から為替介入を認めてもらえないという苦境を大逆転する手段という側面があるからだろう。

今後も「英国の分裂リスク」や「トランプ米大統領誕生リスク」など注視しなければならないリスクは存在するが、現状では実現可能性は低いとみている。昨年以降、日米景況感格差や金利差の拡大を無視し、リスク回避などを「主語」にして進んだ一方的なドル安円高は、一定の修正を迫られる可能性が高い。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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