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コラム:侮れない米FRB資産縮小の円安効果=鈴木健吾氏
2017年8月18日 / 08:36 / 1ヶ月前

コラム:侮れない米FRB資産縮小の円安効果=鈴木健吾氏

[東京 18日] - ドル円は3月以降約半年にわたり、1ドル=108円から115円台の上下7円程度のレンジを行き来する状況が続いている。明確な方向感が失われている背景には、賃金や物価の鈍化がみられる米国経済の先行きや、連邦準備理事会(FRB)による年内の利上げ有無に対する不透明感があるようだ。

FRBの行動に関する大まかな市場のコンセンサスは、9月19―20日の連邦公開市場委員会(FOMC)において、量的緩和政策で拡大したバランスシートの縮小に着手し、その後各種経済指標を確認しつつ12月12―13日のFOMCで利上げ有無の判断を下す、というものだ。

特に12月の利上げ有無は市場の焦点となっており、今月も11日に発表された米7月消費者物価が市場予想に届かなかったことで12月FOMCでの利上げ確率が急激に低下しドルが下落、その後15日には7月小売売上高が予想を上回ったことで反発に転じるなど一喜一憂が繰り返されている。

材料が出るたびに相場が振り回されるのは仕方のないところだが、12月の利上げ有無を判断するにはまだタイミングが早すぎる。実際、FRBは2015年12月以降4回の利上げを実施しているが、各利上げ局面では直前の40営業日程度で織り込みが急速に進む傾向がみられている。

今回12月に当てはめれば40営業日前は10月半ば以降だ。現実的にはこの頃以降に発表される9月から11月の各種経済指標が利上げの有無を左右することになるだろう。

<2兆ドル縮小ならドル円に10円近い影響>

12月の利上げ有無に確証が持てない一方で、ほぼ市場で確実視されているのが9月のバランスシート縮小だ。ハト派的と市場に捉えられた7月のFOMC議事録(8月16日公表)でも、大半のメンバーが「upcoming meeting(次回会合)」でのバランスシート縮小決定を支持していることが改めて示された。

ただ、市場ではこのバランスシート縮小に関しては注目度も織り込み度も低いように思える。直接的に金利を動かす利上げと比較してその効果にあいまいな部分も多い量的緩和の縮小については、判断が難しい部分があるようだ。しかし、その名の通り量的緩和を反転させるのであるから、基本的には米金利にもドルにも押し上げ効果があるはずだ。

6月FOMCで示された資料によれば、米国債と住宅ローン担保証券(MBS)などを合計したバランスシートの縮小は当初1年で3000億ドル、その後は年間6000億ドル(月間500億ドル)ずつのペースで行われる。1兆ドル縮小するのに2年2カ月、2兆ドルには3年10カ月かかることになる。

現在およそ4.5兆ドル規模のバランスシートについて、「2兆ドル程度にできる」(セントルイス地区連銀ブラード総裁、5月5日)「2.5―3兆ドルのレンジを下回るとは考えにくい」(パウエルFRB理事、6月1日)といったコメントが報じられていることやFRBのレポートなどを参考に考えると、その縮小規模は2兆ドル程度になるとみられる。

これがドル円相場や米金利に与える影響はどのようなものになるだろうか。単純にドル円レートを目的変数として日米中央銀行のバランスシートの変化と金利差を説明変数とした重回帰分析を行うと、FRBのバランスシート100億ドルの変化はドル円に対して5銭程度の影響を与えている。よって、2兆ドルの変化はドル円に10円近い影響を及ぼす可能性がある。

<1年あたりでは2円程度の押し上げ効果>

FRBからも分析結果が公表されている。4月20日公表の「FRBの証券保有が長期金利に与える影響について(The Effect of the Federal Reserve’s Securities Holdings on Longer-term Interest Rates)」では、3度にわたる量的緩和とツイストオペによる米10年債利回りの下押し効果は1.05%と試算されている。

一連の量的緩和でバランスシートは3.5兆ドル程度拡大していることから、2兆ドルあたりの10年債利回りへの影響は0.6%程度だ。ちなみに、2016年以降の10年債利回りとドル円の相関からは0.1%の変化はドル円に1円程度の影響を与えることから、2兆ドルの資産縮小はドル円を6円程度押し上げる可能性があるということになる。

2015年2月のフィッシャーFRB副議長の発言によれば、3度の量的緩和とツイストオペによって、10年債利回りは1.1%程度押し下げられたとしており、ここから同様の計算をすれば、2兆ドルのバランスシートの変化は10年債利回りに0.63%、ドル円におよそ6.3円の影響を及ぼすことになる。これは上記FRBの分析結果とほぼ一致する。

また、長期金利への影響ではないが、5月10日に公表されたカンザスシティー地区連銀の「バランスシート調整下での金融政策のスタンス予測(Forecasting the Stance of Monetary Policy under Balance Sheet Adjustments)」によれば、バランスシート6750億ドルの縮小は0.25%の利上げ効果があるという。これは2兆ドルで0.75%の利上げにほぼ等しい。

総じて、バランスシートの縮小は今後3―4年かけてドル円を6―7円程度、1年あたり2円程度押し上げる効果がありそうだ。FRBが予想している今後の政策金利の引き上げとは別に、バランスシートの縮小によって新たな金利とドルの上昇圧力が生まれることになる。

ドル円は現状、北朝鮮のリスクを理由とした円買いやトランプ米大統領の政策運営に対する懸念に加え、12月の米利上げ確率低下を巡る思惑などから下押す場面がみられているが、9月に予定される米FRBのバランスシート縮小が徐々に視野に入るにつれ、このような押し上げ効果が改めて見直され、反転の1つのきっかけになるのではないかと考えている。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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