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コラム: 北朝鮮リスク乗り越え、円安の秋へ=鈴木健吾氏

[東京 22日] - 2017年も10―12月期に入ろうとしている。実はドル円相場はここ5年間(2012年―2016年)、10―12月期は必ずドル高円安となっており、その上下値幅も5年の平均で約12%と比較的大きい。

本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。写真は筆者提供。

9月に記録した年初来安値1ドル=107円台にこの12%上昇を当てはめると120円近くになる。そこまで上昇するかどうかは別として、今年のドル円相場も10―12月期のドル高円安に向け、徐々に環境が整ってきたのではないかと考えている。

<トランプ経済政策に大きな挽回余地>

ここから年末にかけてドル円相場を動かす主な要因としては、米国要因として「トランプ政権と議会」「米国経済と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策」、本邦要因としては「日銀の金融政策」「総選挙」、その他要因として「北朝鮮問題」などが注目されよう。

トランプ政権と米議会の注目点は税制改革と2018年度予算となる。債務上限問題も12月に期限を迎えるが、米財務省の先延ばし措置によって事実上の限界は来年4月頃になるだろう。

税制改革についてはライアン下院議長が9月25日の週に税制改革の概要を提示すると話していることからその内容を見極める必要があるが、トランプ大統領が公約にも掲げた法人税減税を含む具体策が示され、年末の成立に向けて動き出すとみられる。

筆者が税制改革の先行きを楽観視しているのは、政治的にほぼ無得点のトランプ政権も、そして来年に中間選挙を控えているにもかかわらずトランプ大統領の不人気のあおりを受けて支持率を落としている共和党も、挽回を狙い税制改革に前向きだからだ。

不安要素である2018年度予算のメキシコ国境の壁建設費用を巡る駆け引きや調整を経て、減税幅などが小幅になったとしても、一定の成果をあげるとみており、これまでほとんど成果のないトランプ政権の功績を市場は比較的素直に評価するのではないかと考えている。ポイントはメキシコ国境の壁建設費用の落としどころになろう。

<重要なのは日銀が動かないこと>

米国経済とFRBの金融政策の注目点については、直近9月19―20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明や経済見通しで示された通りだ。声明では物価が目標の2%からかい離していることを指摘しつつも、雇用・家計消費・設備投資などを含め米国経済はおおむね緩やかな成長基調にあることを確認。また、ハリケーンの短期的な悪影響は中期的には復興需要と相殺されることで影響は限定的とした。

経済見通しも、実質国内総生産(GDP)成長率や失業率を改善方向に修正しつつ物価見通しを引き下げ。総じて物価上昇率は足元で力強さを欠くものの、全般的な景気回復傾向はしっかりしており、傾向としての物価上昇については楽観的だ。

その結果、バランスシートの縮小を開始し、年内12月にもう1回の利上げと来年3回の利上げペースを維持するといった内容になっている。年末にかけても米経済の堅調推移と物価の持ち直しが継続することで、利上げ実施を視野に入れつつ米長期金利の上昇とともにドルはしっかりの展開になる可能性が高い。

一方、日銀は9月20―21日開催の金融政策決定会合で金融政策の据え置きを決定。その後の記者会見で黒田東彦総裁は「2%物価目標の変更や放棄は適切ではない」「強力な金融緩和を今後とも粘り強く続けていく」とこれまでの政策を継続する方針を改めて示した。この発言を聞く限り、当面、日銀は能動的な行動を起こさないだろう。

だが、日銀が動かないことが重要だ。日銀が動かなくとも他の主要中銀が動く。

上記の通りFRBは年内12月にも利上げを実施する可能性が高い。9月14日には英中銀(BOE)が理事会の声明で「数カ月以内にいくらか緩和政策を巻き戻すことが適切」とし、年内利上げ実施の可能性に言及した。欧州中銀(ECB)は資産購入の縮小について「次回(10月26日)の会合で決定する」としている。これら主要中銀の年末にかけての行動と日銀の変わらぬ姿勢が相対的に円の押し下げ要因となろう。

ちなみに、ここにきて日本の解散総選挙が現実味を帯び、為替に対する影響の問い合わせが増えているが、これは総選挙後の政策と経済情勢次第だ。実際、1993年以降の8回の総選挙後のドル円値動きをみても法則的な動きは確認できない。ただ、デフレ脱却を目指すアベノミクスを掲げる安倍晋三首相が絡む直近2回の総選挙では、その後1年程度にわたって円安方向の動きがみられている。

<北朝鮮材料視の円高、投機筋の仕掛けか>

その他要因として挙げた北朝鮮リスクは予想が難しい。ただ、「北朝鮮がミサイル実験」とのヘッドラインが流れた瞬間に毎回ストンと円高になる動きは、ファンダメンタルズを反映していない。今年14回も行われたミサイル実験(+核実験1回)の都度、円キャリートレードが巻き戻されたり、日本人の海外資産が回帰したりしているとも考えづらい。

結局、短期の投機筋による仕掛けというのが実態で、ドル円相場の大きな流れにはつながらないだろう。したがって緊張が続くなかでの北朝鮮による円高局面は一時的に過ぎないと考えている。

今後、緊張が緩和に向かえばリスク回避の円買い圧力は後退しよう。一方、軍事衝突となれば日本が巻き込まれることはほぼ確実だと思われるが、日本への核の脅威が現実味を帯びるなか、日本に資金が流入し続けるとは思えない。円キャリーの手じまいなどによって瞬間的な円高の後、大幅な円安になると考えている。事態が長期化する可能性もあり、一時的な自然災害である東日本大震災後の円高の例はあまり参考にならないだろう。

9月22日にも「北朝鮮が太平洋上で水爆実験を示唆」とのヘッドラインが流れると、観測報道だけで実験も行われていないにもかかわらずドル円は比較的大きな下落をみせた。しかし、ドル円はそれまでの2週間で5円以上のドル高円安を演じており、前日21日(日本時間)のFOMCというビッグイベントも通過したなか、ポジション調整的なドル売り円買いの背中を押しただけとみられる。この動きも結局は一時的で大きな流れにはならないと予想する。

このように年末にかけ、ロシア疑惑などでドル売り材料となり続けたトランプ大統領が一定の成果をあげる公算が大きいことやFRBの利上げ期待、変わらぬ日銀の緩和政策と主要中銀の行動など、ドル円の年末高に向けた環境が整いつつあると考えている。

今年は3月以降、半年以上にわたってほぼ108円―115円のレンジ内での値動きが続いているが、年末にかけてはこのレンジ上限を上抜く展開を予想している。

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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