May 18, 2018 / 7:47 AM / 3 days ago

コラム:視界良好のドル高トレンド、113円も射程内=鈴木健吾氏

鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト

 5月18日、みずほ証券チーフFXストラテジストの鈴木健吾氏は、ドルは明確な上昇トレンドに入っており、対円でも年初来高値113円を上回る可能性があると指摘。写真は日本円と米ドル紙幣。シンガポールで2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White)

[東京 18日] - 5月に入り、米10年国債利回りが約6年10カ月ぶりに3.1%台を記録。原油先物価格も米指標油種のウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)6月渡しが約3年5カ月ぶりに71ドル台に乗せるなど、金融市場のあちこちでこれまでとは違った景色が広がっている。

そして、為替市場でもドルの方向性に大きな変化が表れ始めた。例えば、ユーロは対ドルで昨年初めに記録した1ユーロ=1.03ドル台から、今年2月の1.25ドル台まで約1年2カ月にわたり20%超の一方的なユーロ高ドル安が続いてきたが、その後5月にかけてそれまでのトレンドラインをブレークしてユーロ安ドル高へと方向転換がみられている。

英ポンドも同様に昨年序盤から今年序盤にかけて非常に明確なポンド高ドル安トレンドを描いてきたが、4月終盤以降ドル高方向の動意が強まった。

主要国通貨に対するドルの総合的な価値を指数化したドルインデックスにもトレンド転換がみられる。インターコンチネンタル取引所(ICE)上場のドルインデックスはユーロとポンドの割合が約7割を占めるため当然と言えば当然だが、米連邦準備理事会(FRB)が公表するドルインデックス(26通貨が対象、うちユーロとポンドの割合は合計約20%)でみても、同様だ。

FRB公表のドルインデックスは2016年末に高値を記録後、今年初めにかけてかなり明確なドルの減価傾向を示していたが、もみ合いを経て4月終盤以降は上昇に転じ、明らかにトレンドが転換している。

ユーロやポンドなど特定の通貨に対してのみならず、主要通貨全般的にドルは1年以上続いた下落トレンドを転換し、その方向がドル高に向かい始めている。

<米景気見通しとトランプ政権評価が好転>

背景として、いくつかの要因が考えられる。まず、米国要因としては景気と政治に対する見方の変化が挙げられるだろう。

2009年7月から始まった米国の景気拡大局面は、1年前(2017年5月)の時点ですでに戦後の景気拡大局面の平均である58.4カ月を大きく上回る95カ月に及び、戦後3番目の長さに達していた。こうした中、FRBの利上げ効果などもあり、米景気は2018年にもピークを迎えて2019年には減速局面入りするとの警戒感も強く、実際、筆者が所属する部門でもそのような予想をたてていた。

しかし、昨年末に当初難しいと思われていた減税法案が成立し、これがカンフル剤になることで米国の減速局面入りは先送りになるとの見方が台頭。当方も、米景気のピークと減速の予想時期について1年程度先送りされるとの見方に修正した。

また、トランプ政権の評価についても改善がみられる。昨年半ばごろ、トランプ政権に対する評価は散々なものだった。予算の方針を示す予算教書ははっきりとしたものがいつまでも示されず、イスラム圏7カ国からの入国禁止令は裁判所に差し止められ、医療保険制度改革法(オバマケア)代替法案やメキシコの壁建設についてもめどが立たず、昨年5月初めには当時のコミー連邦捜査局(FBI)長官を解任しロシア疑惑に対する懸念が強まった。

しかし、今では見方がかなり変わってきた。昨年末には当初難しいとみられた減税法案を成立させ、今年序盤には市場の懸念材料だった債務上限や暫定予算の期限延長に成功。貿易問題についても欧州連合(EU)や中国などに対して、(米国民からみれば恐らく)毅然とした態度で渡り合い、韓国とは自由貿易協定(FTA)の見直しで合意した。

地政学リスクに関しても、化学兵器を使用したとして(ロシアを後ろ盾とした)シリアに対し軍事攻撃に踏み切るなど強い態度で臨み、北朝鮮に拘束された米国人を解放させ、朝鮮半島の非核化に向けた機運も以前に比べると高まっている。ツイッターを通じた過激な言動は相変わらずだが、1年前の失望感はだいぶ消えた。

このような米国の景気やトランプ政権に対する見方の変化が、1年以上にわたるドル売りトレンドを転換させた可能性がある。

<世界景気鈍化がドル回帰を促している可能性>

米国以外に目を向けると、世界経済に対する見方も変化している。2017年は各国経済が同時回復の様相を強め、世界同時株高がみられた。カナダ中銀は7年ぶり、英中銀は10年ぶりの利上げに踏み切っている。

先行きに対する楽観的な見方が急速に広がる中、それまで先進国で唯一利上げを行っていた米国から、「次の緩和解除国」を探してマネーがシフトしたことによって、ドル安が引き起こされた可能性がある。実際、通貨先物市場(IMM)のポジションでは昨年の夏頃から主要通貨のロング(ドルのショート)が積み上がり、今年これまでに8通貨に対する合成的なドルショートポジションは2011年8月以来の高水準となる場面がみられた。

しかし、2018年に入り世界景気回復の勢いは鈍化している。主要先進国における購買担当者指数(PMI)など景況感指数はピークアウトがみられ、株価も世界的に調整・もみ合いといった状況だ。各種経済指標の弱さから、5月にも追加利上げ期待があった英中銀はこれを見送り、欧州中銀(ECB)に対する量的緩和解除期待も一時より後退している。

日本においても1―3月期実質国内総生産(GDP)が9四半期ぶりに前期比マイナスとなった。こうした情勢を受け、2017年にシフトしたマネーがドルに回帰し始めた可能性がある。

ドル円は昨年、108円から114円程度のレンジでのもみ合いが長かったが、それでも2017年初の118円台から今年3月の104円台まで1年余りの間に10%を超えるドル安円高が進んだ。足元では111円近辺への急激な反発がみられており、トレンドが明確であることからこのまま年初来高値113円をトライする展開は十分にあり得ると考えている。

むろん、2カ月足らずで6円強もの急激な動きがいつまでも続くとも思えず、夏場には調整局面入りもあるだろう。ただ、上記の通り、ドルは為替市場全体の中で1年以上にわたった大きな下落トレンドから転換したばかりだ。年末にかけては113円台を上回る場面もあるのではないかと考えている。

鈴木健吾 みずほ証券 チーフFXストラテジスト(写真は筆者提供)

*鈴木健吾氏は、みずほ証券・投資情報部のチーフFXストラテジスト。証券会社や銀行で為替関連業務を経験後、約10年におよぶプロップディーラー業務を経て、2012年より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below