March 4, 2019 / 8:00 AM / 3 months ago

コラム:米中協議、3月決着でも覇権争い長期化必至=湯元健治氏

[4日 東京] - 米中通商交渉が進展し、3月中にも何らかの妥結が成立するとの期待感から、日米株価は上昇傾向が続き、円ドル相場もリスクオンから111円台後半に下落するなど、マーケットは楽観ムードに包まれている。

 3月4日、米中通商交渉は3月にも一旦妥結する可能性は高く、マーケットは株高、ドル高の形で歓迎することになろうが、成果が伴わない限り、折に触れて米中対立が再び激化する可能性は否定できないと日本総研の湯元氏は説く。写真は2017年、フロリダで首脳会談に臨んだ中国の習近平国家主席(右)とトランプ米大統領(2019年 ロイター/Carlos Barria)

トランプ米政権は先月28日、3月1日の米中協議の交渉期限を延長して、対中追加関税の発動を延期すると正式発表した。

トランプ大統領は25日朝、「重要な構造問題で大きな進展があった」と語り、3月下旬に米中首脳会談を開き、最終決着を図る意向を示した。

すでに、中国側が1兆ドルともいわれる巨額の輸入拡大策を10品目にわたって提示したとみられるほか、関税の相互引下げや主要な構造問題で6つの覚書締結が準備されているとの報道もあり、決着は近いとのムードが広がっている。

トランプ大統領は、メキシコ国境の壁建設問題による政府機関の閉鎖で国民から強く批判されたため、米中交渉合意で失点回復を狙う思惑があることは、想像に難くない。他方、中国サイドは、5日からの全国人民代表大会(全人代)開催を前に、米国に大幅な譲歩はできないとの政治的事情があった。

したがって、結論として、全人代が閉幕する15日以降も精力的に交渉を続け、その後に首脳会談で双方が歩み寄るとのシナリオが現実味を帯びてきたわけだ。

以下では、米中対立の主要点について吟味し、今後の展開を中長期的観点も含めて考えてみたい。

<貿易不均衡の解消策に実効性はあるか>

まず、トランプ大統領が最重要視している対中赤字削減の実効性についてどう見るべきだろうか。

具体策が出る前に評価することは難しいが、中国側が提示しているといわれる大豆や液化天然ガス(LNG)、半導体などの輸入拡大策は、米国側も一定の評価をしているとみられる。

ただ、2017年11月の米中首脳会談では両国間で2534億ドルの商談が成立したと大々的に報道されたが、多くは具体性がなく、法的拘束力もないなど、文字通り「画に描いた餅」に終わった。米中赤字は減るどころかむしろ増加したという事実を忘れるべきではない。米国が今回、拘束力のある監視と強制の仕組みを求めているのは、こうした苦い経験に基づく。

また、交渉成果を焦るトランプ大統領は、中国側の抵抗に理解を示し、検証・監視の仕組みを緩める可能性すらある。そうしなければ、交渉決裂のリスクが高まるからだ。トランプと対中強硬派のライトハイザー氏との確執の噂は、そうした可能性をにおわせる。

そうなると、2020年11月の大統領選挙前までに、中国の対米赤字が目に見えて減少するとは到底考えにくい。そもそも、相互補完性の強い米中間の経済・貿易構造からみて、人為的に不均衡を解消することは困難だからだ。

今回、交渉が一旦妥結する可能性は高く、マーケットは株高、ドル高の形で歓迎することになろうが、成果が伴わない限り、折に触れて米中対立が再び激化する可能性は否定できない。

<構造問題で交渉進展でも、実効性に疑問符>

構造問題についても同じことが言える。覚書締結の準備がなされている6分野とは、知的財産権、強制技術移転、金融などサービス分野、為替、農業、非関税障壁と言われる。

知的財産権については、中国側は侵害した企業に懲罰的な罰金制度を導入する特許法の改正を実施するもようだ。また、外商投資法の改正により、米国企業に対する技術移転の強要を禁止する提案をしている。さらに、金融サービス分野では、外資による出資規制を緩和、全額出資も認める意向を示している。

為替については、通貨安誘導の禁止、農業では農畜産物の市場開放と関税引き下げ、非関税障壁では、国内産業への補助金、規制、さらに輸入品の品質が基準に適合しているかを認証する手続きなどで中国側が一定の譲歩をする可能性がある。

このように双方の協議は進展しているとみられるが、双方の隔たりはなお大きく、特にこうした構造問題について検証・監視の仕組みを設けることに中国側は難色を示しており、物別れに終わるリスクもある。中国側の対応は一部に実効性を伴わない「言葉だけの約束」が含まれており、対立が完全に解消するとは考えにくい。

<ハイテク・軍事的覇権争いは長期化必至>

米中対立は、こうした6分野にとどまらない。これらは、双方が何とか歩み寄りできる可能性がある分野だ。

他にも、「中国製造2025」の見直しや、サイバーテロによる米国企業の技術情報窃取といった問題は、双方の事実認識が食い違う、互いに譲ることのできないテーマであり、対立の長期化は避けられない。それは、通信分野における次世代通信規格「5G」の主導権争いであるだけでなく、米国の国家安全保障にかかわる問題であるためだ。

しかも、この2つは軍事的な覇権争いの観点で密接な関係にある。「中国製造2025」は、5Gなど次世代情報技術、ロボット、航空・宇宙、省エネ・新エネ、新素材、バイオなど10分野で建国100年となる2049年までに世界の製造大国となることを目指す国を挙げての産業政策だ。米国の要求は中国にとって国家戦略への不当介入であり、米国にとっては不公正な手段を用いたハイテク技術の窃取につながりかねない大問題だ。

このため、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]を巡る問題は、解決の糸口が見えないどころか、今後、対立がエスカレートする懸念が強い。

ファーウェイ幹部逮捕を巡る問題にとどまらず、すでに、米国に同調する形で、オーストラリア、ニュージランド、日本、ポーランド、ドイツ、台湾などの国が、ファーウェイ、中興通訊(ZTE)(0763.HK)(000063.SZ)など中国通信企業5社をグローバル市場から締め出す動きを加速しつつある。

通信機器を通じて窃取されたハイテク技術に関する情報は、中国の「国家情報法」により、中国政府への提供が義務づけられており、そうしたハイテク技術を中国当局が軍事技術に転用するリスクに対する危機感がある。

ファーウェイ問題は、トランプ大統領が仕掛けたものではなく、すでに2016年から米国司法省が調査を進めてきたものであり、米中協議の枠内では処理できない難問だ。この問題は米中の火種として延々とくすぶり続けることは間違いない。

<米中は新冷戦時代突入>

米国の対中政策は昨年10月のペンス副大統領演説から大転換したといわれるが、実は2017年12月の「国家安全保障戦略」の中で、中国を「米国の安全保障上の脅威」と明確に位置づけている。

中国を国際社会に仲間入りさせ、民主化を促す「エンゲージメント政策」は完全に失敗したことを米国は認めており、向こう20─30年にわたって中国を封じ込める米中冷戦時代が到来したことは間違いない。

米国にこのような認識を植えつけたのは、習近平政権による対外強硬路線、軍事的拡大路線に他ならない。膨張する軍事費とその使途に関する不透明性、尖閣問題、東シナ海、南シナ海などの海洋進出、台湾軍事侵攻の示唆など、その増長ぶりは米国にとって目に余る。

米国は、政権が変わろうとも大統領が誰になろうとも、中国が民主化から逆行し続ける限り、あらゆる対抗措置を取るだろう。すでに、中国企業の対米投資審査の厳格化、中国ハイテク企業の排除、人工知能(AI)、ロボットなど先端14分野での中国向け輸出・投資規制などの措置に踏み切っており、その影響は同盟国の日本にも及ぶことは必至だ。

米中協議という通商政策にのみ目を奪われることなく、軍事・安全保障など中長期的な視野から現在の問題を眺めると、米中対立が収束するかのように見えても、それは所詮一時的なものであり、むしろ長い目では、対立が激化するリスクに目を向けるべきだろう。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

湯元健治氏 日本総合研究所 副理事長兼シニアエグゼクティブエコノミスト(写真は筆者提供)
 3月4日、米中通商交渉は3月にも一旦妥結する可能性は高く、マーケットは株高、ドル高の形で歓迎することになろうが、成果が伴わない限り、折に触れて米中対立が再び激化する可能性は否定できないと日本総研の湯元氏は説く。写真は2017年、フロリダで中国の習近平国家主席(左)を歓迎するトランプ米大統領(2019年 ロイター /Carlos Barria)

*湯元健治氏は日本総合研究所の副理事長兼シニアエグゼクティブエコノミスト。1980年に京都大学経済学部卒業、住友銀行(現三井住友銀行)に入行。94年に日本総研調査部次長兼主任研究員。98年には小渕内閣(当時)の経済戦略会議事務局主任調査員を務める。その後、同調査部金融・財政研究センター長兼主任研究員などを経て、2007年に同執行役員、調査部長兼チーフエコノミスト、内閣府大臣官房審議官などの後、12年より現職。著書に「スウェーデン・パラドックス」(共著)「税制改革のグランドデザイン」など。

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 (編集:下郡美紀)

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