June 7, 2019 / 12:55 AM / 18 days ago

コラム:膨らむ米利下げ期待、日銀「追随緩和」の可能性=村嶋帰一氏

[東京 7日] - 2019年を通じて日銀は、短期政策金利、10年国債利回り目標、上場投資信託(ETF)買入れ額といった金融政策について現状を据え置くというのが弊社のメーンシナリオだ。

 6月7日、米FRBが政策金利を50ベーシスポイント以上引き下げ、それがはっきりとした円高を引き起こせば、日銀も10bpを上回る利下げに踏み切る可能性が高い、とシティグループ証券の村嶋氏は説く。写真は日銀の黒田東彦総裁。日銀本店で2018年撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

しかし、米中の貿易摩擦が予想外の激化と広がりを見せており、それに伴い米連邦準備理事会(FRB)が利下げに踏み切る可能性がでてきたことを受け、日銀の金融政策に関しても代替シナリオの検討が必要になっている。

結論から言えば、FRBが政策金利を50ベーシスポイント(bp)以上引き下げ、それがはっきりとした円高を引き起こせば、日銀も10bpを上回る利下げに踏み切る可能性が高い。その場合、同時に銀行収益への悪影響を軽減する措置も講じられよう。

<予防的措置かそれ以上か>

日銀金融政策の先行きを見通す上で最も重要な鍵は、FRBによる利下げの有無と、その幅とみられる。FRBの利下げを受けて円高/ドル安がはっきりと進めば、日銀は何らかの対応策を迫られる可能性が高い。

さもないと、市場参加者は日銀が事実上、政策手段を使い果たしたとの見方をさらに強め、金融市場の動揺が強まる恐れがある。また日銀自身も、世界金融危機の際に、他の先進国中銀が緩和に動く中で、政策を据え置き、批判を招いた経験をトラウマとして抱えている可能性がある。

FRBが景気と金融環境(financial conditions)に保険をかける意味合いで25bpの予防的利下げを行う場合、日銀が本格的な緩和を行う可能性は低く、最有力の選択肢はETF買入れの増額とフォワードガイダンスの強化になるとみられる。

これは、このシナリオの下では、米国経済の底堅さは維持されている可能性が高いからである。日銀はFRBの予防的利下げと自らのETF買入れ増額後の市場動向(特に為替市場)を見極めることになろう。

一方、FRBが一度に、もしくは累計で50bpの利下げに踏み切る場合、日銀はETF買入れの増額とフォワードガイダンスの強化以上の政策措置を迫られる可能性が高い。これは、この場合、米国経済の急減速の可能性もより高まっているとみられるからである。

その場合、現在マイナス0.1%に設定されている短期政策金利の引き下げが、最も可能性の高い選択肢となろう。10年国債利回りの目標を引き下げれば、イールドカーブはさらにフラット化し、銀行収益への悪影響が強まる。このため、日銀はまずは短期政策金利の引き下げを選択するとみられる。この措置はイールドカーブのスティープ化と整合的であり、その限りでは金融機関には追い風ともなり得る。

なお、FRBが50bp以上の利下げに踏み切るとすれば、日銀は短期政策金利を少なくとも10bpを超える幅、例えば20bpもしくは25bp引き下げる可能性が高い。10bpの利下げにとどまった場合、日米金利差が大きく拡大するからである。このシナリオでは、短期政策金利はマイナス0.2%を下回る水準に低下することになる。

<銀行への配慮で禍(わざわい)転じて福となすか>

しかし、一段の短期政策金利の引き下げは、銀行収益への悪影響といった金融緩和の副作用を強めることになる。銀行の預金金利は事実上、既にゼロ金利制約の下にあり、このため、短期金利をさらに引き下げれば、貸出金利を低下させ、銀行の利ざやを圧迫するとみられる。実際、日銀の利下げが銀行収益と金融仲介に悪影響を及ぼすとの懸念から、利下げを受けて、株式相場が下落する可能性も否定できない。

このため、日銀は利下げの悪影響を軽減する何らかの措置も併せて講じるとみられる。民間金融機関が日銀に保有する当座預金のうちマイナス金利が適用される政策金利残高の引き下げが最も簡単な選択肢だが、銀行収益を後押しするためのより大胆な措置が選択される可能性もある。

長期金利目標の対象を現在の10年セクターから5年セクターに変更することが、その1つだ。金融市場ではここ1─2年、この選択肢が時折取りざたされてきた。この措置が実行されれば、いずれは(タイムフレームは極めて不透明だが)イールドカーブの5年超の部分がより明確にスティープ化し、銀行収益にプラスになるとみられる。

日銀は潜在的な追加緩和の機会を、10年国債利回りの変動幅を大きくし、イールドカーブをスティープ化させる金融政策正常化に活用しようとするかもしれない。いわば、政策金利の深掘りという「禍」を、正常化の一歩という「福」に転じることを考えるかもしれない(ただ、日銀自身は正常化という言葉は使わないだろう)。

<日銀の「後出しじゃんけん」で緩和時期を予想>

パウエルFRB議長が4日の講演で、貿易戦争が及ぼす影響を「緊密に注視」しており、「適切に行動する」と述べたことを受け、金融市場ではFRBが早ければ7月、遅くても9月までに利下げするとの期待が高まっている。

日銀は7月29─30日に金融政策決定会合を開くが、これは同月30─31日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)会合の直前である。過去の経験を振り返ると、FRBの政策決定に反応する形で、受動的に政策決定を行う日銀の傾向は一貫しているように思われる(これは市場では「後出しじゃんけん」と言われている)。

このため、仮にFRBが7月に利下げするとしても、日銀が動くのはその後の9月の会合になるとみられる。この場合、9月会合までの金融市場(特に円相場)の動向が日銀の最終的な政策決定を定める可能性が高い。

一方、9月の金融政策決定会合は18─19日に開催され、17─18日のFOMC会合の直後になる。このため、FRBが利下げすれば、日銀も直ちに動く可能性がさらに高まるだろう。以上を踏まえると、日銀が追加緩和を行うとすれば、そのタイミングは9月か、それ以降になる可能性が高い。

最後に、弊社の米国エコノミストはFRBが年内は金利政策を据え置くとの見方を変えていない。米国経済が今後も底堅く推移するとの見通しに基づくものだが、金融市場が織り込んだ想定とは対照的だ。米国の金融政策が据え置かれる場合には、日銀も2019年を通じて現状維持を続ける可能性が高いとみている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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村嶋帰一氏 シティグループ証券 チーフエコノミスト(写真は筆者提供)

*村嶋帰一氏は、シティグループ証券調査本部投資戦略部マネジングディレクターで、同社チーフエコノミスト。1988年東京大学教養学部卒。同年野村総合研究所入社。2002年日興ソロモン・スミス・バーニー証券会社(現シティグループ証券)入社。2004年より現職。

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編集:下郡美紀

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