January 24, 2017 / 9:42 AM / 2 years ago

コラム:トランプ政策の帰結はやはりドル高か=尾河眞樹氏

[東京 24日] - 20日のトランプ米大統領就任演説は、「米国第一主義」や「米国を再び偉大な国にする」など、選挙中の発言の繰り返しとなり、決して内容の濃いものではなかった。

ただ、個人的にやや予想外だったのは、「ワシントンは栄えたが、国民はその富を共有しなかった」との見解を示し、政治家全般を含む従来の「ワシントン」を痛烈に批判したことだ。

また、「米国第一主義」との関連でトランプ新大統領が語った以下の部分は、投資家も留意しておくべきだろう。

「われわれの製品をつくり、企業を奪い取り、雇用を破壊するという他国の略奪行為から国境を守らなければならない」「保護こそが偉大な繁栄と強さにつながる」「私は全力で皆さんのために戦う。そして決して、決して失望はさせない」

要するに、昨年11月の大統領選直後に行われた勝利演説よりも、かなり厳しい表現で貿易相手国を批判したのである。

本稿では、こうした保護主義の高まりや米新政権の政策がドル円相場に与える影響について考えたい。ちなみに、週明けのリアクションはドル安だった。23日のニューヨーク市場では112円台半ばまで下落し、24日の東京市場では午後4時現在113円台前半で推移している。

<「国境税」はドル高要因>

まず、トランプ大統領はこれまで、減税・インフラ投資・規制緩和など、米国経済のアクセルを踏む方向に政策の軸足を置いているとみられていた。一時118円台後半まで進んだ大統領選後のドル高の背景には、そうした市場の読みがあった。

トランプ氏が昨年11月に発表した、「就任直後100日間に着手する優先事項」にもあるとおり、貿易についてはもともと環太平洋連携協定(TPP)など多国籍間の自由貿易には反対だったが、2国間での協議には必ずしも反対ではなかった。したがって、筆者も数々の保護主義的な発言は、あくまで中国やメキシコをターゲットにしたものだとみていた。

しかし、今回の演説では「保護こそが偉大な繁栄と強さにつながる」と、全てのケースにおいて米国第一主義を貫く方針であることが垣間見えた。加えて23日には、かねてから述べていたとおり、TPPを離脱するための大統領令に早速署名。さらに同日、米国内の製造拠点を海外に移転後、国内への輸入を望む企業に対し、高額の「国境税」を課す方針を改めて示した。

「国境税」とは最近米国で話題となっていた「国境税調整(Border Tax Adjustment)」のことだ。共和党がまとめた案では、米国への輸入品に対して一律20%の税金を課す一方で、米国から輸出して得た利益については課税が免除され、国内から上がった利益にのみ20%の法人税がかかるという制度になっている。

厳密に言えば国境税は関税ではないが、実質的には20%の「関税引き上げ」とも言える。ここまでくると、「もしかしたらトランプ政権は、減税やインフラ投資よりも保護貿易を政策として最も重視しているのではないか」との懸念も浮上しやすい。こうした不透明感が足元の円高・ドル安圧力につながっている。

ただ、国境税調整も、「保護主義」の観点から見れば円高要因と捉えられがちだが、この材料で円買い・ドル売りを続けるのは難しい。これらは、仮に実行されればドル高要因となるためだ。

国境税調整によって輸入物価が上昇すれば、米国は利上げによるドル高を容認することによって極端なインフレを防ぐ必要が出てくる。実質的な関税引き上げを実行し、財政政策で国内景気を刺激しつつも、一方でドルを安くしたいというのは、政策的につじつまが合わないのだ。

加えて輸入物価の上昇により輸入が減れば、米国の経常収支は改善し、これもドル高要因となる。米ニューヨーク連銀のダドリー総裁も17日、「米国が国境税を課せば、ドルが上昇するほか、輸入する財・サービスの価格の押し上げにつながる」との見方を示した。

ちなみに、23日のドル円下落を加速させた要因として、米系メディアが報じた、ムニューチン次期米財務長官候補の発言(「過度に強いドルは短期的にマイナス」)が取り沙汰されているが、同氏は19日に上院で行われた指名承認公聴会の質疑応答では長期的なドル高維持を肯定するような以下の発言を行っていた。

「重要なのは長期間にわたるドルの強さだ」「ドルは極めて長期にわたり最も魅力的な通貨であり続けている。それが重要であり、今かつてないほどそうなっていると思う」「ドルは非常に、非常に強い。世界中の人がドルへの投資を望んでいるのが分かる」

つまり、国境税なども考慮すれば、米国経済が十分に堅調で、投資マネーが米国に流入している環境下でのドル高基調であれば、取り立てて問題視はしないということだろう。

<ドル高トレンド再開までは乱高下か>

とはいえ、投資家にとっては、しばらく身動きを取りにくい状況が続く。

「トランプ政権の財政政策が米国のインフレを加速させる」というストーリーで、為替市場ではすでに円ショート・ドルロングポジションが構築されている。もう一段ドルを買うにも、あるいはこれまでの戦略を変更してドルを売り始めるにも、「トランプ政権の具体的な政策」という新たな材料が必要だが、それが明らかになるまでにもうしばらく時間がかかりそうだ。

1月末から2月中にも米両院合同会議でトランプ大統領の所信表明演説(例年の「一般教書演説」に該当)が行われるだろう。ここではトランプ政権の主要な政策課題が述べられる。その後、おそらく2月中に予算教書が議会に提出され、大統領の議会に対する予算編成の方針が示されるが、ここで初めてトランプ政権の財政政策が具体的に見えてくる。

これらの新たな情報が徐々に明らかになり、米国の景気にとってポジティブと受け取られれば、ドル高トレンドが再開する公算が大きい。それまでは取引量も薄くなりがちで、ドル円相場はトランプ氏のツイッター上でのつぶやきやテクニカル要因などに振り回されるような、振幅の激しい展開になりそうだ。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below