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コラム:トランプ訪日後の株価・為替、3つのシナリオ=尾河眞樹氏
2017年11月8日 / 04:44 / 11日後

コラム:トランプ訪日後の株価・為替、3つのシナリオ=尾河眞樹氏

[東京 8日] - トランプ米大統領は7日、日本でのすべての行程を終了し、韓国へと旅立った。ひとまず「トランプ大統領初来日」というイベントを無事に終了したことが市場参加者に安心感を与えたのか、7日の日経平均株価はバブル崩壊後の高値を上回り、一時2万2953円を付ける場面もあった。

そもそもトランプ大統領の発言は不確実性が高いイメージがあるが、今回サプライズはなし。そればかりか、両首脳が「シンゾー」「ドナルド」とファーストネームで呼び合い、一連のイベントを通じて日米の友好関係と協力体制を国内外にアピールできたことは日本株の支援材料になっているようだ。

6日に行われた日米首脳会談では、1)北朝鮮問題、2)日米間の通商問題、3)自由で開かれたインド太平洋構想、の主に3点が課題だった。特に通商問題については、「仮にトランプ大統領が対日貿易赤字の縮小を目指して強硬姿勢をみせるようなら、円高リスクもある」と、市場では事前に不安視する声も散見されたが、結局はペンス副大統領と麻生太郎副総理の「日米経済対話」で話し合っていくこととし、両首脳とも「日米両国で公正で実効性ある経済秩序をつくり上げる努力を重ねていく」と述べるにとどめた。

また、安倍晋三首相が「日本はアジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなるなか、今後、防衛装備品の米国からの購入を拡充していく」と述べたことも、トランプ大統領にとっては今回の訪日の成果となるだろう。首脳会談で日米通商問題の直接的な対決を避けられたことで、トランプ大統領の離日後もドル円は113円台後半から114円台前半で安定している。

<日本株・ドル円かい離の背景>

一方、興味深いのはドル円相場と日本株の相関性が完全に崩れていることだ。特に9月中旬以降の日経平均株価の上昇は目覚ましいものがあった。9月19日から11月7日までですでに14%上昇。これは、9月18日の衆院解散報道に始まり、選挙で安倍首相続投が決まったこと、加えて経済指標の好転や企業収益の改善などが背景となっている。

ただ、それにもかかわらず同期間のドル円相場をみると、112.51円から114.01円まで、わずか1.3%の上昇にとどまっている。2012年11月以降は、アベノミクス効果により特に日経平均株価とドル円の相関性は高まったが、足元のドル円は日本株の動きに全くついていっていない。これは、いわゆる「ゴルディロックス(適温経済)」による、米長期金利の低迷が要因だ。

米国では緩やかに景気が拡大する一方、食品とエネルギー価格を除くコア消費者物価指数(CPI)の伸びが、今年1月の前年比2.3%からじりじりと低下した。直近9月のコアCPIも、同1.7%と低いままだ。ゴルディロックスによって、株式市場はリスクオンに傾いた一方で、米長期金利が低下しドル安圧力がかかった。

ドル円が上昇しづらいという理由から、日経平均株価の一段の上昇には懐疑的な見方も多く、これまで今ひとつ株買いに積極的になれない投資家も多かったのではないだろうか。しかし、東京証券取引所のデータによれば、ドル円相場のこう着を尻目に、外国人投資家が9月末から5週連続で日本株を買い越している。「出遅れ感」によってむしろ上昇余地が大きいとにらんだのか、外国人投資家の加速的な買いが日経平均株価を急浮上させたのである。

<「黒田シーリング」の教訓>

果たして日本株の上昇は今後も続くのだろうか。ドル円相場のもみ合いが依然続いているため、株価の一段高には疑問を呈する声もあるが、筆者は日本株の緩やかな上昇は当面続くと予想している。ドル円が110―115円のレンジに収まっていることは、むしろ日本企業にとって心地よい水準だからだ。

日銀短観の9月調査では、大企業製造業の想定為替レートは109・29円。この半年間ドル円相場が107円台から114円台のレンジ相場だったことを踏まえれば、105円を割れるような円高とならなければ、製造業にとってはおおむね許容範囲だろう。

とはいえ、120円を大きく上回る急激な円安も、コストアップにつながり好ましくはないはずだ。2015年6月にドル円が125円台に乗せた際、国内企業からも不満の声が目立った。

同年6月10日、特別な意図があったかどうかはさておき、黒田東彦日銀総裁が「実質実効為替レートでみればこれ以上の円安はありそうにない」と発言。これによって、金融市場では当時の円安水準が政府・日銀にとって許容できない水準であるとの見方が広がり、125円台は「黒田シーリング」と呼ばれ、円安・ドル高の上限として意識されるようになった。

こうした過去の経緯も鑑みれば、現状の110―115円のレンジで為替相場が「安定」していることは、日本企業と日本株にとって支援材料となるだろう。ドル円のボラティリティーは1カ月物(25デルタ)が2016年1月以来の7%付近まで低下している。ドル円の安定と株高は当面続くとみている。

<リスクオフの円高・株安は杞憂なのか>

では、株価とドル円相場のかい離はいつまで続くのだろうか。果たして元に戻ることがあるのか、またあるとしたら何がきっかけとなるのだろうか。筆者は現状がしばらく続くとみているが、もし元に戻るとすれば、そのきっかけとして以下3つのパターンの可能性があると考えている。

第1に、米国の長期金利が上昇し始め、ドルが上昇するケース。第2に、円キャリー取引、つまり低金利の円を調達して高金利通貨に投資する動きが過熱して、円が一段と下落(ドル円が上昇)するケース。第3は、これらと反対に地政学リスクや政治などによるリスクオフで一気に株安と円高(ドル円下落)が進むケースだ。

もちろん、第3のケースは短期的には注意が必要だろう。トランプ大統領がアジア歴訪中に、北朝鮮が何らかの挑発行為に出る可能性は否定できず、その場合には円高要因となり得る。

また、同国への制裁を巡り、米中関係が悪化するリスクがないとはいえない。さらに、米国ではロシア疑惑の捜査も進み、トランプ陣営の選対本部長を務めたポール・マナフォート氏が10月30日に起訴された。本件によって再び米国の政権運営に暗雲が垂れ込める可能性も否定できない。リスクオンは当面続くなかでも、政治リスクによる唐突な円高には警戒が必要だ。

ただ、こうした政治要因による円高はトレンドとして長期化する可能性は低く、あったとしても一時的な動きにとどまる公算が大きい。筆者は第1のパターンをたどり、特に来年以降はドル円の緩やかな上昇が続くと予想している。米国では連邦準備理事会(FRB)のパウエル理事がイエレン議長の後任に指名された。ハト派と称される同氏だが、イエレン議長による「慎重な利上げ」路線は来年も踏襲されるだろう。

当社は、米国の緩やかな景気回復が続くなか、米連邦公開市場委員会(FOMC)で今年12月に1回、2018年に3回の利上げが決定されると予想している。加えて、パウエル氏が金融規制緩和に積極的な姿勢であることも、金融市場にとってはポジティブだ。来年にかけて極めて緩やかなドル高・円安が継続し、ドル円も徐々に日経平均株価にキャッチアップするのではないか。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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