December 25, 2017 / 5:12 AM / a month ago

コラム:2018年の市場を揺さぶる「ビッグ3」は誰か=尾河眞樹氏

[東京 25日] - 今回は、筆者が考える2018年の注目人物トップ3を紹介しながら、為替相場の行方を展望してみたい。

2018年、注目したい人物第3位は、現在米連邦準備理事会(FRB)の理事であるジェローム・パウエル氏だ。2018年2月に第16代FRB議長に就任する。

同氏は、投資家であり、弁護士であり、財務次官を務めた経験からも政策通といえる。ただ、「エコノミスト」としてのバックグラウンドに乏しいため、金融政策判断のサポーターとして現在空席になっているFRB副議長(スタンレー・フィッシャー氏の後任)については、エコノミストが任命される可能性が高い。

12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、メンバーによる政策金利見通し、いわゆるドットチャートで、2018年は3回、2019年は2回の利上げが予想されていた(1回につき0.25%想定した場合)。つまり、9月時点の予想と変わらず緩やかなペースの利上げが想定されており、イエレン現議長のスタンスは2018年も踏襲されそうだ。

ただ、2018年はFOMCメンバーの多くが交代する予定だ。特に政策金利を決定するうえで重要なポストである副議長の後任と、同年半ばの退任を決めているニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁の後任は決まっておらず、パウエル次期議長体制でのFOMCの政策スタンスを現段階で決め打ちするのは時期尚早だろう。

また、足下の米国経済は景気刺激策などなくても十分良好であり、これにトランプ政権によって減税とインフラ投資が実施されるとなれば、さすがに2018年は米国のインフレも小幅ながら加速する可能性が高い。

これに対しFOMCメンバーのなかでは、「もはや構造的にインフレは上昇しにくい」とするメンバーと、「将来の景気過熱リスクを考慮すべき」とするメンバーに分かれているようで、パウエル次期議長もメンバーの統率が難しくなりそうだ。特に利上げが進むほど、株価や景気に対する懸念が市場で広がる可能性があり、次期議長も難しいかじ取りを迫られよう。

<過去2回の利上げサイクルとの違い>

2018年の相場の鍵は、米国の「ゴルディロックス=適温経済」とリスクオンが継続するかどうかだ。当社はFOMCメンバー同様、2018年の利上げは3回と予想しており、米国の緩やかな景気拡大と緩慢なペースの利上げが続くなか、少なくとも2018年いっぱいはゴルディロックス継続と予想している。円安傾向と緩やかなドルの回復によって、2018年9月頃にドル円は120―123円付近の高値を付けるとみている。

最近ではFRBの利上げが進むなか米国の長短金利差縮小に着目し、「景気後退のサインでは」とみる向きもあるようだ。しかし、これまでの利上げ局面における実質金利と潜在成長率を比較すれば、今回は引き締め効果が現れるまでにまだかなりの余裕がある。

前回の利上げサイクルの政策金利の天井は2007年の5.25%、その際の期待インフレ率(10年ブレークイーブン・インフレ率=BEI)は2.5%程度、実質金利は約2.5%で、これに対する潜在成長率は1.8%と、引き締め効果は明らかだった。

その前のピークは2000年の6.5%で、BEIは1.4%、実質金利は約5.1%まで上昇、当時の潜在成長率は4.0%だったので、この時もかなりの引き締め効果があったことがわかる。

しかし今回、政策金利が3.0%まで引き上げられたところで、仮に期待インフレ率が足下の2.0%程度で変わらなかったとしても、実質金利は1.0%付近にとどまる。潜在成長率が1.8%程度とみれば、米国に景気後退局面が訪れるまでには、まだ時間がかかるとみるべきではないだろうか。

<ゴルディロックス揺さぶりかねない北朝鮮リスク>

2018年の注目人物第2位は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長である。米朝の緊張がこれまでにないほど高まっているなかで、やはり2018年も、金正恩氏の発言や動向には注目が集まるだろう。

2017年は16回ものミサイル発射実験を実施。その都度為替市場では円高が進行した。ただ、別名「恐怖指数」とも呼ばれるVIX指数をみると、興味深いことがわかる。VIX指数は、通常10―20の間で推移するが、市場参加者が総悲観となり、株価が暴落するような局面では20を超えるとされている。

2016年には20を超えたケースが3回みられた。1回目は1月、原油価格が暴落し1バレル=20ドル台に下落した際にVIX指数は32まで急騰した。2回目は6月の英国民投票での欧州連合(EU)離脱決定、いわゆるブレグジット・ショックだ。英国民の予想外の選択を受けて世界的に株価が下落、VIX指数は26まで上昇した。そして3回目は11月のトランプ・ショック。米大統領選で、予想外にトランプ氏の当選が決まると、先行きへの不安から一時は市場がリスクオフに傾き、VIX指数も23まで急伸した。

しかし、2017年のVIX指数は、実は1度も20を超えていない。北朝鮮がミサイルを発射した際にはVIX指数が上昇しているが、水準としては15―17程度までにとどまっている。これには3点ほど理由があるとみている。

具体的には、1)ゴルディロックスにより、基調として市場全体がリスクオンに傾いていた、2)VIXはS&P500指数のボラティリティーをベースとしているが、米国民にとっては北朝鮮問題が差し迫った脅威とはなっていなかった、3)頻繁にミサイルが発射されたため、市場参加者が慣れてしまった、などが要因として挙げられよう。

ただ、2018年は2017年よりも事態が深刻化する可能性もあるため警戒が必要だ。米中日韓を中心に国連安全保障理事会で決議された北朝鮮への制裁が続くなか、北朝鮮経済も2018年のどこかでかなり厳しい状態に陥るとの見方もある。そうなった際に、単純に白旗をあげるか、あるいは国際社会を恐怖に陥れるようなより過激な行為に走るのか、金正恩氏の場合読み取ることは難しく、不透明な情勢は続くだろう。

前述した通り、2018年はゴルディロックスでリスクオン相場とみているものの、北朝鮮問題が円高をもたらす可能性には警戒したい。

<2018年も「トランプ円高」リスクに要注意>

最後に注目人物の第1位といえば、やはりこの人をおいてほかにいないだろう。ドナルド・トランプ第45代アメリカ合衆国大統領である。税制改革法案は無事に議会を通過したものの、トランプ大統領は現在、政権運営においてかなり逆風にさらされていることは確かだろう。

12月12日に投開票が行われたアラバマ州の上院補欠選挙で、共和党候補のロイ・ムーア氏が敗北したことは、トランプ政権にとって大きな痛手である。上院は共和党が100議席中52議席占めていたのが、51議席になったことで、たった2人の造反でも法案が通らない事態もあり得る。

また、アラバマ州はもともと南部の中でも特に保守票の多い州であり、1997年以来、州選出の連邦上院議員は2議席とも共和党が占めてきた。こうしたなか民主党に議席を明け渡した背景には、ムーア氏のわいせつ疑惑のみならず、トランプ大統領に対する批判も含まれている可能性がある。トランプ大統領が自身に対する支持率を挽回しようと、さらに保守色を強める可能性は、2018年のリスクの1つに挙げられるだろう。

エルサレムをイスラエルの首都に認定したことは「人気取り」の片鱗かもしれないし、北米自由貿易協定(NAFTA)などの自由貿易に対抗する姿勢、為替政策なども、2018年に突如円高に振れるリスクを伴っている。トランプ大統領の発言や動向からは、2018年も目が離せない。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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