January 31, 2018 / 7:51 AM / 10 months ago

コラム:円高とユーロ高、「カップリング」の賞味期限=尾河眞樹氏

[東京 31日] - ドル円相場は年明け早々、110円ちょうどを割り込んで下落した。想定外なのは、年初来、米10年債利回りが2.4%台から2.7%台へと上昇したにもかかわらず、ドルの名目実効為替レート(BIS基準)は2.4%の下落と、ドル安が加速したことだ。

このため、日米の10年債利回り格差が拡大している一方で、同時にドル安・円高が進行しており、通常は相関性が高い金利差と為替レートの関係は、足元で全くの逆相関となっている。

ドルの名目実効為替レートに着目すると一本調子の下落トレンドとなっているため、あたかもドル安が為替相場のけん引役のようにみえるが、筆者は今回のケースはこれに当てはまらないと考えている。ドルが主体的に下落しているというよりは、ユーロ高と円高によってドルが押し下げられている可能性が高い。

名目実効為替レートで確認しても、特に1月以降は円高・ユーロ高が進み、この結果、ドル安が一段と加速している様子が見て取れる。昨年までは欧州中銀(ECB)による金融政策の「正常化」が為替市場のテーマだったが、年明けから日銀の「正常化」もこの仲間に加わったことで、ユーロとともに円にも上昇圧力がかかった。つまり、ユーロ高・円高にけん引される形で、ドルは下落トレンドとなっているのだ。

<脇に追いやられた「金利差」ストーリー>

ここのところ、市場参加者が日銀の金融政策の「正常化」に対して神経質になっている様子がうかがえる。きっかけは、1月9日の日銀による超長期国債の買い入れオペ減額だ。この時、債券市場の反応は軽微にとどまったにもかかわらず、為替市場では急速に円高が進行した。

また、1月23日に日銀が公表した、「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」にも為替市場は反応。同レポートで日銀は、予想物価上昇率について「横ばい圏内で推移」と、前回レポートで示された「弱含みの局面」からわずかに上方修正した。あくまで軽微な表現の修正だったが、為替は再び円高に振れた。

さらに、1月26日に世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での、黒田東彦日銀総裁の発言にも市場参加者は注目した。同総裁が、根強いデフレ圧力について説明した上で、それでも「ようやく物価目標に近い状況にある」と述べたことに為替市場は敏感に反応し円高が進行した。

これまでならほぼ無視されたであろうこれらの材料に対して、市場はやや「過敏」ともいえるほど円高に反応している。昨年11月、黒田総裁は「リバーサル・レート」、つまり、金融緩和の長期化が、金融機関の収益悪化を通じてかえって景気にとってマイナスになるという議論に言及したが、これが市場で根強く意識されていることが背景にはあるようだ。

また、シカゴIMM通貨先物市場の投機筋のポジションからもうかがえる通り、為替市場で円売りポジション(円ショート・ポジション)が積み上がっていることなども、円高方向の報道に対して、市場が敏感に反応しやすい要因となっている。

1年前のちょうど今頃、IMMの投機筋によるユーロポジションは、現在の円ポジション同様に約13万枚と、大きくショート・ポジションに傾いていた。その後、ECBの量的緩和縮小が市場のメインテーマとなる中で、ユーロは急上昇。ポジション調整が進み、ユーロ買いポジション(ユーロ・ロング)に転じ、2017年通年でユーロは対ドルで約15%上昇した。

独10年債利回りが0.7%、米10年債利回りが2.7%と、米金利が明らかに独金利を上回っており、本来であればユーロに対してドルが買われやすい環境なはずである。しかし、15%もの上昇トレンドとなれば、キャリー取引によるわずかな金利差益よりも、人々は為替差益を得ようとするものだ。

「金利差」のストーリーは低ボラティリティーの環境において有効なのであり、ひとたび「金融政策の転換」という大きなテーマに市場参加者が殺到すれば、金利差の話はとりあえずいったん横に置かれてしまう。あくまで仮定の話だが、もし日銀の「正常化」が今後市場のメインテーマとなり、円が昨年のユーロ同様、対ドルで15%上昇するとなれば、足元の109円を起点とすると、ドル円は92円台まで下落する計算となる。内閣府の調査によれば、直近の輸出企業の採算レートは99.90円だが、同水準をも大幅に下回ってしまう。

こうしたリスクを踏まえれば、日銀は少なくともドル円が118―120円をうかがうほど十分に円安が進み、市場にも日銀の「正常化」が十分に織り込まれた状態を確認してからしか、政策を変更することはないだろう。

<「テーパー・タントラム」と「黒田バズーカ2」の教訓>

果たして円は今後、これまでユーロがたどってきた道を踏襲し、大幅上昇となるのだろうか。筆者は、一度歪んだ市場はいずれ修正され、元に戻ると考えている。過去に金利差と為替の関係が歪んだ例を見てもそうだ。

日米の長期金利差とドル円相場は、期待インフレ率を除いた実質ベースで比較すると、長期にわたり相関関係が非常に高いが、過去にも現在の状況と同様に、一時大きく相関が崩れたことがある。いわゆる「テーパー・タントラム」(緩和縮小に対するかんしゃく玉の破裂の意味)と呼ばれた時だ。

2013年5月、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長(当時)が突然、「量的緩和縮小(テーパリング)」を示唆したことで、金融「正常化」期待から米長期金利が跳ね上がり、日米金利差は急拡大。一方、対ドルで新興国通貨が暴落し、市場全体がリスクオフに傾いたことで円高が進行した。日米金利差の拡大とドル円の下落が同時に起きた環境は、まさに足元の相場に類似している。

結局のところ、この実質金利差とドル円のかい離は、ドル円が金利差についていく形で上昇し最終的には収束した。収束のきっかけは日銀の金融政策だった。黒田日銀総裁の下、2014年10月に決定された大規模な追加緩和、いわゆる「黒田バズーカ2」によって大きく円安に振れたことで収束したのである。

今後、トランプ減税やインフラ投資によって、米国経済が拡大する方向にあることを踏まえれば、金利差がドル円の下落を後追いして縮小するのではなく、やはり足元の日米金利差のほうにドル円相場がついてくる形で、両者はやがて収斂(しゅうれん)するだろう。

しかし、前回同様、それにはきっかけが必要だ。もし日銀がECBの「正常化」に追随すると市場参加者がにらんでいるのであれば、このままユーロとともにずるずると円高傾向は続いてしまう。ユーロと円のカップリングを断ち切るには、日銀による指値オペは1つの有効な手段かもしれない。

例えば、10年債利回りの上限を現在の0.11%ではなく0.10%など、0.11%をやや下回る水準でキャップすれば、日銀はこれまでの緩和スタンスを当面維持することが明確になるため、「正常化」期待がいったんは払拭(ふっしょく)されるだろう。

あるいは、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で提示される新たなドットチャートで2018年に4回の利上げが示唆されるなど、利上げのペースがこれまでよりも速まるようであれば、これもドル円の反転上昇につながるとみている。

筆者は上述した10年物の日米実質金利差の水準を踏まえ、ドル円の年末予想値は118円に据え置いているが、足元のドル円下落と市場の日銀「正常化」への警戒感を勘案し、9月末予想を120円から115円へと引き下げた。従って、日銀の政策変更(10年国債利回り目標の引き上げなど)は、年内は難しく、来年4月にずれ込むと予想している。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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