September 24, 2019 / 8:33 AM / 22 days ago

コラム:ドル円上昇へ整い始めた3条件 米大統領選がなお波乱要因=尾河眞樹氏

[東京 24日] - ドル円相場は徐々に底打ち感が鮮明になってきたように見える。本格的に上昇するにはまだ不透明感が残るものの、その環境は次第に整いつつあるのではないか。ドル円上昇のカギを握る3つの条件について考えてみたい。

 9月24日、ドル円相場は徐々に底打ち感が鮮明になってきたように見えると、ソニーフィナンシャルの尾河氏は指摘する。写真は外国為替取引業者の建物前に設置されたドル/円の掲示板。2014年9月17日、東京で撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

<中銀イベントで円高リスクは後退>

第1の条件は、ドイツ国債の利回りの動きで、その急低下には歯止めがかかりつつある。同国の長期債利回りは、国内の製造業PMIが50を下回った今年1月頃から下げ足を速め、5月には10年債利回りが日本国債の利回りを下回る展開となった。

独国債の利回り低下は相対的に利回りの高い米国債の魅力を高め、その利回りを押し下げてきた。一方、日銀はイールド・カーブ・コントロールにより10年債利回りを「0%付近」に維持しており、米独の長期金利が急低下する局面においても、日本の低下ペースは相対的に緩やかで、これが間接的に円高圧力を強めてきたとみている。しかし、直近ではこうした環境にも徐々に変化がみられている。

欧州中銀(ECB)は9月12日の理事会で、(1)中銀預金金利の10ベーシスポイント(bp)引き下げ、(2)11月1日からの資産買い入れ再開(月200億ユーロ、オープンエンド型)ーを柱とする包括的な緩和策を決定した。ただ、ECB理事会の多くのメンバーから、資産買い入れ再開には反対の声が上がり、それに加えて、債券買い入れのルール変更もなかったことなどから、ECBの緩和余地が限られることが浮き彫りとなり、その後、独国債利回りは上昇した。

また、9月18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通り25Bpsの利下げが決定された。ただ、注目されていたFOMCメンバーによる政策金利見通し、いわゆるドットチャートでは、17名のうち7名が9月に利下げを行ったうえで年内あと1回の追加利下げを予想する一方、5名は9月利下げの後は金利据え置きを予想、残りの5名は9月も含め年内の政策金利は据え置きと見ていた。メンバーの間でも見通しはバラバラなうえ、全体としてみれば年内に追加利下げが必要だとするメンバーのほうが、少数派であることが分かった。

パウエル議長もあくまで今回は「予防的な利下げ」であるとの考えを崩さなかったため、全体としてFOMCは「タカ派的」との解釈から、直後に米長期金利は上昇した。

一方、日銀は19日の金融政策決定会合で金融政策を据え置いた。前述したFOMC後にドル高・円安が進行していたため、あえて追加緩和に踏み切る必要はなかった。ただ、「次回10月の決定会合で、経済・物価動向を改めて点検していく」とし、次回会合で何等かのアクションを起こす準備をするとの印象を強めた。

ECBとFRBは9月の会合で共に利下げしたものの、むしろタカ派と受け取られて長期金利が上昇した一方で、日銀は政策を据え置いたものの次回以降に緩和を温存したため、追加緩和への市場の「期待」はむしろ高まり、最もハト派なメッセージを打ち出すことができた。欧米の利回りが一段と上昇するには経済指標の改善が必須だが、少なくとも日銀が最もハト派な印象を市場に与える形で9月の一連の中銀イベントを切り抜けられたことは、当面の円高リスク後退につながったと言えよう。

<米製造業のマインド悪化、消費には響かず>

ドル円上昇の第2の条件としては、米国経済指標、特に製造業の改善が挙げられよう。2018年8月をピークに米ISM製造業景況指数は低下トレンドとなり、2019年8月には49.1と、景気拡大と縮小の分岐点と言われる50をいよいよ下回った。ただ、同月のISM非製造業景況指数は56.4と良好で、企業のマインド悪化は今のところ米中摩擦の影響をダイレクトに受けやすい製造業のみにとどまっているようだ。

また、8月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数は前月比13万人増と、市場予想の16万人を下回ったものの比較的堅調で、失業率は3.7%と前月と変わらず、平均時給は前年比3.2%上昇と、市場予想の3.0%を上回った。

驚いたのは8月の米小売売上高で、前月比0.4%増と、市場予想の0.2%を上回る大幅な伸びとなった。これらを見る限り、製造業のマインド悪化が雇用や賃金、個人消費など、人々のおサイフや消費行動にまで波及している様子は伺えない。

しかし、いつかは波及するのではないか、景気後退に向かうのではないか、という懸念が米長期金利の重しになっているとすれば、この不安を払拭するには製造業のマインドの改善が必要だろう。ISM製造業景況指数などが再び50を上回って底打ち感を見せれば、過度な利下げの織り込みも後退し、米長期金利の上昇とともにドル円も109円〜110円方向に向かうのではないか。

<読みづらい米中摩擦の行方>

米国の企業マインドを改善するには、米中貿易摩擦の緩和が必須である。したがって、ドル円上昇の第3の条件としては米中関係の改善を挙げたいが、実際はこれが最も厄介だ。

8月1日の「トランプショック」による米株安・円高に加え、その後の米中歩み寄りによる株高・円安など、市場では振幅の大きな動きが続いている。トランプ大統領が来年11月の大統領選をにらみ、株価や支持率をみながら行動するためか、先行きは極めて読みづらい。直近では9月20日、訪米中の中国代表団が、当初予定していたモンタナ州の農家への視察を中止、予定を早めて帰国する事態となり、失望感から米株安・円高が進行した。

米中摩擦は今やファーウェイ問題など、ITの覇権争いや安全保障問題に発展している。貿易問題において「部分なりとも合意できるのではないか」と期待されていた農業分野でも、交渉は難航しているようだ。トランプ大統領は「中国との全面的な通商合意を望んでおり、部分的な合意ではない」と強気だが、総てをご破算にして支持率を落とすのはさすがに避けたいのが本音ではないだろうか。

大統領選とドル円相場の関係をみてみよう。過去8回の大統領選において、投票日を100として前後1年間のドル円相場の動きを比較すると、一部例外はあるものの、投票日にかけてドル安・円高が進行し、投票日を過ぎるとドル高・円安となる傾向が見られる。

これは、選挙期間中、候補者が国内向けのアピールのために「海外たたき」をする傾向があり、場合によっては為替問題を持ち出したりすることが、要因のひとつと見られる。選挙後は新政権の政策への期待から、ドル高が進み易い。

<ドル円への影響、通常とは逆の動きも>

ただ、今回の大統領選については、ひょっとするとドル円に及ぼす影響は通常と逆になる可能性がある、と筆者は考えはじめている。トランプ大統領は再選を果たすため、選挙期間中に減税などの景気刺激策を検討したり、対中政策も一部なりとも合意をめざし、緊張を和らげる可能性があるだろう。これはドル高・円安要因となる。

一方で、ひとたび再選されれば、その後の株価動向や支持率に対する同大統領のセンシティビティが低下し、むしろ元来の「米国第一主義」や「中国叩き」を貫こうとするかもしれない。

さらに注意しなければならないのは、中国脅威論は決してトランプ大統領だけのものでも、共和党だけのものでもないということだ。米国輸出管理改革法(ECRA)が議会を通過していることからもわかる通り、これは米議会全体に共通している課題認識である。仮に民主党が大統領選に勝ったとしても、選挙後は米中関係が一段と悪化しているリスクはあろう。

前述した3つの条件が一段と確実にそろってくれば、来年にかけてドル円の上昇が見込めよう。しかし、現段階ではまだ不確定要素が多いものの、来年大統領選後の政治的不透明感による円高リスクも、ある程度視野に入れておくべきかもしれない。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

尾河眞樹氏 ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員兼金融市場調査部長

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

(編集:北松克朗)

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