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コラム:総選挙と円相場、「まさか」は杞憂か=尾河眞樹氏
2017年10月3日 / 02:41 / 2ヶ月前

コラム:総選挙と円相場、「まさか」は杞憂か=尾河眞樹氏

[東京 3日] - 9月28日、衆議院が解散された。10日前の18日、新聞各紙は安倍晋三首相が28日に召集される臨時国会の冒頭で解散に踏み切る意向であることを報じた。3連休明けの19日の東京市場では株価が上昇。東京が祝日だった18日中にドル円は110円台後半から上昇し始め、19日には111円台後半まで上昇する場面もみられた。

民進党は党首が前原誠司代表に交代したばかり。若狭勝氏を中心とした新党結成の動きもまだ本格化していないなかで、市場で「安倍政権続投」との見方が広がったことが背景にはある。そもそも「政治の安定」は「金融市場の安定」につながり、市場参加者からはポジティブに捉えられる傾向がある。

これに加え、一部の、特に外国人投資家の間では「アベノミクス=円安・株高」のイメージが依然として強いことも、市場が円安・株高に傾いた主な要因と言えよう。

しかし、市場参加者の読みとは裏腹に、選挙情勢は混とんとし始めた。サプライズだったのは、小池百合子東京都知事が新党「希望の党」を結成したことだ。

民進党の前原代表は9月28日の両院議員総会で、希望の党と事実上合流する方針を固め、党内で理解を求めた。その後、希望の党と日本維新の会との選挙協力も報じられている。「小池代表の人気は関東では高いものの、関西やその他の地方で希望の党が勝つのは難しいのでは」という一般的な見方に対しても、維新と手を組むことで一石を投じた格好だ。

希望の党は前民進党の議員も含めて200人以上の候補を擁立する方向。安倍首相は勝敗ラインを「与党で過半数(233)議席」としているが、国会運営を安定的に進めるには「安定多数」である244議席を確保する必要がある。これは与党で80議席を減らす計算になるため、当初可能性はほぼないとみられていたが、希望の党が勢いを増すなど政治情勢は日々刻々と変化しており、何が起こるかわからない状況だ。

<安倍政権続投でも円安効果は限定的>

2007年10月、すでに首相を退任していた小泉純一郎氏がスピーチで、「人生には、上り坂もあれば下り坂もあるが、もう一つ『まさか』という坂がある。これからの政局もいつ『まさか』がくるかわからない」と、同年8月、当時の安倍首相(第1次安倍内閣)が突然辞任したことを受け、述べた言葉が思い出される。

今回、新党結成に至った小池劇場も、安倍首相にとってみれば「まさか」に映ったに違いない。当初「安倍政権続投」を確実視していた市場参加者にとっても然りだ。今後の選挙動向次第では、金融市場に影響が及ぶ可能性も出てきたと言える。

過去の衆議院解散総選挙をさかのぼってみると、金融市場や為替相場への影響はまちまちで、特に一貫した「傾向」はみられない。ただ、こと為替相場について言えば、2012年12月と14年12月の2回の衆院選では、安倍氏の勝利は円安につながっている。

2012年、民進党(当時は民主党)の野田佳彦政権から安倍政権へと政権が交代したいわゆる「近いうち解散(2012年11月16日)」では、選挙が実施された2012年12月16日以降の3カ月間で、ドル円は84円台から95円台まで上昇した。

また、2014年11月21日の「アベノミクス解散」では、消費税率10%の是非が争点となったが、選挙が実施された同年12月14日から3カ月間で、ドル円は118円台から121円台まで上昇している。このように、アベノミクスによる為替市場への影響は、それなりに大きかったと言える。

「アベノミクス」によって黒田東彦総裁の下、日銀はインフレターゲットを導入。量的緩和を実施したことで、ドル円は84円台という超円高からの脱却を果たした。ただ、今年7月に行われた東京都議選では、自民党は歴史的な大敗を喫したにもかかわらず、週明けの東京市場の反応は限定的だった。

アベノミクスの下でのドル円相場のピークだった2015年の125円台から、現在は113円近辺と、すでに大幅に円高となっていること、また2%のインフレターゲットは依然達成されていないことなどを踏まえれば、これまでの選挙でみられた「アベノミクス=円安」という公式も相当程度効力が薄れていると思われる。

しかし、今回は国政選挙であることに加え、上述したような過去の経緯に鑑みれば、仮に安倍政権続投となった場合には、ドル円は少なくとも短期的には上昇するとみてよいだろう。反対に敗れれば、「サプライズ」や「今後の不透明感」という要素も加わるため、比較的大幅に円高が進行する公算が大きい。

直近2014年の衆院選では、与党が3分の2議席以上獲得したにもかかわらず、3カ月で3円程度の円安・ドル高にとどまった。これを踏まえれば、獲得議席数や国外の経済情勢にもよるが、今回の衆院選で安倍政権続投の場合、円安幅は選挙後1カ月間で1円程度、反対に敗北した場合は同期間で2―3円程度円高に振れるイメージである。

<選挙までの注目点は3つ>

今後の選挙の行方を見通すうえで、筆者が注目しているポイントは次の3点だ。第1に、希望の党の小池代表自身が今回の衆院選に出馬するか否かである。出馬する場合は、国民の選挙に対する関心が一段と高まるなかで投票率が高くなる可能性がある。

2012年の衆院選の投票率は59.32%、2014年は52.66%と、安倍政権はこれまで投票率が極めて低いなかでの勝利だった。一般的には投票率が低いほど組織力の高い自民党に有利とされるが、投票率が上がるほど、新党への風が吹く構図となり得る。

これと反対に、もう1つの可能性としては小池代表が東京都政を放り出すことに対する「無責任論」の台頭で、かえって希望の党への人気が著しく低下する可能性も否定できないだろう。

第2のポイントは「青木率」である。内閣支持率と与党第一党の支持率を合計した数値のことだが、これが50%を下回ると政権の存続が危うくなるといわれている。直近のNHKによる世論調査では、安倍内閣支持率が44%前後、自民党支持率が38%となっており、全体で82%と高水準。日本では4―6月期の国内総生産(GDP)成長率は前期比年率2.5%、失業率は2.8%まで低下するなど、足元の景気が良好であることも現政権の青木率を支えているようだ。

一方で、どの世論調査をみても、安倍首相の今回の解散総選挙の判断に対しては「賛成」より「反対」の声が圧倒的に高く、今後の動向次第では「青木率」が低下する可能性もある。

第3は北朝鮮の動向だ。北朝鮮によるミサイル発射などの挑発行為がエスカレートするほど、人々の不安が高まり安倍内閣の支持率は上昇しやすい。特に、安倍首相とトランプ米大統領の関係は良好で、9月19日の国連総会での一般討論演説で、トランプ大統領は北朝鮮に対する警告を強めるなか、日本人拉致問題に言及した。こうしたことも、安倍政権にとっては追い風となり得る。

これらの注目ポイントがどう変化するかは、極めて不透明であり、ドル円相場も一本調子の上昇トレンドは描きにくく、投票日までは方向感に欠ける展開が続きそうだ。安倍政権続投となっても、前述した通り、それによる円安効果は1円程度とみており、ドル円が115円をつけるのは、米連邦準備理事会(FRB)が次の利上げに踏み切る可能性のある12月頃と予想している。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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