March 2, 2018 / 8:32 AM / 3 months ago

コラム:投機筋の円ショートに2つの謎、一段の円高は杞憂か=尾河眞樹氏

[東京 2日] - IMMにおける投機筋の円持ち高(ポジション)に対する、為替市場参加者の注目度は高い。IMMとは通貨先物取引所(International Monetary Market)で、米イリノイ州シカゴにある金融・商品先物取引所、「シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)」の一部門である。

米商品先物取引委員会(CFTC)の規定で、先物取引所におけるポジションには報告義務があるが、毎週火曜日締めで集計が行われ、その週の金曜日に報告される。この投機筋による円ポジション(対ドル)の動きは、歴史的に見てもドル円相場との相関性が高いことから、足元のように年初来円高が進んでいる環境においては、特に関心は高まっているようだ。

もちろん、IMMで取引している投機筋が市場参加者の全てではない。しかし、海外投機筋は比較的「順張り」、つまり相場のトレンドに沿って取引をする傾向にあることから、IMMのポジションを見ると、「短期勢」や「投機筋」と呼ばれる市場参加者の、足元の相場観がつかみやすい。

加えて、投機筋の特性として、必ずどこかで利益確定、あるいは損失確定を行うことから、ポジションが一方向に大きく積み上がった際には、そろそろ「ポジション調整」が起き、相場が反転する可能性が高いという見方もできる。

足元の円ポジションは、2月20日時点で10万8000枚の円ショート(円売り越し)となっている。2017年11月の11万4000枚や、2013年12月の14万4000枚に比べれば小さいものの、円ショートが10万枚を超えるのは、歴史的に見ても少なく、それなりに規模は大きいと言える。

ちなみに、遡及可能な1992年10月以降で最大の円ネットショートは2007年6月の18万8000枚で、まさに「ゴルディロックス(適温経済)」と言われ、株高でリスクオンとなる中、円キャリートレードが流行った時期だ。円キャリートレードとは、超低金利の円を調達してこれを売り、高金利通貨を買うという「金利差益」を狙った取引である。

当時、円はドルに対しても大幅に下落し、2007年6月までの1年間でドル円は113円から123円まで上昇した。しかしその後、サブプライム・ショック、リーマン・ショックによってゴルディロックス相場は終焉。市場がリスクオフに転じる中、円ショートも一気に巻き戻されることになった。

<崩れるIMM円ポジションとドル円の相関>

足元、円ショートが大きく積み上がっている状況を考慮すれば、「仮にこれが巻き戻されたら、とんでもない円高になってしまう」と危惧せざるを得ないが、IMMポジションとドル円の関係を見るにつけ、やや不可解な点に気が付く。謎は主に以下の2つだ。

●2018年初来、113円台から105円台へと急速に円高が進行したにもかかわらず、円ショートは12万枚から10万枚へと、2万枚程度しか減少していない。特に直近では円高が進行した週に、むしろわずかながら円ショートが増加するケースさえみられる。

●2017年は、年初の8万6000枚から、年末の12万2000枚まで円ショートが拡大したが、それにもかかわらずこの間円安はほとんど進んでおらず、ドル円はおおむね107円から115円の間を行ったり来たりしていた。

つまり、端的に言えば、2017年以降、現在に至るまで、IMMの円ポジションとドル円の相関性は崩れており、「現在の円ショートが巻き戻されれば大幅な円高になる」と断言できるほど単純な相場環境ではなさそうだ。

IMMポジションを円で見るのではなく、ドルを軸に総合的に確認すると、興味深いことが分かる。ドルは、円やスイスフランなどに対してはロングポジション(買い越し)だが、ユーロや豪ドル、カナダドル、メキシコペソ、英ポンドなどに対しては大幅にショートポジションになっているのだ。

これは、2017年に欧州中銀(ECB)の金融政策の「正常化」、いわゆる緩和からの出口戦略に注目が集まったことで、ユーロ買い・ドル売りが大きく進んだことが主な要因だ。他にも、10年ぶりの利上げに踏み切った英ポンドや、7年ぶりに利上げしたカナダドルなども、出口戦略が焦点となる中、対ドルで上昇した。

IMMのポジションは、例えば円ポジションであれば1枚につき1250万円と、現地通貨建てで金額が決まっているため、契約枚数、金額と為替レートを計算すれば、ドル建ての実額ベースのポジションが分かる。

そこで調べてみると、主要7通貨で積み上げた場合、対ユーロ、豪ドル、英ポンド、カナダドル、メキシコペソのドルショートは、2月20日時点で235億ドル。このうち82%が対ユーロだった。これに対し、ドルロングは、対円、対スイスフランでは147億ドルで、このうち85%が対円となっている。このドルポジションとドルの名目実効為替レートの相関性は高く、前述したとおり、2017年に大幅にドル安が進行した背景には出口戦略期待のユーロ買い・ドル売りがあったことが分かる。

他方、ドル売り圧力にもかかわらず、ドル円で円高にならなかった背景には、日米金利差拡大を狙った円ショートの積み上がりがあったとみられる。昨年末、ドル円がレンジ相場を維持していた背景には、ドル安の一方で、円安圧力がこれを支えていたのであり、仮に今後リスクオフによって円高が進行したとしても、ポジション調整によって対ユーロや豪ドル、カナダドルなど、幅広くドルも買い戻される可能性が高い。よって、これが支えとなって、ドル円単体で見たときには100円ちょうどをうかがうような一方的な円高にはなりにくいとみている。

<ドル円の緩やかな反転上昇は4月以降か>

ただ、為替市場では、目先、1)米中間選挙に向けた保護主義色の強まり、2)日銀の出口戦略に対する警戒感、3)米長期金利上昇による株安への警戒感など、円高に向かいやすい材料が目立つのも事実だ。特に、日銀と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策の不透明感はドル円の上値を抑えている可能性が高い。

IMMの円ショートポジションは、黒田東彦日銀総裁の講演で「リバーサルレート(緩和が長期化すると、金融機関の収益悪化によってかえって景気にマイナスという議論)」に対する言及があった2017年11月以降、積み上がりにブレーキがかかった。徐々に日銀の「出口戦略」への注目度が高まる中、1月9日のオペ減額で為替は円高に振れた。さらに、日銀は2月28日にも、残存25年超のオペ減額を実施した。超長期ゾーンの金利低下に対応したものとみられるが、こうしたオペレーションが、日銀の緩和スタンス維持に対する疑問符となっている可能性はあるだろう。

3月2日、黒田東彦日銀総裁は衆院議院運営委員会での所信表明後の質疑で、「2019年度に物価が目標の2%に達すれば、出口を検討、議論していくことは間違いない」と述べ、一段と円高が進行した。物価が2%に達する可能性は極めて低いものの、「日銀は来年にも出口戦略に向かう」との誤解を招きかねない発言だ。今後市場の「正常化」期待を払しょくするよう努めるかどうかが注目される。

また、3月21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で公表される政策金利見通し、いわゆるドットチャートに注目したい。2018年の利上げ予想が3回から4回に増加していたとしても、むしろ今後の利上げペースが明確になることで、市場は落ち着きを取り戻し、為替市場においても、日米金利差拡大に再び注目が集まる公算が大きい。

3月は期末を迎えた企業の為替取引も活発になることから、しばらく円高圧力は続きそうだ。ドル円の緩やかな反転上昇は4月以降となる可能性が高い。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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