April 4, 2018 / 2:21 AM / 15 days ago

コラム:貿易戦争の円高ストーリーは短命か、美人投票の教訓=尾河眞樹氏

[東京 4日] - かつて経済学者ケインズは、「玄人筋が行う投資は、新聞の『美人投票』のようなものだ」と述べた。この場合の「新聞の美人投票」とは、「最も美人な人」ではなく、「最も多数の人が美人と思う人」を選ぶことである。今年の為替相場をみていると、この言葉は相場というものの本質を突いていると改めて感じる。

米国が利上げを続ける中、日米金利差が拡大したにもかかわらず、ドル安・円高傾向は続いており、経済のファンダメンタルズと為替相場の乖離は一向に縮まらない。これは、市場参加者の多くが金利差のストーリーを「美人」とは思っておらず、別のストーリーに投票しているということだ。

しかも、その投票先はこのたった3カ月間でころころ変わった。1月は「日銀の出口戦略」、2月は「米長期金利急騰による米株安」、そして3月は「貿易戦争」といった具合で、いずれも円高方向のストーリーとなった。

市場参加者が相場にテーマ性を求める時、「金利差」のロジックは、とりあえず横に置かれる。特に、足元のようなグローバルに低インフレの環境下においては、「金利差拡大」といっても、その差は微々たるものだ。ひとたびボラティリティーが高まり、短期的に円高トレンドが形成されるとみれば、投機筋は金利が低くても円を買う。じきにボラティリティーが落ち着けば、再びファンダメンタルズに人々の関心は戻り、為替相場も金利差に沿った動きになるだろう。

ただ、為替相場を予測する際に注意すべき点は、ケインズの言うように、「市場参加者の多くが今後何をテーマにするのか(美人と思うのか)」を予測する必要があるということだ。年初来の円高を読み切れなかったことについては筆者も大いに反省するところである。

<貿易戦争への「投票」集中も梅雨までか>

そういう観点で市場環境を改めて俯瞰(ふかん)すると、目先はネガティブな材料ばかりが目立つ。安倍内閣支持率は佐川宣寿前国税庁長官(前財務省理財局長)の証人喚問を経て、一時の38.7%から、直近3月31日―4月1日の調査(共同通信社実施)では42.4%へと回復したものの、不支持率は47.5%と依然として高水準だ。

海外に目を向ければ、日米関係は首脳同士の蜜月からは、微妙に距離が生まれつつあるようにみえる。3月23日に米国が発動した鉄鋼・アルミニウム製品に対する追加関税措置で、日本がその対象国から外れることはなかった。

また、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は3月25日から4日間にわたって中国を電撃訪問し、両国の友好ムードを演出。韓国は4月27日に北朝鮮との首脳会談を決めた。米国も5月末までに米朝首脳会談を予定しており、各国の動きが活発化する中、日本の存在感はやや薄れているようにもみえる。貿易問題や北朝鮮問題を巡る各国の思惑は複雑に絡み合い、外交は極めて混沌(こんとん)としている。

さらに、追加関税にもみられたように、中間選挙を控えたトランプ政権の唐突な政策発動リスクも増している。日本を巡る環境は、まさに「内憂外患」であり、いつ円高トレンドが再燃してもおかしくない状況だ。

おそらく、為替市場の当面のテーマは「貿易戦争」であり、報道次第で円高圧力がしばしば強まる局面はあろう。しかし、報復関税の応酬は誰の得にもならないことは、リング上でファイティングポーズをとっている米中ともに理解しており、本気の殴り合いにはならないまま、両者はいずれリングから降りるとみている。

米国の通商法301条に基づく対中関税措置の対象品目原案は3日公表されたが、リストの中身は今後、米国企業からの意見も聴取しながら2カ月程度にわたり精査される見通しだ。米国企業にとっても、特にIT関連は関税引き上げがマイナスの影響となるケースも多いはずで、それらはリストから除外されるか、米国経済には影響が及びにくいマイルドな内容へと形を変えていく公算が大きい。従って、日本が梅雨に入るころには、為替市場における「貿易戦争」のテーマ性は薄れているのではないか。

<中間選挙後のドル円上昇余地は>

しかし、仮にそうだとしても、ここですぐに気を抜くことはできないかもしれない。その後11月にかけては、いよいよ米国の「中間選挙」が最大のテーマとなり得るからだ。

1990年以降、過去7回の中間選挙について、選挙当日を100として、その前後のドル円相場の動きをみると、明確に上昇したのは、アベノミクス相場で大幅に円安となった2014年の1回のみで、残り6回は、選挙当日に向けて円高・ドル安が進むか、あるいは横ばいだった。

大統領選挙でも選挙前に円高が進む傾向がみられるが、これは大統領候補者(中間選挙の場合は、大統領や政権の要人)が選挙に勝つために国内向けのリップサービスを行う傾向があるからだろう。選挙前には「外国たたき」発言が熱を帯びたり、保護主義色が強まりやすいなどの傾向がみられる。

今回については、6月ごろまでに米中貿易戦争が一巡した場合、トランプ政権が、今度は日本を含む他の国に保護主義の矛先を向ける可能性や、現実味には乏しいものの同政権から「ドル安容認」と受け取られるような発言が飛び出すリスクもある。

一方、中間選挙後のドル円相場をみると、これもまた1994―95年の大幅な円高・ドル安局面の1回を除き、残り6回は緩やかな円安・ドル高になるか、横ばいで底堅く推移している。選挙後のドル高・円安傾向は、中間選挙後に比べると、大統領選挙のほうが顕著に出やすいのは事実だ。

1992年以降で、大統領選挙後にドル円が上昇した5回を平均すると、ドル円は1年程度かけて約13%上昇している。ドル高・円安が最も進んだのは2012年の大統領選挙だが、安倍政権誕生の影響はあったものの、選挙後の約半年でドル円は約27%上昇。2番目に大きく上昇した2000年は約17%の上昇だ。

これに対して、中間選挙では、選挙後ドル円が上昇した5回の平均で約5%、最も上昇した1990年と2014年でも、11%程度にとどまっている。

大統領選挙は、トランプ大統領当選の時もそうだったように、新たに選ばれた大統領による政策への期待が高まりやすい。しかし、中間選挙は選挙前の不透明感が払しょくされることが、選挙後のドル円相場の回復にはつながりやすいものの、政権自体は変わらないため、その後ドル円相場を劇的に押し上げるほどの新たな期待は生じにくいということだろう。中間選挙が終わることは、あくまで市場が次のテーマを探し始めるきっかけ程度にすぎず、そのテーマが日米金利差に戻るかどうかが、来年に向けたドル円の鍵を握る。

米国経済の堅調さに鑑みて、筆者は米国の2018年の利上げ見通しについて、3回から4回に引き上げた。良好なファンダメンタルズは変わらず、年後半は円安・ドル高に向かうとの見方に変わりはない。

しかし、市場のテーマを考えるにつけ、金利差が無視されるような環境はもうしばらく続きそうであること、政治要因が突然悪い方向に向かった場合に、どの程度のマグニチュードで円高・ドル安が進行するか読みづらいこと、また1―3月の円高・ドル安を受けて、ドル円上昇に向けた発射台がすでに104円台まで低下したことにより、ドル円の年末予想値を118円から115円に引き下げることとした。

*情報を更新して再送します。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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