September 4, 2018 / 7:18 AM / 18 days ago

コラム:円安批判招く「トランプ・ライン」はどこか=尾河眞樹氏

[東京 4日] - 米中間選挙を2カ月後に控える中、トランプ大統領の発言が最近、激しさを増している。

 9月4日、ソニーフィナンシャルHDの尾河眞樹氏は、ドル指数が100を超えて上昇する場合には、トランプ大統領(写真)が円安への不満を表明するなどして、ドル安・円高が一時的に進行する可能性に警戒が必要だと指摘。写真は米ノースカロライナ州シャーロットで8月撮影(2018年 ロイター/Yuri Gripas)

8月28日には自身に対し不利なニュースが優先されるように検索結果が操作されているなどとして、グーグル(アルファベット傘下)やフェイスブック、ツイッターに対し「慎重になった方が良い」と警告。30日には米メディアとのインタビューで「世界貿易機関(WTO)が米国をより良く扱わなければ、WTOから脱退する」とほのめかした上、2000億ドル(約22兆2000億円)規模の中国製品に対する追加関税を発動させる意向を示した。

31日の演説では、カナダに対しても「貿易で米国を利用してきた」と批判。欧州連合(EU)との貿易問題についても、前述した米メディアとのインタビューで、ユーロが下落していることに言及し、「EUは中国とほとんど変わらないくらい悪い」などと述べていた。

驚くほど「言いたい放題」だが、基本的にはこれまでのスタンスを貫いておりブレてはいない。これらの発言には、良好な米国経済と株高を背景に、トランプ大統領が自らの政策に対して自信を深めている様子が垣間見える。

<言行不一致のトランポノミクス>

実際、8月29日に発表された4―6月期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み)改定値は、年率換算で前期比4.2%増となり、速報値の4.1%増から上方修正された。これは、2014年7―9月期(4.9%増)以来の高い伸びだ。

「トランポノミクス」といえば、1)徹底した米国第一主義と保護貿易、2)株高維持のための減税など景気刺激策の実施、3)環境問題より経済優先、4)ドル高けん制、5)米連邦準備理事会(FRB)の利上げに対するけん制、6)メディア批判、7)GAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)への批判、などが特徴として挙げられる。

しかし、トランプ大統領の主張と現実の経済政策は相いれない面もある。例えば、米国経済の強さと株高をけん引しているのはGAFAをはじめとするIT企業であり、今回のGDPでも知的財産投資や設備投資の拡大が主に速報値からの上方修正に寄与している。

ただ、アマゾンなどのシェア拡大で雇用が奪われているとの見方もある中で、中間層、低所得者層にアピールするべく、これらのIT企業はトランプ大統領にとっては批判の対象となっているのだろう。

財政政策と金融政策についても齟齬(そご)がある。2017年の米GDP成長率は前年比2.2%と、潜在成長率を上回る伸びとなった。2018年はこれに「トランプ減税」が加わり、米国経済は一段と加速している。

さらに、トランプ政権は目下、キャピタルゲイン税のインフレ率とのリンクを検討している。現在は株や不動産など資産の購入時と売却時の価値の差額に対して20%が課税されているが、売却時に取得価格をインフレ調整すれば、投資家にとっては減税となる。

米ニューヨーク・タイムズ紙の試算によれば、同案が実施されれば富裕層にとって1000億ドル(約11兆1000億円)規模の大型減税になるという。いずれも米国の景気を押し上げインフレを加速させる政策であり、FRBの利上げに対して不満を漏らしたり、ドル高をけん制するのはつじつまが合わない。

もちろん足元では、米国のインフレ率は極めて緩やかな伸びにとどまっている。FRBが物価の目安として注目する個人消費支出(PCE)価格指数は7月、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数が前年比プラス2.0%だった。また、期待インフレ率も今年はほぼ横ばいで推移している。市場の期待インフレ率を示すブレークイーブン・インフレ率(BEI)は10年物が2.0%付近にある。

好景気と低インフレに支えられ、米S&P株価指数は2017年1月のトランプ大統領就任時の2238から足元の2901まで、約30%上昇した。その一方で、ドルインデックス(名目実効為替レート、ICEベース)は同就任時の102から足元は95とむしろ低下しており、ドル高は抑えられている。

これまで通りインフレが緩やかな伸びにとどまっている限り、トランプ政権による中間選挙を意識した「良いとこ取り」の政策は続きそうだ。

<ドル指数100突破なら「トランプ砲」に要警戒>

注意すべきは、仮に今後インフレが加速し、FRBの利上げペースが速まってドル高が進んだ場合、トランプ政権の政策にどのような影響があるかだ。

FRBの独立性を考えれば、さすがのトランプ大統領も不満を漏らす程度にとどまり、FRBに対して利上げを中断せよなどと、具体的な注文は付けられまい。そうなれば、トランプ大統領は金融政策の代わりに為替市場でのドル高けん制を強める公算が大きい。

ドルインデックス(名目実効為替レート、ICEベース)と、ISM製造業景気指数を重ねてみると、ドルインデックスが100に近づくようなドル高になると、製造業の景況感が悪化する傾向がみられる。それもあってか、ここ数年は100の水準が市場で意識されるようになっている。

2014年後半は日銀による異次元緩和第2弾によってドル円が急騰したため、ドルインデックスは上昇傾向にあり、12月に100の大台に乗せた。しかし、米当局者の間でもドル高に対する懸念の声が上がり始め、翌2015年3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではイエレン前FRB議長が「ドル高で輸出が伸び悩んだり、インフレの下押し要因になる」とドル高をけん制。以降、2016年までは100が壁となり、同水準に近づくとドルが反落する傾向がみられた。

2016年12月にドルインデックスが100の大台を再びしっかりと超えると、翌2017年1月17日、この3日後に就任式を控えていたトランプ大統領が「ドルは高過ぎる」とドル高に対する懸念を表明したことは記憶に新しい。足元で95付近にとどまっているドルインデックスが100を再び超えるようなことがあれば、トランプ大統領が同様の主張を展開する可能性には要注意かもしれない。

トランプ大統領は、前述した8月30日の米メディアとのインタビューで、「政権が各国の為替操作の有無をどう決定するか検討している」と述べている。今のところ、米財務省による「為替操作国」の基準は、1)年間の対米貿易黒字額が200億ドル以上であること、2)経常収支の年間黒字額が対GDP比で3%以上であること、3)継続的な為替介入による一方的な外貨買い入れが過去12カ月間でGDPの2%以上であること、の3点と決められている。

だが、この基準を11月に発表される為替報告書に向けて変更しようとしているのかもしれない。なぜならトランプ大統領は中国に対し「通貨を切り下げ、為替を操作している」といった批判を繰り返しているが、現在の基準では中国は1番目の項目にしか抵触しておらず、「為替操作国」には当たらない。

では、「為替操作国」に認定されるとどうなるかといえば、米国から通貨の切り上げを求められたり、関税を引き上げるなどの報復措置が取られる。しかし、米国は以前からこれらの措置を中国に対して行っており、現状から大きな変化はなさそうだ。その分、すでに「監視対象国」に入っている日本、ドイツ、韓国については、今後は中国の代わりにトランプ大統領のドル高懸念の矛先が向かうリスクが高まっていると言えよう。

これ以外にも、リスク要因としては、日米貿易協議(FFR)が挙げられる。8月9日に行われた第1回の協議では為替は俎上に載らなかったようだが、協議を進める中で仮にFRBの利上げペースが速まる可能性が意識され、ドルインデックスが100の「トランプ・ライン」を超えて上昇するような場合には、トランプ大統領が日銀の緩和継続による円安に対して不満を表明するなどして、一時的にドル安・円高が進行する可能性には警戒が必要だろう。

尾河眞樹氏(写真は筆者提供)

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below