November 21, 2018 / 8:43 AM / 18 days ago

コラム:遠のくソフトブレグジット、英ポンドの足かせに=尾河眞樹氏

[東京 21日] - 英国のメイ首相は14日、約5時間に及ぶ閣議を経て、欧州連合(EU)からの離脱協定素案を内閣が了承したと発表。EU離脱(ブレグジット)協議の進展を好感し、ポンドは一時買われる場面もあったが、その後反落した。同協定案に対する議会からの反発が強く、承認は困難との見方が広がったためだ。

 11月21日、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る政治情勢は極めて不透明な状況で、今後も当面の間、ポンド相場の足かせになるだろう、とソニーフィナンシャルHDの執行役員、尾河眞樹氏は警鐘を鳴らす。ロンドンで9月撮影(2018年 ロイター/Hannah McKay)

実際、閣議では29人の出席閣僚のうち3分の1が反対したという。その翌日には、ラーブEU離脱担当相が辞任を発表。その理由として、同協定案が、英国の一体性を脅かすものであり、英国は発言権もないまま恒久的にEUの法律や規制に縛られるリスクがある、といった欠陥を挙げている。

マクベイ雇用・年金相や閣外相の辞任も相次いだことで議会は混乱。EU離脱強硬派の保守党議員を中心に、メイ首相に対する不信任投票を求める動きも浮上している。英国の政治情勢は極めて不透明な状況で、今後も当面の間、ポンド相場の足かせとなろう。

<厳しい選択を迫られる英国>

離脱協定案を閣議了承した直後、メイ首相は「われわれの前にある選択は明白だ。この合意か、あるいは合意なしで離脱するか、離脱をやめるかだ」と記者団に語ったが、その言葉通り英国は極めて厳しい選択を迫られている。

「合意なきEU離脱」は英国経済にとってダメージが大きく、これを避けるには、英国はEUに対して一定の譲歩をせざるを得ない。だが、議会、特に与党保守党内の離脱強硬派からの反発が強まっている。

例えば金融サービスについて、EUは域外銀行の国の規制が「エクイバレンス(同等)」だと認めない限り、域内の営業を許可していないが、離脱協定案では英国の金融機関も「域外」の扱いを受ける。このままでは英国の金融機関が現在のようにEU域内における自由な営業をすることが難しくなる。

また、最大の懸案事項だったアイルランドの国境問題についても、2019年3月の離脱後に設ける移行期間中(2020年12月まで)に協議によって解決する方向性となり、問題は先送りされた格好だ。

<ソフトブレグジットは困難な情勢>

ブレグジットを巡る目先の注目イベントは、25日にブリュッセルで行われるEU首脳会議だ。EUで今回の離脱協定案に正式合意するための臨時会合となる。ここを通過した後、12月中に今度は英国議会で離脱協定案の採決が行われる。ここで承認されると、来年1月に同議会で離脱関連法案の採決が行われる。

ただ、今回の離脱協定案については、野党だけでなく与党保守党からも反対の声が上がっているだけに、議会で承認される可能性は低い。仮にメイ政権がなんらかの形で退陣に追い込まれ、次期政権に交渉相手が変わったとしても、ジョンソン前外相やデービス元EU離脱担当相など強硬離脱(ハードブレグジット)派が後継者となれば、EUとの交渉はさらに難しくなるだろう。

したがって、スムーズな形で英国とEUが離脱協定を合意した上で19年3月29日に離脱する「ソフトブレグジット」の実現は、もはや極めて困難な情勢である。

<「メイ首相降ろし」の動向に注目>

加えて、現在メイ首相の不信任投票が行われるかどうか、英議会の動向にも注目が集まっている。実際に与党保守党で党首の不信任案の採決が実施されるためには、下院議員の15%(48人)が「1922年委員会」と呼ばれる保守党一般議員で構成される委員会に不信任投票実施を求める書簡を送付する必要がある。

それを受けて投票が実施されるが、ここで不信任が成立しなければ、メイ首相は保守党党首、英国首相の地位にとどまり、その後1年間は不信任動議を提出されることはない。この場合は、ソフトブレグジットの可能性が高まるだろう。

もし不信任案が成立すれば、メイ首相政権は退陣し、次の党首選にも出馬できなくなる。EUとの交渉も滞り、「ハードブレグジット」の可能性が高まる。仮に解散総選挙の流れとなれば、争点は「EU離脱の是非」となり、この場合、ひょっとすると次期政権によって、今一度EU離脱の是非を問う国民投票が行われるかもしれない。

<ばらばらな英国民の想い>

問題は、英国民の意見が依然まとまっていないことだ。調査会社ユーガブが15日発表した世論調査によれば、今回の離脱協定案の内容を受け入れたソフトブレグジット派は6割で、ハードブレグジット派の4割を上回った。

ただし、今回の離脱協定案の内容を受け入れるか、それともEU離脱の是非を問う国民投票を新たに実施するか、との問いに対しては、44%対56%で後者が上回った。さらに興味深いことに、EUとの合意なくハードブレグジットに踏み切るか、もしくは改めて離脱の是非を問う国民投票を実施するか、との問いに対しても46%対54%で後者が優勢となっている。

これだけみれば、ソフトにせよハードにせよ、このままブレグジットに突き進むよりも、もう一度国民投票を実施することを望む国民の方が若干多いようだ。

ただ、「ブレグジットに関して今後どういった方向に進むべきか」という問いに対しては、「離脱協定案を受け入れ、ソフトブレグジットすべき」が16%、「離脱協定案に反対して、別の協定を模索すべき」が11%、「離脱協定案に反対し、合意なしでハードブレグジットすべき」が19%だった。また、「離脱協定案の是非を問う国民投票を行うべき」が8%、「ブレグジットをやめて、EUに残留」が28%、「その他」もしくは「分からない」が18%となり、EU離脱に対する英国民の想いはバラバラだ。

これらの回答から「離脱か否か」だけをまとめれば、ソフトであれハードであれ、明確にブレグジットすべきという回答が35%に達する一方で、EU残留を望む回答は28%となる。もし再び国民投票を行ったとしても、結果が「EU残留」となるかはっきりせず、仮にそうなったところで、離脱派との差は依然わずかなままで、残留決定後も再び世論が分断し、議会の混乱が延々と続く可能性が高い。

<ハードブレグジットならユーロにも下落リスク>

折しも、15日発表の10月英小売売上高は前月比0.5%減と、7カ月ぶりの大幅減少となり、市場予想の同0.2%増を大きく下回った。今後発表される経済指標も悪化しているようであれば、政治の混乱と景気悪化がさらにポンドの重しとなろう。

ポンド/ドルが、10月31日の安値1.2699ドルを下抜けると、下落が加速する公算が大きい。さらに今後、仮に英議会で「メイ首相降ろし」が勢いづけば、ハードブレグジットの可能性が高まったとの見方から、ポンドだけでなくユーロ相場も崩れるリスクがあるだろう。

市場全体がリスクオフの流れとなれば、16年の英国民投票の際のように、値幅の差はあるが、ポンド/円と共にユーロ/円も下落するとみている。

混乱状態のまま突然ハードブレグジットに突入すれば、貿易取引や金融決済、出入国その他、国境をまたぐあらゆる経済活動の手続きが滞るリスクもある。ハードブレグジットは、英国経済にとっては当然大きなマイナスだが、こうした混乱は英国と関わりの深い欧州経済全般にとっても、少なくとも短期的にマイナスとなろう。

*本コラムは、外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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尾河眞樹氏 ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長(写真は筆者提供)

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:下郡美紀

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