December 25, 2018 / 5:30 AM / 6 months ago

コラム:2019年の市場を揺さぶる「ビッグ3」は誰か=尾河眞樹氏

[東京 25日] - 今年も筆者が考える2019年の「注目人物トップ3」を紹介しながら、来年の為替相場を展望してみたい。まず、来年注目したい人物の第3位は、今年の注目度ナンバーワンと予想したドナルド・トランプ第45代米国大統領だ。

 12月25日、2019年の市場を揺るがすであろう「注目人物トップ3」をソニーフィナンシャルの尾河眞樹氏が紹介しつつ、来年の為替相場も展望する。写真は7月、ロンドン郊外のバッキンガムシャー州にある英首相の公式別邸チェッカーズで会見するトランプ米大統領(左)とメイ英首相(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

このコラムで昨年予想した通り、トランプ大統領は善かれ悪しかれ、今年最も注目を集めた人物であったと言えよう。11月に行われた米中間選挙は、今年最大の政治イベントであり、事実上、トランプ政権への「信任投票」と位置付けられ、かつてないほど注目が集まった。

トランプ大統領は、メディア叩きや中国政策はもちろんのこと、その立ち居振る舞いから自由奔放な発言、ソーシャルメディアの使い方に至るまで、異例尽くしの大統領であり、就任後2年間の成績表に対し、国民がどのような判断を下すのかが注目された。

選挙期間中はトランプ氏の一挙手一投足が注目され、それに対する国民の反応が報道されるたび、米国内で起きている「分断」が浮き彫りとなった。結果は上院で共和党、下院で民主党がそれぞれ過半数議席を獲得したが、金融市場でも「ねじれ議会」の可能性は事前に織り込まれていたため、選挙直後の為替相場への影響は限定的だった。

下院を民主党に奪われた結果、例えば選挙期間中にトランプ大統領が自ら述べた「中間層に対する10%の減税」といった減税策については、議会での法案成立が極めて困難になった。年初からはトランプ政権の政策運営が議会によって制限される可能性があり、今年よりも同大統領の政策に対する注目度は低下するかもしれない。筆者が同大統領の注目度ランキングを18年の1位から3位に引き下げたのもこのためだ。

ただ、注意しなければならないのは、今回の選挙結果が金融市場にとって「吉」と「凶」のどちらにも転ぶ可能性がある点だ。トランプ大統領は20年の次期大統領選での勝利、続投を視野に入れているはずだ。「吉」と出る場合、同大統領は景気を押し上げ、株価を回復させる政策を打つと思われる。したがって、インフラ投資などのような民主党が前向きな政策については推進できる公算が大きい。

実際、民主党のペロシ下院議長も中間選挙後、「トランプ大統領と話し合った結果、インフラと処方薬価引き下げにおいて両党の連携が可能」との見方を示した。これが実現すれば、米国株式市場やドル円相場にとって上昇要因となろう。

一方、「凶」と出る場合は、大統領権限のみで発動できる政策、例えば中国製品に対する関税引き上げなどの通商政策や、為替政策を、重点的に行うリスクが高まる。19年1月から本格的な協議が開始される日米物品貿易協定(TAG)や、90日間の「一時休戦」期限が2月末に到来する米中貿易戦争などで、トランプ政権が強硬路線を強めれば、円高ドル安が進行する公算が大きい。来年もトランプ大統領は「台風の目」になりそうだ。

19年の注目人物第2位は、ジェローム・パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長である。

FRBは12月18、19日に行われた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、今年4回目となる利上げを実施。その後、米株価は大幅に崩れ、為替市場では直後こそ反応は軽微だったものの、翌日の日経平均株価が大幅安となると、円高・ドル安圧力が強まった。直前に市場が抱いた利上げ期待、つまり「利上げの織り込み度」が68%まで低下していたにもかかわらず、利上げが決定されたことが嫌気された。加えて、FOMCメンバーによる政策金利見通し(ドットチャート)では、19年の利上げ予想回数が3回から2回へと引き下げられたものの、市場予想の1回未満には届かなかったため、「FRBは十分にハト派的でない」と受け取られた。

パウエル議長は会見で、金融市場の環境が厳しくなったことを認識しつつも、「経済は引き続き堅調である」と述べている。それでも利上げの軌道を9月時点から引き下げたことは、市場環境、特に最近の株価の動向に配慮した可能性が高い。

しかし、足元の良好な雇用情勢や高水準の景況感をみれば、このところの米株価の急落は心理的な面が大きく、市場参加者は米国の景気後退を先取りし過ぎている可能性が高い。今回のFOMCで19年の利上げ予想回数を1回まで引き下げて欲しいと願うのは、さすがにFRBの緩和政策に期待しすぎではないだろうか。

19年からは、毎回のFOMCでパウエル議長による記者会見が行われることになる。同議長は11月14日の講演で、「全会合が利上げの可能性に向け『ライブ』であることを意味する」と述べた。したがって、FOMC会合のたびに会見するパウエル議長の注目度は一層高まろう。

さらに今回の利上げを巡り、FOMC前に利上げをけん制していたトランプ大統領との間に早くも亀裂が生じている。報道によれば、トランプ大統領はパウエル議長解任の可能性を非公式に議論したという。実現することはないとみているものの、万一その可能性が浮上すれば、米国の中央銀行の中立性に疑問符が付き、ドルは大きく下落するリスクがある。

19年の注目人物第1位は、テリーザ・メイ第76代英国首相だ。3月末に控える英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)は、世界中の注目を集めるだろう。

12月11日に予定されていた離脱協定案に対する議会採決が延期されてからというもの、英国議会は波乱の展開となっている。保守党内でのメイ首相に対する信任投票が可決し、ほっとしたのも束の間、その後、EU側が離脱協定案の修正、譲歩はしないと分かると、議会でメイ首相降ろしの動きが活発化した。

メイ首相は離脱協定案に対する議会採決を1月14日の週に延期。これを受けて、野党労働党のコービン党首は17日、メイ首相に対する不信任決議案を下院に提出した。

EU側が譲歩できないのには理由がある。譲歩すれば「合意なきブレグジット(ハード・ブレグジット)」に突き進むリスクは低下するものの、「秩序だったブレグジット(ソフト・ブレグジット)」となれば、他の域内国にも同様の離脱を求める動きが広まるリスクが高まる。イタリアは既に反EU政権である上、財政問題を抱えるフランスでもEUに対する国民の不満は高まっている。

タイムリミットが刻々と迫る中で、欧州委員会は19日、ハード・ブレグジットに向けた準備を進めると発表。デリバティブ商品の取引や、航空便、陸運業その他複数の領域で現状を維持できるよう14項目の条例を発表した。なお、3月末のスケジュール自体を先延ばしする案も浮上している。英国議会では解散総選挙を行い、いま一度国民投票を実施すべき、あるいは離脱自体を止めるべき、との声もある。

英国民のみならず、欧州経済にも影響を及ぼす可能性がある一大イベントであるにもかかわらず、今後の見通しは極めて不透明な情勢だ。英ポンドのみならず、リスクオフとなれば一時的には大幅に円高が進行するリスクもある。19年はメイ首相のかじ取りから目が離せない。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

尾河眞樹氏 ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員兼金融市場調査部長(写真は筆者提供)
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*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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 (編集:下郡美紀)

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