February 18, 2019 / 8:25 AM / a month ago

コラム:為替相場の転機か、米中協議「3つのシナリオ」=尾河眞樹氏

[東京 18日] - 北京で行われていた米中通商協議の閣僚級会合が15日終了した。米中双方が歩み寄りの姿勢を示し、互いに「協議は順調だ」などと主張しているものの、最終的に溝は埋まらず、具体的な合意には至らなかったようだ。

 2月18日、米中通商協議では、貿易不均衡と、知的財産権保護など技術覇権争いという2大テーマが並走している。協議結果に対する市場の反応としては、主に3つのシナリオが考えられるとソニーフィナンシャルHDの尾河眞樹氏は説く。2016年、北京で撮影(2019年 ロイター/Jason Lee)

今週はワシントンで協議が継続されるが、3月1日の協議期限は刻々と迫っている。合意できなければ、米国は2000億ドル(約22兆円)相当の中国製品に対して税率を10%から25%に引き上げると表明している。

5日行われたトランプ米大統領の一般教書演説は、これまでの経済政策に対する実績をアピールした上で、米国民に一致団結を呼びかけるなど、明らかに来年11月の大統領選での再選を意識した内容になっていた。

同演説については米国メディアからの評価も比較的高かったようだ。ラスムッセンの世論調査ではトランプ大統領の支持率が比較的高めに出る傾向がみられるが、昨年末から発生した米政府機関の一部閉鎖などが影響し、大統領の支持率は1月末に43%まで低下していた。しかし、政府機関の再開や今回の一般教書演説を受けて支持率は急回復し、11日には2017年3月6日以来となる52%まで上昇した。

トランプ大統領としては、2月27─28日にベトナム首都ハノイで予定している米朝首脳会談と、3月1日を期限とする米中通商協議のいずれも何とか合意にこぎつけ、外交面での成果を追い風に、一段と支持率を上げておきたいところだろう。

<合意か期限延期か、それとも交渉決裂か>

こうした中で、にわかに浮上しているのが、米中通商協議の「交渉期限延期」の可能性である。あくまで「合意に近いか、合意が正しい方向に向かいつつあると判断すれば」との条件付きで、トランプ大統領は14日、米中通商協議の期限を60日間延期する可能性を示唆した。

今後も2月末までぎりぎりの駆け引きが続くだろうが、米中両国が合意に至るか、期限を延期するか、それとも決裂するのか、いずれにせよ1週間で明らかとなる。

米中協議は貿易不均衡問題と、知的財産権保護など技術覇権争いという2大テーマが並走している。協議結果に対する市場の反応としては、以下のシナリオが考えられよう。

第1に、「6年間で米国からの輸入額を1兆ドル増やす」といった中国側の提案を米国が受け入れる形で、貿易面のみいったん合意し、知的財産権の保護については期限を設けず今後も継続協議とするパターンだ。

この場合、「決裂」が避けられたことを市場は好感し米株高が進行、ドル円も上昇する可能性が高いが一時的な上昇にとどまり、その後は株価もドル円も反落する公算が大きい。合意に至ったとしても、米国政府がこれまで重視してきた知的財産権の保護で譲歩したとなれば、交渉に成功したとは言い難い。米国経済への影響も限られるため、表面的な貿易面のみの合意では、市場からの支持は得にくいだろう。

第2に、上述した通り、貿易面ではいったん合意した上で、知的財産権の保護については期限を延長し、60日間の継続協議とするパターンだ。

この場合、市場参加者はポジティブに捉えるだろう。市場に配慮し、いったんは合意するものの、知的財産権の保護ついても米国政府はうやむやにせず、最終合意を目指して交渉を続ける、という毅然とした姿勢を示すことができる。

第3に、何も合意がないまま、60日間期限を延長するのみにとどまる可能性もある。この場合は、米中協議が難航していると受け取られ、市場はリスクオフに傾き、一時的とはいえ円高が進行するかもしれない。

最悪のケースは延長もないまま期限を迎え、制裁関税が引き上げられるパターンだ。この場合、株価は急落し、リスクオフにより大幅な円高となりそうだが、「期限延長」案が米国側から浮上している以上、この可能性は極めて低いだろう。反対に、中国政府が米国の要求を100%受け入れる形で合意に至る可能性もゼロとは言えないが、これまでの協議の進展度合いを見る限り、その可能性も極めて低い。

報道によれば、知的財産権の保護についても中国側は譲歩し、違反した企業に対する罰則を強化するなどの案を提示しているものの、米国側はそれらの遵守を定期的に確認する仕組みを求めているようだ。中国企業のガバナンスの問題なども論点の1つだという。ハイテク分野での技術覇権争いにつながるこの問題は、米中が合意に至るまで延期が繰り返されるなど、想像以上に時間がかかるかもしれない。

<揺れる人民元相場>

米中通商協議が重要な局面に差しかかる中、人民元相場が揺れている。人民元は1月、対ドルで約3%上昇した。米連邦準備理事会(FRB)が利上げをいったん休止し、緩和的スタンスを維持する姿勢を示したことで、ドル相場が下落したことなどが背景にある。

一方、2月に入ってからは米中通商協議の動向をにらみながら、約1.5%程度の人民元安が進行している。15日公表された中国の1月生産者物価指数は上昇率が前年同月比0.1%と、昨年12月の同0.9%から大幅に鈍化したことなども、中国人民銀行(中央銀行)による利下げ観測につながり、人民元安圧力につながっているようだ。

今後、仮に米中通商協議が進展した場合、人民元には持続的に上昇圧力がかかるだろう。米中貿易戦争の終結が市場に好感されることも理由の1つだが、米国からの輸入を大幅に増額することになるため、人民元高のほうが中国経済にとってもメリットが大きい。中国人民銀行も人民元高を容認する方向に転じるだろう。

逆に、合意の兆しがみられないまま協議期限を延期、あるいは、交渉が決裂する場合には、米中摩擦のさらなる激化や、中国からの資本流出加速を警戒した人民元安が進行するだろう。

中国人民銀行自身も、大幅な人民元安誘導に動く可能性がある。2000億ドルもの中国製品に対する関税が25%に引き上げられるとなれば、中国経済への悪影響は避けられない。したがって、経済へのダメージを人民元安によって和らげようとするだろう。単純計算でも300億ドル分の損失穴埋めとなれば、ドル/人民元は1ドル=7.0人民元を超え、7.3から7.4といった水準まで人民元安が進む可能性がある。加えて、この場合は、リスクオフによって円高も同時進行する公算が大きい。

<日本も楽観できず>

こうした中、2月に延期されたはずの日米物品貿易協定(TAG)の交渉は、すっかり影を潜めている。米通商代表部(USTR)は米中通商協議が大詰めを迎えるなかで、日本との交渉どころではないのかもしれない。もし中国との交渉が「60日間延期」となった場合は、さらにTAG交渉は先送りになるだろう。

ただ、先延ばしになったからといって日本も安堵してはいられない。米国の対中交渉における本気度を見れば、日本に対しても米国は容赦なく要求を突き付けてくる可能性がある。

米中交渉は、昨年5月に閣僚級会議を開催してから現在まで続いている。仮に日米間でも同様の期間、交渉が続いた場合、協議が大詰めを迎えるのは来年の今ごろ。まさに米国は大統領候補を選ぶ予備選挙の最中となる。来年11月の大統領選をにらみ、トランプ大統領の保護主義も一段と激化しかねない。

今年のドル円相場は秋ごろ115円を試す展開を筆者は予想しているが、こうした点を踏まえれば、来年前半は少なくともある程度の円高をみておく必要があると考えている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

 2月18日、米中通商協議では、貿易不均衡と、知的財産権保護など技術覇権争いという2大テーマが並走している。協議結果に対する市場の反応としては、主に3つのシナリオが考えられるとソニーフィナンシャルHDの尾河眞樹氏は説く。2016年、北京で撮影(2019年 ロイター/Jason Lee)
尾河眞樹氏 ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員兼金融市場調査部長(写真は筆者提供)

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:下郡美紀

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