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コラム:令和時代の為替相場、注目すべきポイント=尾河眞樹氏

[東京 27日] - 5月1日にいよいよ改元となり「令和」の時代に入る。新しい時代の金融市場を考えるにあたり、平成30年間のドル円相場を振り返ってみた。筆者が過去から学んだ「相場に向き合う際の注意点」を、筆者なりの観点で3点だけご紹介したい。

 4月27日、新しい「令和」時代の金融市場を考えるにあたり、平成30年間のドル円相場を振り返り、過去から学んだ「相場に向き合う際の注意点」をソニーフィナンシャルHDの尾河眞樹氏が説く。2017年撮影(2019年 ロイター/Thomas White)

第1に、「相場は時に、信じられないほど大荒れする」ということだ。

振り返れば2008年のリーマンショックや、その後の円高局面は忘れがたいが、あえて個人的に心に残るイベントを挙げるとすれば、1998年のロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)ショックと、その後のドル円の大暴落だろう。

米国の大手ヘッジファンド、LTCMが1998年10月に破綻。同年のロシア金融危機の影響を受けたものだったが、ポジションを清算するにあたり大規模な円買いが市場に持ち込まれた。これが円キャリー取引の巻き戻しと相まって、10月7、8日のたった2日間でドル円相場は130円台から111円台まで、約20円も急落したのである。

当時筆者は外資系銀行ロンドン支店のカスタマーディーラーだった。顧客からの電話を取り、ロイターの端末を見てドル円レートを確認、インターバンクディ―ラーからプライスを受け、次の瞬間、ロイターの端末を振り返った時には、既に大台が大きく変わっていて冷や汗をかいたのを今でも覚えている。

このところ1日の変動幅が1円にも満たないドル円相場に目が慣れてしまっているが、何らかのショックがあった時に慌てないためにも、「相場は時に、信じられないほど大荒れする」という教訓は常に心にとどめておきたい。

加えて、人類は「バブルと崩壊」の歴史を何度も繰り返している、ということも重要な事実だ。先述したロシア危機やサブプライムショック、リーマンショック以外にも1994年のメキシコ通貨危機、1997年のアジア通貨危機、2001年のITバブル崩壊など、大きなものだけ挙げても市場は数多くの金融ショックを経験している。したがって常に、「世界のリスクマネーはどこに集まっているのか」を意識しておく必要があるだろう。

令和時代にはどのような大相場があるのだろうか。

中国における過剰債務問題は、今後金融ショックをもたらす可能性のある懸念事項として注意したいところだが、17日に日銀が公表した「金融システムレポート」も興味深かった。同レポートではマイナス金利の長期化により、不動産業向け貸し出しの対国内総生産(GDP)比率がトレンドから大幅に上振れしている事実が示された。

ひょっとすると、市場参加者が日銀の追加緩和を期待することに対するけん制の意図もあったのかもしれないが、バブル崩壊の「種」として警戒しておくべき事象である。

<米為替政策がトレンドを左右>

第2に、為替相場(特にドル/円)には、米国政府の為替政策が強く影響してきたことが挙げられよう。

昭和には1985年の「プラザ合意」があり、平成に入ってからも1992年に当時の宮沢喜一首相とクリントン米大統領の日米首脳会談、いわゆる「クリントン・宮沢会談」による円安是正とその後の円高、1995年にはドル急落に歯止めをかけるための主要7カ国(G7)による「ワシントン合意」と、為替相場に対する政治介入が続いた。

1995年以降は当時のルービン米財務長官が「強いドル政策」を推進し、「強いドルは米国の国益」との発言を繰り返す中で、ドル高/円安が進行した。2003年のドバイG7では共同声明で「為替相場の柔軟性」に言及。米国の経常赤字拡大が注目されていた時期だっただけに、その後円高が進行した。結果、この30年間、米国政府の為替政策は相場のトレンド転換に大きく影響してきた。

一方、2011年にドル/円は75円台の史上最安値をつけたが、2013年以降はドル高/円安トレンドへと大きく転換した。安倍晋三首相が掲げるアベノミクス3本の矢の1つである日銀の異次元緩和によって、日本の政策主導でドル/円がトレンド転換したのは、長い歴史をみても初めてのことと言える。日銀の緩和策については、最近では副作用も指摘される中、このまま継続することに対する懸念も浮上している。

ただ、当時のドル/円は、本邦製造業の採算レートを下回る環境が続いており、日本経済にとって厳しい環境であったことを踏まえれば、この時に円高・デフレスパイラルを一旦断ち切るきっかけを作ったことの意味は大きいと言えよう。

いずれにせよ、これまで米国の為替政策がドル円相場に大きな影響を及ぼしてきたことを踏まえれば、今後もトランプ米政権の為替政策には注意しなければならないだろう。トランプ大統領は2016年の大統領選以前からドル安を唱えており、徹底して「保護主義」に走る中で、いずれ円相場にそのしわ寄せが来るかもしれない。

また、米国のみならず各国が保護主義化を強め、グローバリゼーションの逆流が起こる中で、これらが令和時代の為替相場にどのような影響を及ぼすのかも気になるところだ。

米国が「自国第一主義」を貫けば、世界のリーダーとしての求心力は低下していく。加えて欧州連合(EU)の中で、扇の要的な存在として活躍したメルケル独政権の求心力も弱まっており、独仏の関係もギクシャクしている。こうした中、各国が「自国第一主義」を一層進めれば、「通貨安戦争」に陥りかねない。

<未曾有の金融緩和に揺れる市場心理>

第3に、近年、金融政策が為替相場に及ぼす影響が益々大きくなっている点が挙げられよう。リーマンショック以降、先進国はゼロ金利、マイナス金利、量的緩和という未曽有の緩和策を導入し、金融ショックからの立ち直りを図った。

それが奏功し、米国経済は2015年には利上げできるほどにまで回復した。しかし、その緩和策によって市場に溢れたマネーがリスク資産へ向かい、相場に大きな影響を及ぼすようになった。

筆者が知る限り、現在当たり前のように使われている「リスクオン」「リスクオフ」という言葉は、2008年のリーマンショック以降に頻繁に使われるようになった。それまでは、少なくとも海外市場ではリスク志向のことを「リスクアペタイト」が「ある」「ない」と表現していたが、市場心理次第で相場が切り替わる様子を「オン」「オフ」とデジタルの形で表現するようになったのは、ここ10年くらいのことだ。

これに伴って為替も「リスクオン=円安」「リスクオフ=円高」に反応しやすくなった。金融政策は長期的な視点で行われるはずだが、米連邦公開市場委員会(FOMC)で発表されるドットチャート(政策金利見通し)に市場参加者の注目が集中し、17人のFOMCメンバーによる予想「中央値」の細かな変化にいちいち市場が反応するのも、考えてみれば妙である。

これは、まさに未曽有の金融緩和が市場心理に大きな影響を及ぼしていることを示しており、今後もこれまで以上に中央銀行(特に日米欧)の金融政策には注目が集まろう。

米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は、政策正常化に向かっていたものの、景気減速とインフレの低迷によってそれを中断した。いずれ緩やかなペースの利上げが再開されるのか、はたまた急激に引き締めなければならないようなインフレの急騰は今後あり得るのか。市場心理によって大きく相場が振れるだけに、令和時代も中央銀行の動きには一層注目が集まろう。

グローバルに不確実性の高い時代にあって、企業も投資家もどこか1つの国や地域に賭けるのはリスクが高い。令和時代はこれまで以上に「分散」を意識する必要がありそうだ。

なお、本稿では過去からの学びとして敢えて注意点やリスクについて述べたが、令和が政治も経済も安定した良い時代であるよう願っているし、そうなると筆者は信じている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:下郡美紀

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