May 30, 2019 / 5:06 AM / 21 days ago

コラム:米国は元安誘導けん制か、米中摩擦の為替シナリオ=尾河眞樹氏

[東京 30日] - 米財務省は28日、「為替報告書」を米議会に提出。約1カ月遅れとなった今回の公表には何か理由があるはず、との見方から、米中貿易戦争が激化する中、ひょっとすると中国を「為替操作国」に認定するのではないか、との憶測も浮上していた。

 5月30日、トランプ米政権は、今後の対中追加関税の影響を、中国のさらなる元安容認で相殺されることのないよう、今回、「補助金相殺関税制度」をちらつかせることで、けん制しているのではないかとソニーフィナンシャルの尾河氏は指摘する。20日撮影(2019年 ロイター/Jason Lee)

しかし、中国が「為替操作国」に認定されることはなく、昨年秋と変わらず、日本、ドイツ、韓国と並んで中国は「監視リスト」国に指定されるにとどまった。前回の報告書からの変化は、基準を厳しくしたことにより調査対象国が21カ国に広がったことと、新たにイタリアをはじめとする5カ国が監視リストに加わったことのみで、基本的にはノーイベントに終わった。このため、為替相場への影響も今のところみられていない。

とはいえ、米国政府には注意すべき新たな動きもみられる。米商務省は23日、貿易相手国の為替介入に対して、税率を上乗せする方針を検討すると表明した。要は、為替介入について、これを「不当な補助金」とみなし、輸入品の政府補助金による不当廉売に対して関税を課してきたこれまでの「補助金相殺関税制度」を見直すというのだ。

日本の財務省と異なり、中国政府は介入実績を公表しないため、米政府が具体的にどういった計算に基づいて、どのような形で課税するのか難しいところではある。ただ、人民元相場は中国人民銀行(中銀)が日々「基準値」を設けて始値を「調整」している点を踏まえれば、例えば今後、人民元がドルに対して10%下落した場合には、関税を10%上乗せするという計算も、少々強引ではあるものの不可能ではないだろう。

この方針が正式決定すれば、中国としては人民元の切り下げや、あからさまな元安誘導は難しくなるだろう。また間接的な影響としては、日本は現在介入もしていなければ「円安誘導」もしてはいないものの、将来的に介入しづらくなるとの連想が広がる場合、一時的にドル円が若干円高に振れるかもしれない。

<1ドル=7.9元なら関税相殺>

まずは、これまでの人民元相場をみてみよう。米中貿易摩擦が激化する前の昨年3月ごろの水準(1ドル=6.3元)からみれば、人民元は足元で1ドル=6.9元と約10%の元安水準で推移している。つまり、中国はこれまで、米国の関税引き上げが中国製品に与える価格影響を、元安容認によってほぼ相殺してきたと言えよう。

トランプ政権はおそらく、今後の追加関税の影響を、さらなる元安容認によって相殺されることのないよう、今回、「補助金相殺関税制度」をちらつかせることによって、けん制しているのではないか。

一方、中国にとっても、元安によって価格を調整し続けるのはリスクが高い。

仮にトランプ政権が中国からの輸入品について、6月末の期限をもって残りの3000億ドル(約33兆円)分についても制裁関税をかけ、結局すべての中国からの輸入品に25%の関税がかかることになるとしよう。

この分を為替レートで相殺しようとする場合、昨年3月の1ドル=6.3元を起点とすれば、1ドル=7.9元まで人民元を切り下げる必要がある。この場合、節目として注目されている1ドル=7.0元を大幅に超える元安となり、中国からの資本流出が再び加速するリスクが高まるだろう。

前回、「チャイナショック」により資本流出が懸念された2015年8月には、上海総合株価指数は1週間で約3割もの下落となった。当時のような株高からの調整とは異なり、足元で軟調に推移する中国株が、現状から一気に3割安となれば、習近平政権に対する国民の不満が表面化する可能性もあるかもしれない。これらを総合的に踏まえれば、安易な通貨安政策に走るのは、習政権にとって必ずしも良い対応策とはいえない。

反対に、中国が為替調整に踏み切らないとすれば、関税引き上げは米国にとって直積的な物価上昇につながる。これにより消費者の不満が高まるようであれば、トランプ政権の支持率低下を招きかねない。米国株価とトランプ大統領の支持率の相関性の高さを踏まえれば、対中摩擦の激化によって株価が急落するような事態も、来年の大統領選を見据えるトランプ氏にしてみれば避けたいところだろう。

<G20で「部分合意」か>

結局、米中摩擦と報復関税の応酬をこのまま続けることは、双方の政権にとってマイナスでしかない。これらを鑑みれば、やはり6月28-29日に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会合で、米中首脳会談が行われ、部分的にでも米中が合意に至るか、それに向けた道筋を付ける可能性は依然として相対的に高いのではないかと筆者はみている。

ただ、IT戦略や産業補助金の問題で6月までに合意に至るのは極めてハードルが高い。したがって、この場合も「貿易」面などの部分的な合意にとどまり、IT戦略や産業補助金を巡る摩擦は長期化するのではないか。

この場合、合意が見えてきた段階で市場は株高に反応し、為替もリスクオンの円安/ドル高方向に向かうだろうが、合意内容が部分的なものにとどまれば、市場のポジティブな反応も小幅にとどまる公算が大きい。

また、米国政府は20日、「安全保障上のリスク」として、中国の通信機器最大手華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]に対する事実上の禁輸措置を発動したが、これを受けて米中協議が合意を見いだせないまま、ずるずると長引く可能性も一段と高まっている。長期化すれば、中国経済はもとより、米国経済に対するマイナスのインパクトも一層懸念される。

実際、5月10日に発動された25%の制裁関税は、同日に中国から出荷された製品が米国を通関する時点からかけられるため、船便なども考慮すると、米国経済にインパクトを及ぼすまでに1カ月程度かかると言われてきた。こうした時間的「猶予」と、6月のG20に対する期待感から、市場参加者は「待ち」の姿勢となっており、今のところ金融市場のボラティリティは低水準に抑えられている。

しかし今後数週間、G20が近づいてきてもまだ、米中首脳会談の日程が固まらず、次回の米中閣僚級協議も予定が立たないなど、一切、将来合意に向かうめどが立たないようであれば、市場はいよいよしびれを切らす可能性が高いだろう。この場合、スピードは遅いかもしれないが、6月下旬が近づくにつれ、じりじりと株安、円高に向かうリスクが高まることに注意が必要だ。

他方、米中交渉が完全合意に至る、もしくは決裂するケースについても、可能性はゼロではないが、極めて低いだろう。ドル円相場への影響は、上述した「部分合意」の場合で1─2円程度の円安/ドル高、「長期化」のケースであれば、6月末にかけてじわじわと、年初来高値から安値までの61.8%戻しとなる107円台後半を試しに行く公算が大きい。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

 5月30日、トランプ米政権は、今後の対中追加関税の影響を、中国のさらなる元安容認で相殺されることのないよう、今回、「補助金相殺関税制度」をちらつかせることで、けん制しているのではないかとソニーフィナンシャルの尾河氏は指摘する。写真は上海で29日、リモコン戦車を眺める少年(2019年 ロイター/Aly Song)
尾河眞樹 氏 ソニーフィナンシャルホールディングス 執行役員兼金融市場調査部長

*尾河眞樹氏は、ソニーフィナンシャルホールディングスの執行役員兼金融市場調査部長。米系金融機関の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替ヘッジと市場調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析、および個人投資家向け情報提供を担当。著書に「本当にわかる為替相場」「為替がわかればビジネスが変わる」「富裕層に学ぶ外貨投資術」などがある。

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編集:下郡美紀

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