November 11, 2016 / 4:26 AM / 3 years ago

コラム:「トランポリン相場」の始まり=岩下真理氏

[東京 11日] - 米大統領選挙は、共和党ドナルド・トランプ候補が予想外の勝利を収めた。市場は6月23日の英国ショックがトラウマとなり、事前にトランプリスクを意識してドル安・株安・債券高というリスクオフ相場を何度かこなしていたはずなのだが、それでもトランプショックは起きた。

結果が判明していく日本時間9日は、日経平均株価が一時1000円を超える下げ幅となり、ドル円も一時101.19円まで円高が進行した。

そもそも、英米ともに事前の世論調査はなぜ外れてしまうのか。まず考えられる原因は、回答率が低いと外れる可能性が高まることだ。経済統計でも重要だが、回答率を確認する必要がある。

次に米国の場合、過激発言のトランプ氏の支持を知られたくない「隠れトランプ支持者」が多かったようで読み切れなかった。さらには支持率と獲得選挙人数は一致しておらず、民主党ヒラリー・クリントン候補の支持者は投票率が高くなかった可能性も指摘できよう。

来年は4―5月にフランス大統領選、後半(9月頃)にはドイツ総選挙が実施予定であり、市場は世論調査に疑心暗鬼にならざるを得ない。結果判明の時間も災いして、日本市場はリスク回避手段として使われやすい。今後も欧州選挙のたびに不安定な相場を覚悟するしかないだろう。

<船出前から高まる「トランプノミクス」期待>

日本時間9日夕方、勝利宣言をしたトランプ氏は「全ての国民の大統領になる」「どの国とも公平に付き合う」「最強の経済をつくる」と協調性のある発言をして、安心感が広がった。そこから空気が一変、際立ったのは大幅な財政出動を警戒した米10年債利回りの上昇だ。クリントン氏優勢で12月利上げを織り込む過程で越えられなかった1.9%を突破。それに連動してドル円も105円台まで戻し、米10年債利回りが2%に乗せた後、一瞬107円をつけた。

株式市場も大型減税(総額10兆ドル)やインフラ投資促進、金融規制の緩和への期待が強まる一方、通商や移民政策では過激なことはできないとの楽観的な見方に傾いて大幅上昇。日米のマインド指標を比較すると、米国のマインド回復はかなり速いと統計で理解していたが、新大統領を受け入れる切り替えの速さは目を見張る。

10日の日経平均は前日比1000円超上昇し、トランプサプライズとなった。この2日間はまるでトランポリンで弾んでいるような動きであり、トランプの語感に近い「トランポリン相場」と命名したい。

筆者は前回のコラムで、「2017年の世界経済と相場動向の最大のテーマは米国であり、具体的には(09年6月を谷として7年5カ月経過した)同国の景気回復局面は続くのか、16年12月が2回目で最後の利上げにはならないか、新大統領は財政政策を講じるのかといった点が注目される」と指摘した。まだ船出していないトランプ新政権の財政政策(トランプノミクス)への期待は走り出し、「トランポリン相場」が始まった。

<米10年債利回り次第で1ドル110円も視野>

それでもトランプ氏について問題なのは、政治手腕が未知数なことだ。今回、米議会選で共和党が上下両院の過半数を維持し、ねじれは解消できた。これまで共和党の主流派と距離を置いていたトランプ氏が、閣僚人事で財務長官、国務長官にどのような人物を起用するのか、経済政策や外交問題にどう対処していくのか、当面は見守っていくことになろう。

そもそも共和党は財政規律を重視する向きが多く、来年3月末の米連邦債務上限引き上げ期限が、財政出動をする上での最初の試金石と思われる。議会の協力を得るため、新政権の政策が徐々に現実路線へと見直されていく可能性はありそうだ。

トランポリン相場は、落胆から一転、楽観ムードに包まれている。だが、今後も紆余曲折はあると想定すべきだ。新たな材料に一喜一憂し、この先も上下変動を何度か繰り返す相場展開が予想される。

その際、注意すべき市場動向は米債と考える。昨年12月に利上げを開始する前の米10年債利回りは2.3%台にあったことを思えば、その水準に近づきつつある。8月以降、日米欧の金融政策の転換点が近いとの見方から、世界の債券市場は変調を来した。それまでの過度な金利低下(日本では過度なフラット化)の反動修正が日本発で起きたと言える。

9月21日に日銀は新しい枠組みの導入を決定、金融政策の軸を量から金利へ転換し、その後、欧州中銀(ECB)の緩和縮小観測の呼び水となった。日銀のイールドカーブコントロールにより、日本の長期金利は限られたレンジでの動きとなったが、欧米での債券売りの流れは止まっておらず、米大統領選後に再び加速している。目先は追加利上げを十分に織り込み、新政権への期待プレミアムを乗せれば、米10年債利回りの2.5%程度までの上昇はあり得る。

日本の投資家が米債の買い支え役となるのか、当面は試される時間となろう。ドル円も米10年債利回りの上昇に合わせて、2.3%なら108円、2.5%なら110円も視野に入る。

<ドル円も日本株も12月にいったんピークか>

米大統領選は予想外の「トランプ勝利」となったが、市場の混乱は長引かずに済んだ。「クリントン勝利」の前提よりも、米経済の押し上げ期待は強まり始めている。目先の米連邦準備理事会(FRB)の政策判断に影響はないだろう。イエレンFRB議長の任期は18年2月3日までだが、新政権のもと更迭される事態には至らないと見る。

筆者は物価上昇率の伸び悩みと10―12月期の景気減速の可能性を懸念していたが、その霧は米10月雇用統計で少し晴れた。賃金上昇により、インフレ率2%に向けた上昇の流れは出てきている。12月2日発表の11月雇用統計で大きく鈍化しなければ、2%への自信につながるだろう。

また、アトランタ連銀が公表している国内総生産(GDP)成長率のリアルタイム推計「GDPナウ」では、10―12月期の成長率予測は前期比年率3.1%(9日時点)と3%台に乗せており、7―9月期(速報値)の同2.9%の強さがそのまま続いている。よって、12月の米利上げは最後とはならず、来年も緩やかな利上げペース継続(メインは年2回)は可能だ。

ましてや新政権で財政出動となれば、インフレ期待も高まり、利上げ継続の環境が整うことになる。17日には、イエレン議長が経済見通しについて議会証言をする予定だ。利上げの条件はほぼ整い、緩やかな利上げを継続できる経済状況を説明するだろう。

一方で100円割れの円高が遠ざかり、日本の長期金利が低位安定、欧米に比べて相対的な金利の低さはイールドスプレッドの観点からも、日本株の投資妙味を高めることになろう。アベノミクス4年目、年終盤の日本株高のジンクスは、日銀の協力のもと、1)原油高、2)欧米金利の上昇、3)円安と外部環境、が支援する形がイメージされる。

ただし、1点目については、11月30日の石油輸出国機構(OPEC)定例総会での減産協議の結果次第で弱含む可能性はある。それでも、過去2年のような原油安が長引く展開に転じるとは考え難い。残り2点については、12月8日のECB理事会、12月13―14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でいったんの材料出尽くしとなる可能性があり、12月上旬が米10年債利回り、ドル円、そして日本株の一時的なピークとなる可能性は念頭に置きたい。その後、新政権の政策運営を見守りながら、仕切り直しの展開を予想する。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below