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コラム:2つのジンクス覆せるか、株高持続の条件=岩下真理氏
2017年6月12日 / 08:48 / 5ヶ月後

コラム:2つのジンクス覆せるか、株高持続の条件=岩下真理氏

[東京 12日] - 日経平均株価は5月中旬以降、ドル円との相関が弱まり、国内企業の業績改善期待に加え、円高耐久力も備わりつつあるようだ。一方で、日米株価の相関は高まっている。

6月に入って、売り一巡後のファンドなどの買い戻しや、月替わりの新規資金が、他国の株式市場に比べて出遅れ感のある日本市場に舞い込んだ。日経平均はこのところは1万9900円台で推移しているものの、2日には1年半ぶりに2万円台を回復した。

2000年以降、日経平均の2万円回復は3度目となる。最初は2000年のITバブル時。2度目は2015年春で、1ドル=120円を超える円安局面だ。その点、今回も世界的なIT需要の回復という後押しがある。

企業業績は好調で、為替水準が1ドル=110円近辺ながらも2018年3月期は2期連続で過去最高を更新する見込みだ。想定為替の円高修正により、当初よりも業績予想は下方修正されたが、2桁増益が予想されている。過去の事例から考えれば、2万円台定着の条件はクリアーできそうに見える。

それでも行く手に2つのジンクスが立ちはだかる。1つ目は、目先に控えた「米利上げ後は円高」とのジンクスだ。

今回の米利上げ局面は、2015年12月、2016年12月、2017年3月とすでに3回の政策金利引き上げを実施。いずれにおいても米連邦公開市場委員会(FOMC)前に利上げを織り込む過程で、米10年債金利は上昇し、ドル高(円安)が進行した。その結果、FOMC当日は利益確定のために反対売買に動くことから、米10年債金利は低下、ドル安(円高)となった。

今回も同様に、円高になるとの見方だが、従来と異なり、米国経済に対する慎重な見方のもとで、米10年債金利は6月利上げを織り込んでも2.2%台と低水準、ドル円も110円近辺での推移だ。ドルは買い上げられておらず、利上げだけでは売りようがない。それゆえに今回のFOMCで重要なのは、年後半の経済・物価見通しと今後の政策金利見通しとなる。

これまで米連邦準備理事会(FRB)は、1―3月期の成長減速も足元の物価伸び悩みも一時的なものだと説明してきた。この考え方が変わらなければ、政策金利見通し(中央値)が大きく修正されることはないだろう。筆者はFOMC後、急激な円高が進行するとはみていない。

<「7の付く年」を巡るジンクス>

もう1つのジンクスは、7の付く年は株価が「春から夏にかけて上昇し、秋には下がる」というものだ。1987年は10月19日にブラックマンデー、1997年夏は7月にタイバーツが暴落し、アジア通貨危機が起きた。そして2007年8月9日にはパリバショックが起きた。これらの年の米株動向を確認すると、春から夏にかけて上昇し、年間のピークをおおむね夏場に付けて、秋には下落というパターンを繰り返している。2017年も同じことが繰り返されるかだ。

今年の場合、夏の材料として、1)足元でくすぶる米国経済の弱さが一時的ではないとの見方が強まること、2)北朝鮮や中東などの地政学リスクの高まり、が挙げられる。

秋には、1)5年に1度の中国共産党大会とその後の中国不安、2)欧州中銀(ECB)が来年の緩和縮小方針を示す可能性(欧米の出口戦略への警戒)、3)IT関連需要のいったんのピーク感、が出ることだろう。

ただし、7の付く年の話で終わらず、8の付く年にも不安は残り続ける。1998年夏にはロシア通貨危機、2008年は3月にベアー・スターンズの事実上の経営破綻、9月15日にリーマン・ショックを迎えた。

足元で米10年債金利が低迷している背景には、こうしたジンクスを意識して、先行き不安から債券を早めに買っている投資家の存在もあるのだろう。

<堅調なIT需要、米景気回復持続は可能>

筆者は5月後半に米国へ出張し、経済動向やFRBに関して多くの人と意見交換したが、その結果、米国経済の緩やかな回復持続は可能であり、FRBがイエレン議長の任期を視野に、金融政策の正常化を早めに進めていくとの見方を強めた。

米1―3月期実質国内総生産(GDP)改定値は、前期比年率プラス1.2%。その特徴は、消費の伸び悩み、在庫の大幅減少、政府支出の落ち込みだ。

消費については、所得税還付の遅れが解消すれば持ち直すはずであり、在庫と政府支出は、翌期の反動増が見込める一時的な弱さだ。確かに新車販売は5カ月連続減少と弱いが、低金利長期化に伴う需要先食いによるピークアウトはやむを得ない。商務省の四半期サービス調査の1―3月期は堅調な動きを見せた。消費面ではサービス支出が肝となろう。

アトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDPナウ」によれば、4―6月期の成長率予測(9日時点)は前期比年率プラス3.0%としっかり。1―3月期と4―6月期を均してみれば、今年上期で2%台前半の成長だ。

米国の潜在成長率は現在2%弱と思われるが、世界的なIT関連需要の強さのもと、当面は潜在成長率を上回る成長を続けるとみる。その一方で、物価の伸び悩みをどう判断するかだ。

失業率が下がっても賃金上昇が加速しない現在の状況は、先進国の共通課題である。米10年債金利の低さは、今後の物価上昇のパスを描けない参加者が多いことを物語る。4月のコア個人消費支出(PCE)物価指数は前年比プラス1.5%(3月同1.6%)と伸び悩んだ。項目別では耐久財価格のマイナス寄与が大きく、財によってはドル高の悪影響もある。

消費者物価指数(CPI)の品目別で見ると、3月分から携帯電話通信料の値下げが足を引っ張っている。それ以外では、昨春から中古車・トラックの価格が持続的に下落しており、かつ幅が大きい。需要先食いによる新車販売の伸び悩みと整合する。また、医療サービス価格の上昇率が昨秋以降、鈍化し続けているのも気になるが、現時点でサービス全体に広がっているわけではない。まとめると、一過性の携帯電話通信料、一部耐久財(自動車関連)と医療サービスの下落傾向だけなら、2%近辺で安定するとの物価見通しを変える必要はない。

足元の消費と物価が一時的な弱さと結論付けるには、もう少し材料が欲しい。景気判断を変えないなら、FOMCメンバーの政策金利見通し(ドットチャート)では年3回の利上げペースと中長期水準3.0%が据え置かれると筆者はみている。今後のデータで確信を深めた際に、FRBは3月時のように市場に織り込ませていく手法を取るのではないか。

筆者は7月28日発表の4―6月期GDP(年間補正あり)を見て一時的な減速を確認し、9月利上げの織り込みが始まっていくと予想する。加えて、早ければ今回、再投資政策の縮小に関するガイダンスを発表し、イエレン議長が会見で補足する可能性はある。

そう考えると、6月の次の利上げを織り込むまで、米10年債の金利上昇は限定的となり、米株をサポートすることとなる。FRBが金融政策の正常化を緩やかなペースで慎重に進めるなら、米国では結果的に米株高・米債高の程よい状況(熱しすぎず、冷たすぎない適温)の「ゴルディロックス相場」の時間帯が、まだ続くことは可能と思われる。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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