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コラム:日本経済は「真の夜明け」迎えるか=岩下真理氏
2017年10月17日 / 07:52 / 1ヶ月前

コラム:日本経済は「真の夜明け」迎えるか=岩下真理氏

[東京 17日] - 後世になって2017年の特記事項と語られるのは、トランプ米大統領の就任とともに、米連邦準備理事会(FRB)が9月20日にバランスシートの縮小を決定(10月から開始)したことになるだろう。

イエレンFRB議長は量的緩和縮小(テーパリング)完了後、2015年に利上げを開始、2017年にはバランスシート縮小に着手し、金融正常化は軌道に乗ったと言える。仮に来年2月3日でイエレン議長が任期満了となっても、金融正常化に対するやり残し感はないように思える。あるとすれば、ミステリーな物価低迷だろうか。

ただ、イエレン議長は14日、インフレに関して「こうした低調な統計は長続きしない」と想定、「景気の継続した強さが漸進的な利上げを裏付ける」と発言した。賃金が大きく落ち込まなければ、FRBは12月の利上げをためらわないだろう。

欧州でも、26日開催の欧州中銀(ECB)理事会で、2018年以降のテーパリングについて大枠が決定される見込みだ。ECBは9月時に1ユーロ=1.18ドルと想定し、2018年には消費者物価の予想中央値が前年比プラス1.2%に鈍化すると見込んでいる。物価見通しからも、利上げ開始はかなり先送りされよう。時間稼ぎのため、買い入れ期間の延長はやや長めとなる可能性がある。

12日のロイター記事によると、関係筋の話として「現在の月額600億ユーロから大幅縮小で大筋合意、250―400億ユーロになる」「6カ月の延長では短すぎ、長すぎても買い入れ債券がなくなる」と報じられた。毎月300億ユーロへの減額、9カ月の期間延長を念頭に置き、結果を待ちたい。

米欧が正常化の道を粛々と進めていく状況下、日銀だけは表面的に出遅れ感がある。黒田東彦総裁が、「今後とも強力な金融緩和を粘り強く進めていく」との発言を繰り返し、緩和継続を印象付けているからだ。

声明文には、国債買い入れペースについて「年間約80兆円をめど」という文言を残したままだが、実態は60兆円割れまで縮小している。日銀は2016年9月の長短金利操作導入に伴い、金融政策の主軸を「量」から「金利」にシフトした。当時から、国債買い入れのテクニカルな限界が指摘されており、その障害を取り除くためにステルス・テーパリング(こっそり行う資産購入額の漸減)を進める腹積りだったと推察される。

市場が長期金利のゼロ%程度の許容範囲を探ることに神経を集中させているうちに、買い入れ減額は進められていった。今後も国債買い入れの持続性を高めたいならば、金融市場局は市場とのコミュニケーション強化に注力すべきだろう。

<中曽講演、強気の根拠は>

一方で、中曽宏副総裁は5日のロンドン講演で、「今度こそ、真の夜明けが近い」と強気な発言をした。来春の正副総裁任期も残り半年を切り、環境は整ったと異次元緩和の成果をアピールしているかのようだ。

かつて白川方明前総裁は2009年4月のニューヨーク講演で、「厳しい経済危機において、政策当局者は、経済の一時的な回復(偽りの夜明け)を本当の回復と見誤ることがないように注意する必要がある」と訴えた。リーマン・ショック時に金融市場局長だった中曽氏は、各国との協調策などにも尽力、尊敬する白川前総裁を支えたことで有名だ。

強気の論拠は、労働市場の改革を進めることで、労働生産性が高まっていくことである。講演資料の図表「2%成長に必要な労働生産性上昇率」は白川時代によく見たものであり、白川前総裁こそ生産性の向上が重要だと力説していた。

当時からの変化は、企業が省力化投資など生産性の改善に取り組む事例が増えてきたこと、政府が労働市場改革を進めようとしていることだ。明るい変化はあっても、生産性と物価の関係には懐疑的な見方が多い。

日本の特徴としては次の2点が指摘できる。予想インフレ率が適合的で過去の影響を受けやすいこと、需給ギャップの感応度が小さいことだ。中曽副総裁の「かなりの確度をもって、先行きの物価上昇圧力は高まっていく」との見方は正しいとしても、時間がまだかかるという認識は変えられないだろう。

9月短観における企業の物価全般見通しでは、1年後が前回のプラス0.8%からプラス0.7%へ、3年後、5年後が前回のプラス1.1%と変わらず。短期的には商品市況の上昇一服が影響しても、日銀が重視する中期的な見通しは下振れなかった。

だが、人手不足による非正規の賃金上昇、ヤマト運輸など一部サービス業の値上げがあっても、物価見通しは消費税引き上げ後の2014年末時にみられた1%台後半に戻るような上昇の勢いはない。将来不安を持つ消費者の節約志向に対応し、日用品主体の小売業、外食産業の一部には低価格戦略を推進する企業も根強く存在する。

8月の消費者物価指数(CPI)は生鮮食品を除くコアが前年比プラス0.7%と8カ月連続のプラスも、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアは同プラス0.2%と停滞。秋以降はエネルギー関連の押し上げが徐々に剥落し、物価上昇の勢いはなくなる。円安がタイムラグを伴って来春の食料品などの値上げに多少つながる可能性はあっても、コアCPIが1%前後から上昇加速する要因は見当たらない。

<日銀の進むべき道>

ただ、国内経済にとって明るい材料は3つある。第1に、世界的なIT需要の強さのもと、9月の米中製造業景況指数で新規受注が勢いを盛り返していることだ。日本の輸出数量と2―3カ月のタイムラグはあるが相関が高く、10―12月期の輸出も堅調な姿が描ける。

第2に、日本の在庫循環図では、在庫積み上がり局面から調整を経て、今夏に積み増し局面に向かい始めている。在庫が抑制された状態なら、IT関連商品の需要読み違いがあっても、生産が大きく下振れるリスクは回避され、調整期間を短縮することも可能となる。当面は緩やかな生産の改善基調は続くと期待できる。

第3に、企業物価の上昇だ。企業物価のプラス定着は採算改善につながり、収益の増加基調をサポートする。また、コアCPIとの相関が高い最終財・耐久消費財が9月に前年比プラス0.1%と2015年11月以来の上昇に転じた。コアCPIの前年比プラスの定着は可能だろう。

日銀は10月展望レポートで、2017年度のコアCPI見通し(大勢中央値)を7月時のプラス1.1%から1%割れに下方修正することが見込まれる(筆者予測は0.6%)。この時点で2018年度以降を下方修正する意向はないだろう。緩やかな景気回復は持続しており、日銀は緩和累積効果のもと、黒田総裁の任期までは様子見となろう。

22日の衆議院選挙により安倍政権の長期安定化となれば、黒田総裁の続投説が強まるかもしれない。選挙がどのような結果でも、日銀は2013年1月発表の政府との共同声明でうたわれた、2%の「物価安定目標」をできるだけ早期に達成するという文言の制約を受ける。

とはいえ、2019年度頃の2%達成は絵に描いた餅だ。より現実的な政策議論を進めていくためには、2つの方法が考えられる。1つは政府がデフレ脱却宣言をし、2%は中期目標との位置付けに変えることだ。もう1つは日銀が2%目標の自らの解釈を柔軟化させることだろう。日銀新体制では、長短金利操作の総括検証とともに、物価目標の解釈の柔軟化にすぐに取り組んでほしいものだ。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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