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コラム:デフレ脱却宣言視野か、物価目標柔軟化の好機=岩下真理氏
2017年11月15日 / 09:06 / 23日前

コラム:デフレ脱却宣言視野か、物価目標柔軟化の好機=岩下真理氏

[東京 15日] - 内閣府が15日発表した7―9月期の実質国内総生産(GDP)1次速報値は前期比0.3%増、年率1.4%増と市場予想平均に沿う結果となり、7四半期連続のプラスとなった。ITバブル期に当たる1999年4―6月期から2001年1―3月期までの8四半期連続以来、約16年ぶりの快挙だ。

今回のGDPの特徴は3つある。第1は、前期4―6月期の内訳寄与度が逆転し、内需が弱く、外需が強くなったことだ。外需依存の景気回復を印象付けた。

その背景にあるのは、世界的なIT関連需要の強さだ。従来の一部スマホにとどまらず、第4次産業革命の波(クラウド需要のすそ野)は、人手不足と省力化の対応策も手伝い、人工知能(AI)活用、モノのインターネット(IoT)や工場自動化などへとかなり広がっている。全体の半導体市況の強さはしばらく続くとみる。今春の想定以上に、半年経って世界経済にフォローの風は強いと痛感した。

日本の在庫循環図(前年同期比)では、今夏以降、積み増し局面に向かい始めている。その明るい動きに変化はない。10―12月期は、自動車関連の不正出荷問題の影響が出ようが、景気後退を招く生産調整には至らないと考える。

8日発表の9月景気動向指数により、現在の第16循環は「いざなぎ景気」(1965年11月から1970年7月)を超えて戦後2番目に長い景気拡大局面となったが、通過点にすぎないだろう。筆者は、5月18日付のコラム「アベノミクス景気、いざなみ超えは可能か」で以下のように指摘した。

「戦後最長記録は73カ月の「いざなみ景気」(2002年1月から2008年2月)であり(中略)その記録を抜くには、現在の2012年11月の谷を起点として74カ月目となる2019年1月まで景気拡大局面の継続が必要となる。2018年はオリンピック特需と白物家電の買い替え需要に支えられる。天皇の生前退位のご意向により、2019年から元号変更の予定であり、それに伴うミニ特需も多少は期待できるだろう。2018年をうまく乗り切ることができれば、アベノミクス景気が戦後最長となるのも決して夢ではない」

ちなみに、第16循環の景気拡大は、当初は異次元緩和の効果が大きかったとみるが、昨春以降はIT革命と新興国景気の持ち直し、原油価格の安定、そして今年は為替の安定がじわじわと効いてきていると、筆者は考えている。世界の共通課題が物価の伸び悩みとなり、内外価格差が縮小していることも、円高圧力の軽減に寄与しているだろう。為替の安定は企業の事業計画を立てる上でプラスに作用し、日本株にはフォローの風となる。

ただし、外需の強さにも注意すべき点はある。足元で中国指標(9月分以降)に、鈍化傾向が見え始めている。共産党大会前の財政出動が一服し、2018年の6%台前半の成長に向けたソフトランディングへの過程であり、一気に崩れるものではない。しかし、景気減速のもと人民元や非鉄金属相場の軟調が続くと、リスクオフ相場入りとなりやすい。

幸い米国経済は堅調だ。ハリケーンの悪影響が見えないまま、力強さを増している。足元の株高持続でクリスマス商戦は資産効果が期待され、10―12月期は復興需要もあり3四半期連続の3%台成長も視野に入る。ただし、年明けの勢い一服には注意すべきだろう。テクニカルと天候要因で1―3月期は弱めに出る傾向があるからだ。

<個人消費は持ち直すか、統計改革に注目>

今回のGDPの第2の特徴は、天候要因による消費の弱さだ。個人消費は前期比0.5%減と7四半期ぶりのマイナスとなった。マイナス寄与度が高いのはサービスと耐久財だ。長雨や台風などの悪天候により旅行や外食などのサービス支出が足を引っ張り、自動車や携帯電話などの耐久財も減少した。

しかし、雇用者所得を見ると、実質ベースの雇用者報酬は前年同期比1.64%増と引き続き安定した伸びを示している。天候要因が災いせず、株高による資産効果を期待すれば、10―12月期は持ち直すことが見込まれよう。

なお、10月25日の総務省統計委員会・国民経済計算体系的整備部会において、家計最終消費支出、民間企業設備の推計の需要側と供給側の統合比率見直しが審議され、過去のデータに基づき、速報値と年次推計値とのかい離を最少化するような統合比率の導出方法が開発された。個人消費では、これまで需要側の統合比率が約5割あったが、次回12月8日発表予定の7―9月期GDP2次速報では約3割まで低下する。

また、季節パターンの変更から、1994年1―3月期まで遡及して再推計されるという。従来は、需要統計である家計調査の弱さに引っ張られる傾向にあったが、その影響度合いが低下する。日銀が作成している消費活動指数は、供給統計を重視したものだが、今後、GDP速報値での個人消費を予想する上で、家計調査より消費活動指数の動きの方がフィット感は良くなると見込まれる(2017年第3四半期の消費活動指数は季節調整済前期比0.6%低下)。

ちなみに、筆者は2010年から、総務省消費統計研究会(旧家計調査改善検討委員会)のメンバーを務めている。2017年度の目下の審議要件は、従来の家計調査を改善する形で、2018年1月から新たに公表開始予定の「消費動向指数」についてだ。昨年来の統計改革の波に乗って、時間は要したが消費統計は変革しつつある。残る懸案事項は、総務省が消費者物価指数(CPI)における「家賃の経年変化の品質調整等」について、とりまとめる具体的な対応内容だ。2017年度中に公表予定であり、その中身に注目したい。

<4つの重要指標が全てプラスに>

今回のGDPの第3の特徴は、総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターが前年同期比で0.1%の上昇と5四半期ぶりにプラスに転じたことだ。

GDPデフレーターについては、1%程度に安定することが必要条件と言われてきたが、これにより、安倍政権がデフレ脱却判断において重視する4つの指標(CPI、GDPデフレーター、需給ギャップ、単位労働コスト)全てがプラスとなったことは確かだ。今後、アベノミクス5年の成果として、政府がどのような判断を示すか注目される。

仮に政府がデフレから脱却しつつある状況を認めたうえで、まだ道半ばの姿勢を残すならば、現状認識と物価安定目標2%を切り離すことで、日銀による金融緩和継続を期待しているに他ならない。それゆえに、黒田東彦日銀総裁の続投説が強まっているのだろう。

しかし、日銀サイドもこの機会を逃すべきではない。政府がよくやったと異次元緩和の効果を認めてくれた時こそ、イールドカーブ・コントロールの軌道修正を考えるタイミングだ。その日が来る前に、頭の体操や総括検証の準備をしておくべきだろう。

それと同時に、日銀は2%がまだ遠いだけではなく、日本の望ましい物価水準をどう考えるかについて議論を深めて欲しい。日本の物価の実力、そして、あるべき物価が2%とは言い切れない。2000年代初頭に発表した物価三論文のように、その後の技術革新や経済構造の変化に対する新たな物価の考え方として、日銀の英知を結集してまとめることを提案したい。その上で、2013年1月の政府・日銀の共同声明で明記した物価安定目標2%について、日銀は今後、その解釈を柔軟化することに取り組むべきだろう。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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