March 5, 2018 / 5:53 AM / 3 months ago

コラム:為替と株の大変動に備えを、日銀「静観」貫けるか=岩下真理氏

[東京 5日] - 2018年の金融市場のテーマは「日米欧金融政策の正常化」だ。2月5日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が就任、4月に日銀新体制のスタートとなるが、長く市場をみてきた筆者でも、ほぼ同時期に日米中銀の体制が変わることは初めての経験だ。

誰がやっても金融政策の舵取りは大きく変わらないとの見方も多かったが、交代時のメッセージの出し方で何が起きるか分からず、今春は注意すべき時間帯と考えていた。というのも、2017年の金融市場は「物価の伸び悩み、低金利と株高、低い変動率」という環境にすっかり慣れきってしまっていたからだ。

案の定、2月に入り米長期金利の上昇加速から米国発の世界同時株安、円高進行となったが、米長期金利の上昇は一服しても、いまだ株と為替の不安定な地合いは続いている。期末を控えた国内勢にとって、足元の株安・円高地合いは心地良くないだろう。

トランプ政権が2年目、中間選挙を控えてインフラ投資拡大や通商政策の新たな取り組みを始めていることもノイズだ。2018年の米欧では「賃金上昇、金利水準の上方シフト」、日米欧で「株と為替の変動率の高まり」が見込まれる。

<パウエル新議長の本音は「緩やかな利上げ」継続か>

市場では、2月27日のパウエルFRB議長の議会証言がタカ派と受け止められた。証言では、金融情勢のタイト化に触れ、「こうした動きが、経済・雇用・インフレ見通しに対する大幅な圧迫要因になっているとはみなしていない」と静観する考えを示唆。また、「景気過熱の防止とインフレ率の持続的な2%への回帰との間で均衡をとっていく」と表明した。

その後の質疑応答では「どのような状況になれば、今年3回以上の利上げをするのか」との質問に対して、「個人的見解ながら12月以降、景気見通しに自信を深めた。財政政策も刺激的だ」と答えた。

筆者は、1―3月期で天候要因が足を引っ張る可能性、米アップルの1―3月期減産報道の影響を懸念していたが、杞憂に終わりそうだ(むろん、日本に影響はあるが)。スマホの在庫調整が始まっても局地的現象なら、全体の半導体市況の強さは、多少のペースダウンにとどまるだろう。

1日発表のアトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDPナウ」では、1―3月期の成長率予測は前期比年率プラス3.5%と堅調持続が見込まれている。その先もトランプ政権の税制改革による浮揚効果、インフラ投資拡大への期待もあり、実体経済の力強さは続くイメージとなる。国際通貨基金(IMF)試算(1月の世界経済見通し改訂)では、米成長率は税制改革によって2020年末までに計1.2%押し上げられる見通しだ。

ただし、パウエル議長は利上げ加速を意識させる一方で、3月1日の証言では「景気過熱を示す証拠はない」「賃金上昇の加速を示唆するものはない」と慎重な言い回しも盛り込んだ。その心は、景気過熱に対して後手に回らぬように緩やかな利上げを継続したい考えなのだろう。

すでに1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)時点でFRBは経済・物価見通しに自信を深めており、事実上の3月の利上げ宣言と物価次第では年4回の利上げの可能性も十分あり得ることを示唆していた。

1月FOMC議事録にある、物価に関する事務方の分析報告では「医療サービス分野などでの構造変化や、携帯電話サービスなどの一時的要因が大きかった」と指摘。今後発表される消費者物価指数(CPI)、特に3月分以降は一時的要因の剥落により前年比のプラス幅が拡大しよう。雇用コスト指数が緩やかに上昇しており、ようやく賃金上昇の兆しはある。ただし、インフレが加速する兆候はまだない。

それでも2017年は、物価上昇が鈍い状況下、FOMC前に利上げを織り込み、利上げ後は材料出尽くしとなる「噂で買って事実で売る」相場だったが、2018年は利上げ後も次の利上げを考えて動く相場に転換するだろう。大幅減税の影響を考えると、2018年だけでなく2019年にも影響を及ぼすはすだ。

3月20―21日のFOMCでは政策金利見通しの中央値(ドットチャート)で、2019年末が2.875%(前回2.688%、年2回から3回ペース)に、もしくは中長期が3.00%(前回2.75%)に上方修正の可能性がある。後者が実現した場合には、米10年債利回りの3%突破となるとみている。一時的な株価下落は避けられないとしても、それだけ景気が強い見通しなら、健全な調整にとどまろう。

<正常化に乗り遅れる日銀、追加緩和観測浮上も>

一方、日本では2日、黒田東彦日銀総裁が再任案を受け、所信表明と質疑に臨んだ。「現時点で2018年度ごろに出口について具体的な議論を探るとは考えていない」と語り、2018年度中のイールドカーブ・コントロール調整にはかなり消極的な意向を示した。

また、「(コアCPIが)1%まで上がったら金利目標を上げるというのは、そう簡単に割り切れない」と回答。政策調整はあくまで物価目標対比で判断しており、「2%の物価安定目標を最優先に政策運営を行う」ことが、最も重要なメッセージだったと言える。一部報道のミスリーディングで、海外勢の円債売り、円買いを誘ったが、黒田総裁は安倍政権の緩和継続の意向に応える発言に終始した。

2日発表の東京都区部2月のコアCPIは前年比プラス0.9%(1月同0.7%)と上昇幅が拡大し、宿泊料・外国パック旅行費の寄与度が高かった。前者は春節要因、後者は航空会社の燃料サーチャージ引き上げの影響が大きく、広義のエネルギー要因による押し上げと言える。

基調的な物価上昇は緩やかだが、全国2月分でコアCPIは1%到達の可能性が高まった。2018年は1%近辺の時間帯が続くとみている。それでも国民の体感物価は、食料品や光熱費などの上昇により、総合の前年比1.4%の方に近いだろう。

筆者は、日銀新体制でイールドカーブ・コントロールの総括検証を行い、物価目標2%の柔軟な解釈(日本の物価の実力は1%程度)のもと政策微修正に取り組むべきと意見を伝えているが、やる気配はない。2018年は世界経済の強い景気回復持続が期待され、米欧では賃金上昇による物価上昇の姿がみえてくるだろう。

日本は景気が悪くないにもかかわらず、コアCPIが1%程度に安定しても物価目標がまだ遠いと言い続けることで、正常化に乗り遅れてしまいそうだ。これは世界経済に息切れ感が出てくる時に、日本だけ緩和カードがない状態に追い込まれることを意味する。また、日銀は2019年10月の消費税率引き上げを前に限られた機会を逃すと、マイナス金利撤廃をあと数年できず、副作用を大きくすることが懸念される。

当面は、トランプ政権による通商政策に揺さぶられながら、変動が高まる株価や為替の動きが想定しやすい。2017年の税制改革は議会相手の交渉だったが、今回の通商政策は明らかに中国がターゲットであり、紆余曲折が見込まれるため神経質にならざるを得ない。

平昌パラリンピックが18日に終了し、4月の米韓合同軍事演習が実施されることで、北朝鮮リスクが高まると、通商の緊張感が和らぐ可能性はある。米国は淡々と利上げ継続、欧州は国債買い入れ終了から利上げへ、日銀は静観のつもりでも、リスクは常に伴うものだ。特に日本では株安・円高が同時進行した場合、日銀の追加緩和観測が浮上しかねない。

引き続き経済指標を丹念に点検しながら、中央銀行の手腕が問われる局面は続こう。2018年の市場は、変動率の高まりとの闘いが続くことになる。

*岩下真理氏は、大和証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券、SMBCフレンド証券を経て、18年1月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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