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コラム:試されるG20合意、日銀緩和あるか=岩下真理氏
March 9, 2016 / 9:23 AM / 2 years ago

コラム:試されるG20合意、日銀緩和あるか=岩下真理氏

[東京 9日] - 筆者は前回コラムで、年明け以降のリスクオフ相場への処方箋として、次の3つを挙げた。まず、中国が景気対策として具体的な財政出動を発表すること。次に、同国が人民元を安定化させる意向を強く示すこと。そして、日米欧の中央銀行が行動の伴った協調姿勢を明確に示すことだ。

その後、2月下旬に中国・上海で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明に「最近の市場の変動の規模は、その根底にある世界経済の現在のファンダメンタルズを反映したものではないと判断」という文言が盛り込まれた。

また、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」という表現を2013年9月以来復活させ、ドル円が1カ月間で121円台から110円台と11円も円高進行した、行き過ぎた動きに釘を刺した。

一方、「金融、財政、構造改革の全ての政策手段を、個別にまた総合的に用いる」と明記することで、金融市場の安定に強い危機感を共有しつつ、今後は当該国が手段に制約なく独自の状況に合わせて行動する指針を示したと言えよう。当面はG20合意に対して、各国の具体策、実効性が試される時間帯となる。

3月に入り、中国の財政出動への期待や産油国の増産凍結を目指す動きを背景に、資源価格やエネルギーの国際価格に底入れ感が出始めている。ただし、いずれの要因も期待先行で、足元の上昇に持続力があるとは言えない状況だ。

中国では、5日開幕の全国人民代表大会で交通網整備などに年2兆元(34兆円)超を投じることが表明された。先行きの明るい材料も、8日発表の2月分輸出が前年比マイナス25.4%と大きく落ち込み(旧正月要因あり)、市場は再び弱気に転じている。内外需の低迷を反映した中国の減速感が徐々に和らぐ姿が待たれる。

他方、ニューヨーク原油先物(WTI)は8日、一時1バレル38ドル台と約2カ月ぶりの高値をつけたが、在庫増懸念も根強く36ドル台まで反落。原油価格の持ち直しは一時的との見方もあるが、産油国が生産協議を始めていること、危機感が共有され始めていることなどから、最悪期は脱しつつあると筆者はみている。

<ECBの追加緩和濃厚、日銀追随の条件は>

3月の日米欧中銀会合で、先陣を切るのが10日開催の欧州中銀(ECB)理事会だ。2月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)速報値は前年比マイナス0.2%と原油安を背景に5カ月ぶりにマイナスに転じた。今回ECBは16年の物価見通し(昨年12月時点でプラス1.0%)の引き下げに合わせ、追加緩和措置を講じよう。

市場では、現在マイナス0.30%の中銀預金金利のさらなる引き下げ(マイナス0.40%)予想に加え、現行月600億ユーロの債券購入プログラムの拡大(100―200億ユーロ上積み)が有力視されている。加えて、現在17年3月までの期間も延長されるとの見方もあり、昨年12月時のように市場を失望させない合わせ技になるとみられている。

筆者は、2月19日にコンスタンシオ副総裁が「追加緩和の手段を考える上で、日本やスイスなどが実施しているように、銀行への影響を和らげなければならない」と発言しており、マイナス金利の適用面で工夫の可能性はあるとみている。債券購入プログラムについては、条件設定を修正しつつ、購入額の拡大を予想する。

注目は実際にECBが出した結論に、市場がどう反応するかだ。円高・日本株安が進行するならば、14―15日に金融政策決定会合を控える日銀は金融市場の安定化に向けて、量を出す必要はないか検討する可能性が高まろう。

日銀の1月展望レポートでは、特記すべき3つの分析があった。1)為替の物価に与える影響、2)パート賃金とサービス価格の関係、3)軽減税率の影響と、いずれも物価に関するものだ。特に一番目は円高による物価下ぶれを計量的に説明、為替重視の証左と言える。日銀は物価安定目標2%に向けて、急激な円高進行時には追加緩和を検討するだろう。

そのような状況下、米商品先物取引委員会(CFTC)発表の投機筋ポジションで円の対ドルは1月5日時点で12年10月以来の買い越しに転じ、1月26日時点で5万枚に到達。日銀のマイナス金利導入決定後の2月2日時点で3.7万枚まで減少したが、直近3月1日時点で5.96万枚まで積み上がり、これは12年1月以来の高水準だ。中国当局の対応なくしては、人民元安に伴う円高シナリオは消えそうにない。他方、輸出企業の「実需の円買い」が3月中旬までに一巡すれば、円高圧力の軽減が期待される。

日銀の3月会合はマイナス金利の開始からわずか1カ月、その効果と影響を十分に見極められない状況下、さらなる金利の引き下げは考え難い。まずは3階構造の真ん中に当たるマクロ加算残高、その掛け目をどうするかボードで議論し、決定することになろう。金融機関の仲介機能を損なわないため、低めに抑えてマイナス金利適用部分を小さくすると推察される。

ECBのような物価見通し修正は次回4月展望レポートであり、エコノミスト感覚では日銀シナリオの正念場は4月会合だ。しかし、金融市場の安定化という意味合いでは、4月まで待てない考え方もあり、量と質での対応策を検討する可能性はゼロではない。

筆者は、昨年12月時に決定した補完措置に盛り込まれた「16年4月からの銀行保有株の売却再開」の再延期もありと考えるが、それで足りないと思えば上場投資信託(ETF)購入増額もあり得る。また、日銀幹部が量的限界はないとの主張を繰り返しており、国債増額の可能性も皆無とは言えない。

<冴えない1―3月期の国内経済>

最後に、国内1月指標の滑り出しは冴えない。1月の鉱工業生産は前月比プラス3.7%と3カ月ぶりのプラスだが、1月は正月休みが短く稼働日数が多かったことや、中国の旧正月前の駆け込みなどの一時的要因が貢献した。

しかし、予測指数を見ると、2月の前月比はマイナス5.2%、3月はプラス3.1%。この数字を前提にすると、1―3月の前期比はマイナス0.3%(経産省は誤差調整で2月はマイナス6.4%程度と試算、その前提では1―3月はマイナス1.0%台)とマイナス圏に修正された。

今年の場合、1月に起きた愛知製鋼の工場での爆発事故の悪影響が大きく出た。3月の持ち直しは見えるが、足元の新興国不安を受けて、4月以降の輸出伸び悩み、生産減という形がじわじわと広がれば景気後退も意識されよう。

他方、10―12月期に暖冬の影響もあって弱かった個人消費。供給統計である商業動態の小売業では、1月の10―12月対比はマイナス2.1%。需要統計である家計調査(過去遡及あり)では、2人以上世帯の実質消費支出(除く住居等)の1月の10―12月対比はマイナス0.4%といずれも弱い滑り出しだ。2月は閏日要因があっても、新車販売台数は低迷しており、過度に期待はできない。

以上のように、1―3月期のけん引役が見当たらない状況下、現時点で筆者は前期比年率0.4%とプラス成長予想だが、マイナスになる可能性が高まったのは事実だ。1―3月期の国内総生産(GDP)1次速報は5月18日発表と同月26―27日の主要7カ国(G7)伊勢志摩サミット開催直前となる。政府による景気対策、それも消費面のサポートが必要な材料となりそうだ。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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