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コラム:夏枯れ相場の落とし穴、震源は米国債か=岩下真理氏
2015年7月28日 / 01:44 / 2年後

コラム:夏枯れ相場の落とし穴、震源は米国債か=岩下真理氏

[東京 28日] - 7月前半はギリシャ問題と中国株急落という乱気流に遭遇し、相場のエネルギーを消耗したが、後半は世界的な需要減少を背景に商品市況の下落が加速している。

米国の利上げ開始が早くても9月なら、8月は材料待ちで夏枯れ相場との見方もあるようだが、筆者にとって8月のイメージは「予想外の何かが起きる」要注意の月だ。ここでは過去の事例を紹介しつつ、今夏のリスクシナリオを考えてみたい。

<夏場の地政学リスクに要注意>

まず過去8月に起こったイベントで、筆者の記憶に強く残っているものを挙げれば、以下の6つだ。海外と国内3つずつある。

1)1990年8月2日:イラクによるクウェート侵攻(1991年1月に湾岸戦争)

2)1998年8月:ロシア通貨危機(翌9月には米大手ヘッジファンドLTCMが破たん)

3)2000年8月11日:日銀のゼロ金利解除(2001年3月には量的緩和実施)

4)2006年8月25日:日本の消費者物価指数(CPI)ショック(基準改定で予想より下振れ)

5)2007年8月9日:パリバショック(2008年9月にリーマンショックへ)

6)2011年8月4日:日本政府の為替介入と日銀の追加緩和決定

1番目は地政学リスクだが、今夏も過激派組織「イスラム国」による石油施設攻撃の可能性がある。25日にはトルコがイスラム国の拠点を空爆し、対決姿勢を示した。昨年は8月7日にオバマ米大統領が、イスラム国に対する限定的な空爆実施を承認したことは記憶に新しい。

従来ならば、地政学リスクは原油高、新興国では通貨安のダブルパンチでのインフレ上昇と景気減速が懸念される。しかし、原油市場は7月以降、需給両面で下落圧力が強まっている(23日にWTIは49ドル割れ)。これは中国経済の弱さを背景に需要が減少する一方で、14日のイラン核問題の最終合意を受けて同国産原油の輸出再開を織り込む格好で供給過剰懸念が高まっているためだ。

こうした状況を考えれば、供給不安が多少強まることがあっても一時的なものにとどまる可能性が高いだろう。ただ、過去の教訓として、夏場の中東情勢は油断できない。地政学リスクが一段と悪化する可能性は低くても、ひとたび顕現化すれば、世界的な景気失速懸念につながりかねない点にも注意が必要だ。

また、新興国のデフォルトから始まった2番目の事例についても、過去の話とばかりも言っていられない。足元でウクライナの債務危機は収まっておらず、停戦合意後も緊張は続いている。ロシア発の混乱が再び起きるリスクが皆無ではないことも念頭に置きたい。

<今夏の主役は日銀より政治リスク>

順不同になるが、5番目のパリバショックはサブプライム問題が本格化する起点だった。あれから8年が経過し、ようやく米国の利上げ開始が近づきつつある。

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は15―16日の上下院議会証言で、年内の利上げが適切であるとの考えを改めて表明する一方で、利上げを若干早めに開始することの利点として、金利の道筋が緩やかなものになる可能性があると指摘した。

利上げ判断の重要指標は30日発表の4―6月期実質国内総生産(GDP)年次改定と31日発表の雇用コスト指数だ。1―3月期の一時的な弱さから4―6月期に持ち直す姿が示され、賃金の上昇傾向が期待できれば、FRBの利上げ確度は高まるだろう。

一方の国内要因では、来年もまた物価基準改定の夏を迎えることから、2006年夏のCPIショックを思い起こさせる。ただ、支出ウェイトの高い品目が値上がり傾向にあり、過去のような押し下げには至らないだろう。

また、6番目に挙げた2011年の日銀追加緩和の背景には円高があったが、現在では円高は修正されて円安地合いが継続し、企業の価格設定行動は明らかに変化している。むろん、景気回復の持続が前提であり、商品市況のさらなる下落は織り込まれていないが、生鮮食品を除くコアCPIは夏場に原油安の影響で前年比マイナスに陥るとしても、秋以降は徐々に上昇していくと見込まれる。

以上のように考えると、今夏は日銀絡みでの波乱をさほど心配する必要はなさそうだ。むしろ強く意識すべきは政治リスクだろう。16日に安保法案は強行採決で衆院を通過したが、日本経済新聞社とテレビ東京による24―26日の世論調査では安倍政権の支持率は初めて40%を割り、不支持率を下回った。

安保法案は27日から参院で審議入りしたが、そのほかにも複数の難題がある。28日からは環太平洋連携協定(TPP)交渉の大筋合意に向けた閣僚会合が始まる。また、早ければ8月10日にも川内原発の再稼働、8月前半には安倍首相による戦後70年談話発表が控えており、内閣支持率にいかなる影響を与えるか注意が必要だ。

加えて、8月17日発表の4―6月期実質GDPは、輸出の下振れと消費の弱さを主因にマイナス成長が見込まれる。今週末発表の6月分指標次第で、成長率予想のマイナス幅が2%台まで広がる可能性は十分にある。そうなれば、経済最優先のアベノミクスにとっては大きな逆風となろう。

経済活動の弱まりと支持率低下が重なれば、日本株を保有する海外投資家がいったんポジション調整に動くことになるのではないか。

<米利上げ織り込みの最終章>

最後に昨夏の原油急落から1年を経て、世界経済に与えた影響を振り返ると、当初想定ほど原油輸入国の交易条件の改善、景気のプラス面が大きく出ていない。その一方で米国エネルギー産業の痛手とその悪影響の波及、産油国の景気下振れ、物価上昇率の鈍化(中央銀行のインフレ目標達成に厳しさが増す)というマイナス面が想定以上に大きく感じられた。

そう考えると、原油安が止まらなければ、世界経済全体へのマイナス面、中央銀行の緩和策長期化が意識されやすいだろう。また、中国経済の弱さを反映したアジア諸国の弱さは、日本の輸出にも悪影響を与え、日本経済の下振れリスクにもつながる。当然ながら、日銀の追加緩和観測もくすぶり続けるだろう。それでも昨年との相違点は、ここからの原油価格の下落幅は相対的に大きくはならないと見込まれていることだ。

一方で足元の金下落のスピード感は、2013年春の金暴落を思い出させる。当時、暴落の引き金を引いたのは米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録であり、量的緩和の縮小を支持する意見が増えたことだった。

それまでドルの代替通貨、インフレヘッジとして買われてきた金から大量の資金が流出し、ドルや株にシフトした。当時、商品ファンドの撤退や閉鎖の話が市場を駆け巡り、「グレートローテーション」という言葉が流行ったのは記憶に新しい。

2013年春が米利上げの序曲なら、今回は米利上げ織り込みの最終章と、筆者には思える。しかし、米利上げの最終局面にしては、米10年債は27日時点で2.3%割れと低い水準だ。8月相場に波乱があるとすれば、米10年債のフェアバリュー模索の動きではないだろうか。

仮に9月利上げの後ずれ観測が強まるなら、再び金利低下を試す動きとなり、金下落の一服が見込まれる。一方で、9月利上げを織り込むなら、米10年債が2%台後半を目指す動きとなってもおかしくない。

筆者はFRBが安全運転を望むなら、9月に25ベーシスポイント(bp)の利上げを開始し、3カ月ごとに25bpペースで利上げを続けていくのがベストシナリオではないかと考えている。

*岩下真理氏は、SMBCフレンド証券のチーフマーケットエコノミスト。三井住友銀行の市場部門で15年間、日本経済、円金利担当のエコノミストを経験。2006年1月から証券会社に出向。大和証券SMBC、SMBC日興証券を経て、13年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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