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コラム:黒田総裁は「量」重視派のけん制に動くか=村田雅志氏
2017年5月12日 / 09:18 / 6ヶ月後

コラム:黒田総裁は「量」重視派のけん制に動くか=村田雅志氏

[東京 12日] - 黒田東彦日銀総裁は、金融政策における「量」「質」「金利」の3つの次元のうち、「金利」をより重視する意向を固めたようだ。同総裁は今後も、2%物価目標の達成を目指し、金利を通じた金融緩和を継続することになるのだろうが、これまで蜜月の関係とされていた「量」を重視する政策委員に対しては、より慎重な対応が必要になるかもしれない。

10日の衆院財務金融委員会では、黒田総裁と民進党の前原誠司議員との間で興味深い質疑応答がなされた。黒田総裁は、前原議員からの質問に対し、現在の金融政策における国債買い入れ額やマネタリーベースの増加額は内生的に決まるものであり、操作目標はあくまでも長短金利であると説明。日銀による国債買い入れの増加ペースは、直近では年換算で60兆円前後になっているとの認識を示し、あくまでも操作目標は長短金利であると繰り返した。

また、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を強化し、オーバーシュート型コミットメントによる量的拡大を縮小することは技術的に可能なのかとの同議員の質問に対し、黒田総裁は一般論的には可能だと思うと発言。オーバーシュート型コミットメントは、実際の物価上昇率が2%を超えるまで量的緩和を続けるということで、かつてのようにマネタリーベースを80兆円増やすといったターゲットが設定されているわけではないとした。

現時点ではイールドカーブ・コントロールとオーバーシュート型コミットメントの組み合わせを具体的にどのように変えていくかを考えているわけではないとしながらも、理論的にはさまざまな組み合わせが考え得ると答弁した。

続いて前原議員が、2%物価目標が達成される局面で日銀が数十兆円単位で保有長期国債の評価損が計上されるとの認識を共有することができるかと質問すると、黒田総裁は機械的な計算としながらも長期金利が一気に1%上昇したと仮定すると評価損は23兆円くらいに達するとの試算を紹介した。

さらに、金融緩和が終了に向かう際(出口)において日銀がどのような収益状態に陥るかを、いくつかのシナリオ(シミュレーション)を使って説明すべきではないかと前原議員が質問すると、黒田総裁は、出口における日銀の収益状態は、経済・金利・物価などの情勢や、出口に向かう方法(出口戦略)にもよるので、かえって議論を混乱させる恐れがあるとしながらも、今後、慎重に検討したいと答弁した。

黒田総裁は、これまで一貫して、2%物価目標の達成のためには、需給ギャップの改善と予想物価上昇率の高まりが必要であると指摘。昨年1月にマイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入を決めた際にも、原油価格の下落を主因に予想物価上昇率が低下する恐れを指摘した。現在においても2%物価目標が達成できないのは、予想物価上昇率が弱含んでいるためと説明しており、同総裁は予想物価上昇率を重視したままと考えられる。

その黒田総裁は、4月27日の金融政策決定会合後の会見で、量的・質的緩和は予想物価上昇率に対してプラスの影響はあると思うとしながらも、「バランスシートの拡大が直接的に予想物価上昇率であれ、将来の金利であれ、為替レートであれ、そういうものに影響するかについては、経済学者の間でもいろいろな議論がある」と前置きした。

そして、基本的には名目金利を大幅に引き下げて、その結果、実質金利を引き下げるのが現在の金融政策の主要チャネルであると説明した。素直に解釈すれば、黒田総裁は、予想物価上昇率の引き上げのためには、量的緩和よりも金利引き下げの方が効果的と考えていると推察される。

<出口議論が「量」重視派を刺激する可能性>

ただ、日銀の政策委員の中には、「量」による金融緩和を重視するメンバーが複数存在するといわれている。操作目標が長短金利となった現在においても、金融政策決定会合の声明文で、長期国債の買い入れ額については、「概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめど」とするとの表現が残されているのは、こうした量重視メンバーに配慮するためとの見方もある。

しかし上述したように、黒田総裁は直近の国債買い入れペースは年60兆円くらいであり、長期金利の上昇による日銀の評価損が23兆円くらいと、具体的な数字をあげて国債買い入れペースの鈍化や、金利上昇によって日銀が評価損を被る可能性を認めた。これは黒田総裁が、従来と違い、量重視メンバーへの配慮や遠慮を控えようとしている表れと解釈できなくもない。

これまで出口戦略のあり方を議論するのは時期尚早との認識を繰り返していた黒田総裁が、出口戦略について慎重に検討したいと明言した点も注目される。日銀がバランスシートを大きく拡大させるほど、出口が難しくなるのは自明のこと。出口戦略について日銀内で検討することは、量重視メンバーへのけん制に働くかもしれない。

仮に黒田総裁が量的緩和を後退させたとしても、それを理由に為替市場で円買いの動きが強まることはないだろう。市場関係者の多くが指摘するように、為替レートは金利差の影響を強く受ける。(黒田総裁も認めたように)日銀は今年度に入って国債買い入れ額を縮小させているが、ドル円は4月17日の安値(108円台前半)から113円台後半に上昇している。

もちろん黒田総裁としても、景気が堅調に推移し、為替市場では円高の動きが一服する中、量的緩和の後退を一気に進めるつもりはなく、当面は現在の金融政策を継続する形で量重視メンバーへの配慮を続けるだろう。

これまで金融政策決定会合で反対票を投じ続けてきた2人の委員は7月下旬に退任する。新しく任命される委員のうち1人は、金融緩和において量を重視しているといわれており、量重視メンバーは増えることになる。黒田総裁(そして日銀の事務方)が、9月以降の金融政策決定会合では全会一致での政策決定を望んでいるのであれば、量重視メンバーを不要に刺激する必要はない。

ただ、地政学リスクの高まりなどで金融緩和の強化が必要となれば、日銀は金利をより重視した形で金融緩和の強化を図ると予想される。現在はゼロ%程度とした10年債利回りをマイナス圏に引き下げることや、マイナス金利下での貸出条件付き資金供給オペ(日銀版TLTRO)の導入などが考えられる。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。近著に「人民元切り下げ:次のバブルが迫る」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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