Reuters logo
コラム:消費増税延期は不要か、景気悲観論に誤り=村田雅志氏
2016年5月20日 / 08:22 / 1年後

コラム:消費増税延期は不要か、景気悲観論に誤り=村田雅志氏

[東京 20日] - 1─3月期実質国内総生産(GDP)1次速報値は、日本の潜在成長率から考えれば、まずまずの結果。メディアの多くは、2017年4月に予定されている消費税率の10%への引き上げが再度延期される見込みと報じているが、足元の景気が再延期の理由になるとは言い難い。

また、仮に消費増税の実施が表明されたとしても、ドル円は日米金利差の拡大を背景に底堅い展開が続くと予想される。

<潜在成長率に照らせば1―3月期は上出来>

1─3月期GDP1次速報値は前期比年率プラス1.7%と、市場予想を大きく上回った。個人消費が前期比プラス0.5%と増加に転じ、政府最終消費は同プラス0.7%と2期連続で高い伸び。公共投資は事前予想に反し下げ止まり、純輸出はGDP成長率を0.2%押し上げ。結果として、実質GDPは昨年10─12月期の落ち込みをほぼ取り戻した。

興味深いのは、GDP成長率の結果そのものよりも、エコノミストを中心とした識者と呼ばれる方々の反応だ。彼らの多くは、1─3月期GDPが市場予想を上回る伸びを示したにもかかわらず弱かったとの評価を下している。閏(うるう)年により個人消費や政府消費が押し上げられたほか、設備投資が減少に転じ、輸入は内需低迷を背景に減少したからだという。

彼らの主張は一見もっともらしい。日本のGDP統計では、季節調整に際し、うるう年による日数増が調整されない。現に過去のうるう年の結果を平均すると、うるう年の1─3月期はGDP成長率を前期比年率で1.0―1.2%程度押し上げ、4─6月期は同じ幅で押し下げられる傾向にある。

この結果をそのまま当てはめれば、今年1─3月期のGDP成長率は本来、前期比年率プラス0.5%程度と、前期の減少分(同マイナス1.7%)を取り戻せなかったことになる。また、一部エコノミストは、冬場の天候不順による悪影響が剥落したことで個人消費が実勢以上に押し上げられたと指摘している。

しかし、うるう年効果や天候不順の反動は、GDP統計の発表前から分かっていたことで、市場予想にも反映されているはず。1─3月期GDP成長率が事前予想を上回る伸びとなったことを無視し、高い成長率となった理由として、うるう年や天候不順の反動を指摘する姿勢に公正さを感じることは難しい。市場予想に近い伸びを予想として示していたエコノミストは、1─3月期GDPが予想していた以上に強かったと素直に認めるべきだろう。

日本の潜在成長率の低さと併せて考えると、マクロ経済の枠組みを思考の源泉とするエコノミストと称する方々の多くが、1─3月期GDP成長率を弱いと評価するのも奇異である。日本の潜在成長率は、日銀の推計によると昨年度下半期で0.2%、内閣府の推計によると昨年10─12月期で0.4%となっている。

潜在成長率の推計結果は、稼働率や生産性などに関する想定によって変わる可能性があるが、日本の潜在成長率がゼロから1%の間の範囲にあると広く共有されているのも事実である。上述したように1─3月期GDP成長率は、うるう年効果を除いても前期比年率プラス0.5%程度と潜在成長率並みの結果。それにもかかわらず、うるう年効果を除いた成長率が1%を下回っていることを理由に1─3月期GDPが弱かったと評価するエコノミストの多くは、潜在成長率の水準を無視している可能性がある。

もしかしたら彼らの一部は、潜在成長率の水準をあえて無視し、過去の経験や自身の感覚をもとに日本のGDP成長率は1%超が求められる、と考えているのかもしれない。その場合、日銀による積極的な金融緩和が続いている以上、潜在成長率を上回る成長率を実現するべく大規模な財政出動を肯定するのが自然の考えだ。

しかし、エコノミストらの中には、消費増税の再延期や、いわゆるヘリコプターマネーと称される財政拡大策を否定する方も散見される。潜在成長率以上の成長を求める一方で、財政支出の大規模拡大を否定する方々から整合的な見解を求めることを期待するのは難しいのかもしれない。

<4―6月期の景気減速リスクは低い>

世界景気の先行き不透明感が強まっていることもあり、4─6月期の国内景気を心配する声もあるが、現時点では潜在成長率を下回るほど景気が減速するリスクは低いと思われる。個人消費は、うるう年効果の反動減が生ずるため4─6月期に弱い伸びになるとの指摘もあるが、反動減が限定的となる可能性も十分ある。

1─3月期の実質雇用者報酬は前期比プラス1.3%と6年ぶりの高い伸びを記録。4月、5月に雇用所得環境が大きく悪化したとのミクロ情報は確認されておらず、4─6月期の雇用者報酬は堅調に拡大するとみていいだろう。昨年後半から伸び悩み続けている個人消費が、雇用者報酬の拡大を背景に持ち直すことも期待できる。

設備投資は1─3月期に前期比マイナス1.4%となったが、2次速報値で上方修正される可能性が出てきた。3月の機械受注(民需除く船舶・電力)は前月比プラス5.5%と、市場予想に反しプラス転換し、1─3月期はプラス6.7%と13年4─6月期以来の高い伸びに達した。この結果、6月8日に発表される1─3月期GDP2次速報値で、設備投資が上方修正される可能性が高まっており、GDP全体の成長率は2%に近づくことも期待できる。

4─6月期の機械受注は、前期の高い伸びの反動で減少するとみられるが、各種設備投資計画では、今年度の設備投資の大幅減が示されておらず、今年の設備投資は横ばい圏での推移が見込まれる。世界景気の先行き懸念が一層強まり、設備投資計画が下方修正される可能性は否定できないものの、よほどの対外ショックが生じない限り、4─6月期の設備投資がGDP成長率を大きく下押しするとは考えにくい。

外需も底割れは回避されそうだ。アトランタ連銀の経済モデル「GDPナウ」によると、5月17日時点の4─6月期の米成長率見通しはプラス2.5%と前期から反発する見込み。ドイツと中国の両国景気は減速が続く見込みだが、米国景気が持ち直すのであれば、純輸出が日本の成長率を潜在成長率以下に押し下げることはないだろう。4─6月期GDP成長率も1─3月期と同様に潜在成長率並みの成長を確保すると予想される。

仮に安倍政権が、うるう年効果を除いても潜在成長率並みの成長を実現した1─3月期の景気を弱い結果だったなどと断じ、消費増税の再延期を決定するとすれば、それは自然体(潜在成長率並み)の成長率では消費増税が見送られ続けることを国民に示すことと同義となる。安倍政権が続いている間に消費増税が実施されることはないと予想する見方も増えるだろう。

<増税実施でも円買いの動きは一時的に>

意図的に財政支出を大きく拡大させ、実際の成長率を潜在成長率以上にすることは技術的に可能だろうが、財政支出の拡大を止めれば、実際の成長率は潜在成長率並みに鈍化するか、それまでの反動で潜在成長率を下回る恐れが強まる。

安倍政権はアベノミクス第2の矢として財政支出を大きく拡大させ、成長率は13年に1.4%と潜在成長率を上回る伸びを記録したが、消費税率を5%から8%に引き上げた14年にゼロ成長となったのは分かりやすい一例である。

逆に市場の期待に反する形で安倍政権が予定通りに消費増税に踏み切れば、ほとんどの市場関係者が予想するように、13―14年の時と同じパターンで景気は消費増税後に成長率が鈍化すると予想される。消費増税と合わせる形でインフラ整備といった名目で財政支出を拡大し、消費増税の景気への悪影響を中立化させることも考えられるが、この場合、消費増税による財政改善効果はゼロに近づき、安倍政権が掲げている20年までのプライマリーバランスの黒字化という目標達成の可能性もゼロに近づく。

消費増税の再延期に関する判断は政治的なものであるから、安倍首相がどのような決断を下すかは、経済情勢だけで判断することは難しい。ただ、消費増税の再延期の有無が示されることで、安倍政権の経済・財政政策の今後の見通しは、これまで以上にクリアになるだろう。消費増税の再延期は、安倍政権の景気重視姿勢継続とプライマリーバランスの黒字化目標の事実上の取り下げを意味する。逆に予定通り消費増税が実施されれば、安倍政権は財政改善に軸足を移したことになる。

消費増税が来年4月に実施されれば、景気の先行き懸念から日本株が下落し、円買いの動きが強まるとの見方がある。しかし、今年4月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨では、米経済指標が4─6月期の成長加速を示し、インフレ率と雇用で前進がみられれば、6月に利上げする公算が大きいとの認識が示された。消費増税の実施で円債利回りの低下圧力が強まることもあり、日米金利差は今後、拡大傾向を続ける展開が予想される。消費増税の実施が決まったとしても円買いの動きは一時的だろう。ドル円は米利上げが視野に入った以上、下値の堅い展開が予想される。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below