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コラム:ドル100円割れも視野、英国民投票が鍵=村田雅志氏
June 16, 2016 / 9:51 AM / in 2 years

コラム:ドル100円割れも視野、英国民投票が鍵=村田雅志氏

[東京 16日] - 米連邦準備理事会(FRB)は日本時間16日未明、連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を市場予想通り0.25―0.50%に据え置いた。前回(4月)会合で25ベーシスポイント(bp)の利上げを主張したカンザスシティー連銀のジョージ総裁も今回は金利据え置きに賛成票を投じ、決定は全会一致となった。

声明では、前回声明で「減速した模様」とされた経済活動については、「拡大ペースが上向いた模様」と上方修正。一方、労働市場については、「さらに改善」とされた前回声明から「改善ペースは鈍化した」と下方修正された。インフレと長期インフレ期待に関する判断は前回声明とほぼ同じだった。

同時に発表されたFF金利見通し(いわゆるドットプロット)では、2016年末の中央値は0.875%(年2回の利上げ)と、前回3月時点から変わらず。しかし、前回は1人しかいなかった0.675%(年1回利上げ)の回答は6人に急増し、17年末、18年末の中央値も、前回から0.25%、0.50%それぞれ引き下げられた。

イエレンFRB議長は、FOMC後の会見で、第2四半期の経済指標は、米景気がかなり持ち直していることを示しており、緩やかなペースで拡大するとの認識を維持。労働市場の改善ペースは著しく減速したが、1―2カ月の指標に過剰反応すべきではないとも指摘した。

また、同議長は、利上げ(金利調整)の可能性はどの会合にもあり、7月FOMCでの利上げは起こり得ると明言。近い将来の利上げ再開に含みを持たせた。

<日米政策格差のドル高予想が説得力を失う可能性は>

ドットプロットは、前回(3月時点)見通しに比べ、ややハト派寄りになったと言えるが、声明文は前回(4月)会合とほぼ同じ。イエレン議長の景気や労働市場に対する見方も変わっておらず、7月も含め毎会合で利上げの可能性があることを指摘した点も前回会合と変わっていない。

前回会合と大きく異なる点は、イエレン議長が6月23日に予定されている英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票(以下、英国民投票)の行方に懸念を示したことだ。同議長は、今回の会合で英国民投票を考慮に入れて金利据え置きを決めたと明言。英国民投票で英国のEU離脱が決まれば、米経済見通しに影響を及ぼす可能性があると述べた。

英国民投票の結果を的確に予測することは現実には不可能とはいえ、ここ数日間に公表された一連の世論調査では、EU離脱支持がEU残留支持を上回る傾向となった。イエレン議長が英国民投票への懸念を示したことで、FRBが利上げを年内見送る可能性は、(英国のEU離脱を想定しない上で回答されたと推察される)ドットプロットで示されている以上に高まったといえる。

イエレン議長が、英国民投票というFRBが主体的に関与できないイベントと、米経済の見通し(ひいては米金融政策の今後)とを結びつけた事実も重い。これは1月のFOMCが、(中国経済や原油安を示唆する)「金融・国際情勢(financial and international developments)」を経済情勢の評価を検討する際の判断材料として指摘したことと同じで、たとえ米国景気や労働市場が持ち直したとしても、外部環境を理由に利上げが先送りされる可能性が残ることになる。

米国の利上げが当面ないとの確信が市場で広がれば、FRBが利上げを続ける一方で、日銀が金融緩和を続けるという金融政策の違い(ダイバージェンス)も説得力を失う。円は割安感が強いとの指摘が続くなか、英国のEU離脱による直接的な経済被害が日本は小さいとの見方も加われば、円買いが続くのは避け難い。

ドル円は、イエレン議長の会見中に105円台半ば近辺から106円ちょうど近辺に反発したが、東京市場に入り再び105円台半ば近辺に下落したのも不思議ではない。

<英離脱で100円割れも、残留なら108円へ反発か>

日銀は、FOMCの結果発表の約9時間後、金融政策決定会合で金融政策の現状維持を賛成多数で決定した。消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)の先行きについては、当面、小幅のマイナスないしゼロ%程度で推移するとみられるとの認識に下方修正したが、物価の基調は着実に高まり、2%に向けて上昇率を高めていくとの認識は維持。景気は緩やかな回復を続けているとの判断も据え置いた。

金融政策の現状維持が報じられると、ドル円は、金融政策決定会合の結果発表直前に節目とされていた105円台半ばを割り込んだこともあって104円台半ばに急落。その後、104円台後半でしばらくもみ合ったが、黒田東彦日銀総裁の会見前に2014年8月29日以来となる104円割れ。黒田総裁の会見が始まると、ドル円は103円台半ばまで下落した。

こうした円高の動きに歯止めをかけたのは、会見での黒田総裁のコメントだった。同総裁は、103円台まで下落したドル円に対する所見を問う質問に対し、円高が進んでいることは日本経済や将来の物価上昇率に対して好ましくない影響を与える可能性があると指摘。中央銀行総裁として為替水準に対し具体的な言及が難しいという制約があるなかで、足元の円高の動きをけん制した。

また、イエレン議長が英国のEU離脱に関し端的な回答をしたが、日銀は今回の会合でEU離脱が議論されたのかとの質問に対し、黒田総裁は、リスク要因について様々な議論が行われたとしながらも、いずれ議事要旨などの形で公表されるので、それを見ればいい、と英国のEU離脱の議論について具体的な言及を回避。イエレン議長と異なり、市場関係者に円買い材料を与えなかった。ドル円は黒田総裁の一連の発言後、104円ちょうど近辺に反発した。

黒田総裁の気の利いた発言で円買いの動きは一服したが、これでドル円が下げ止まるとは考えにくい。英国のEU離脱を懸念する動きは、英国民投票の大勢が判明すると見込まれる日本時間24日午前まで続くだろう。

市場関係者の多くが指摘するように、仮に英国民投票でEU離脱が賛成多数となれば、市場のリスク回避姿勢がさらに強まり、円買いの動きが加速する可能性が高い。英国のEU離脱の可能性が濃厚となった際のドル円の水準を正確に言い当てることは非常に難しいが、一部市場関係者が指摘するように100円割れも視野に入れておくべきだろう。

一方、英国民投票で英国のEU残留が賛成多数になった場合、円買いポジションを解消する動きが集中し、ドル円は大きく反発すると予想される。ただ、ドル円は108円ちょうど近辺がレジスタンスとなる可能性が高い。英国のEU離脱がなくなったからといって、米国の利上げ再開が決まるわけではないからだ。

米国の利上げ再開には、米労働市場の改善が続いていることが確認される必要がある。7月8日に発表される6月の米雇用統計の結果が判明するまでドル買いの動きが強まると期待することは難しい。また、6月の米雇用統計で非農業部門雇用者数が大きく反発し、5月以前のデータが上方修正されなければ、7月だけでなく9月のFOMCでの利上げ再開を疑問視する声も強まるだろう。ドル円が上昇トレンドを取り戻すには、まだしばらく時間がかかりそうだ。

*村田雅志氏は、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの通貨ストラテジスト。三和総合研究所、GCIキャピタルを経て2010年より現職。著書に「名門外資系アナリストが実践している為替のルール」(東洋経済新報社)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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