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コラム:ドル円「4つのコンセンサス」を疑え=内田稔氏
2017年10月25日 / 08:40 / 22日後

コラム:ドル円「4つのコンセンサス」を疑え=内田稔氏

[東京 25日] - 事前のコンセンサスが当てにならなかった例は枚挙にいとまがない。昨年で言えば、英国の欧州連合(EU)離脱を問うた国民投票や米大統領選がまさにそうだった。

特に、後者について言えば、トランプ氏勝利との結果に加え、「トランプ大統領なら円高」とのコンセンサスさえ、見事に裏切られた。そこで、以下4つの注目材料に関し、コンセンサスの落とし穴を探っておこう

<FRB議長人事巡るドル高コンセンサス>

まず、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の後任人事だ。本稿執筆時点(10月25日)では、タカ派とされるスタンフォード大学のテイラー教授が先頭に立っている模様だ。同氏が議長に指名されれば、来年以降のFRBによる利上げペースの加速が意識され、当初はドル高が進むとの見立てがコンセンサスだ。

しかし、これは、好調な企業業績と漸進的な正常化シナリオによって支えられている米国の株式相場に対する重しとなりかねない。円は、投資家の不安心理の度合いを示すVIX指数との正の相関度合いが主要通貨の中で最も高いため、次第にドル安円高が顕在化する可能性が高い。

イエレン議長の再任やパウエルFRB理事の昇格ならば、両人ともハト派とみられているだけに、当初はドル安円高を招くだろうが、株式相場が支えられ、VIX指数の低下につながる場合はドル高円安圧力が加わるだろう。もっとも、このパターンは、現状路線の延長にすぎず、ドル金利上昇も抑制されるとみられ、ドル高円安にも限界があろう。

<リパトリ減税でドル高は本当か>

次に、米国の税制改革への期待だ。一時は実現性が危ぶまれたため、企業や個人への減税策がまとまれば、米国の経済成長やインフレを警戒するFRBの利上げペースの加速が連想され、ドル高を招こう。ただ、法案化にはトランプ政権が保守強硬派と妥協することが必須だ。減税規模のみならず、法案化の不確実性は高い。

また、税制改革の中で、為替市場において注目されるリパトリ減税(企業の海外留保利益に対する本国還流減税)は、今のところ過去の利益に関し、1回に限って、税率を大幅に引き下げる方向となっている。同様の時限立法、本国投資法が施行された2005年に大幅なドル高が進んだ経緯から、今回もドル高を招くというのがコンセンサスだ。

しかし、米企業の直接投資残高の半分を占めるのはユーロ圏と英国だが、そのユーロやポンドは2014年以降のドル全面高の局面で、対ドルで2―3割も下落した。普通に考えれば、グローバルにビジネスを展開する米企業の財務担当者なら、海外利益の多くをすでにドル転済みだろう。

その点、ドル独歩安が3年程度続いていた2005年当時は、海外利益の多くがもっぱら現地通貨のまま滞留していたと考えられ、リパトリはおのずとドル買いとドル高を招いたと言える。つまり、今次局面では、仮にリパトリが活発化しても、為替市場への影響は限定的ではないか。

<「朝鮮半島有事=リスク回避の円買い」の真偽>

一方、朝鮮半島有事の場面で、「リスク回避の円買い」が生じるとのコンセンサスはどうだろうか。東日本大震災後も、翌週に83円台から76円台までドル円が急落した通り、危機の所在といった地理的な要件と「リスク回避の円買い」にあまり関係性はみられない。

こうした場面では、輸出代金、受け取り配当金などの外貨建て債権や、証券投資など外貨建て資産に対する円高リスク回避を狙い、居住者(日本人)が活発に円買いヘッジ取引を実施。そこに、円ショート解消(円の買い戻し)や、ヘッジ付き日本株投資に関連する海外勢の円買いも加わり、円高が加速すると考えられる。

とはいえ、大ざっぱにとらえると、日本人の円買い規模は、最大でも日本の昨年の経常黒字約20兆円に、外貨準備を除く対外純資産残高約207兆円(2016年末)を加えた227兆円。この中には、すでにヘッジ済みのものや、為替ヘッジにそぐわない直接投資残高(約159兆円)も含まれるため、実際には100兆円を超えるとは考えにくい。

これに対し、日本の非金融民間法人企業と家計が抱える現預金は、約1199兆円だ(6月末)。朝鮮半島有事を受け、日本の企業や家計が、現預金の1割を外貨両替するだけで、約120兆円の円売りが出る計算となり、先の円買い規模を上回る。つまり、朝鮮半島有事の際、その深刻度合いによっては、「リスク回避の円売り」が生じる可能性も念頭に置くべきであり、その鍵を握るのは日本人自身だろう。

加えて、朝鮮半島有事を受け、欧米金融機関が日本や韓国など対東アジア与信を絞ると、これも円安を招きかねない。日銀の異次元緩和長期化により、日本では恒常的に円を担保とした外貨(ドル)調達需要が強く、対東アジア与信の圧縮は、本邦勢のドル調達コスト高騰を招く。昨秋みられた通り、ドル調達コストの上昇は、次第にスポット市場でのドル買い円売りにも染み出しやすい。朝鮮半島有事を「リスク回避の円買い」と決め込むと危険かもしれない。

<金融政策格差はドル円上昇の決定打になるか>

最後に、日米の金融政策の格差や名目金利差拡大が、緩やかなドル高円安を招くとのコンセンサスはどうだろうか。第2次安倍政権発足後の過去4年間、ドル円と日米名目金利差の相関係数は、2年国債でみても10年国債でみてもせいぜい0.5程度だ。相応の水準とはいえ、0.9程度を示す実質金利差との相関係数に比べ、大幅に見劣りする。これは、米国の名目金利はもちろん、日本の期待インフレも重視しなければならないことを示している。

実際、金融危機後、初めてFRBが利上げに踏み切った2015年12月、122円付近で推移していたドル円は、その後、3度の追加利上げを経た今でも、当時よりドル安円高水準に位置している。米国は緩やかな利上げ継続姿勢をまだ維持しようが、保有資産縮小も加速する中、2018年に入ると、利上げへのハードルは次第に高まろう。

日本でも、良好な景況感、逼迫(ひっぱく)する労働市場、2014年以来の伸びを示す企業物価指数を横目に、企業の物価見通しはかえって慎重化。実質金利には上昇圧力が加わっており、円安への歯止めとなっている。日米の金融政策の格差は、ドル円上昇を招く決定打にはならないだろう。

以上を踏まえると、ドル高円安材料とみられる材料の多くは、解釈が次第に変化したり、期待された効果を生まずに失望に変わる可能性が高い。年内に関して言えば、ドル円は底堅さを維持しながら、115円に絡む展開も十分に見込まれる。ただ、ドル円の続伸は難しいと見込まれ、その後はドル安円高シナリオが現実味を増すとみる。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から16年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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