April 25, 2018 / 7:36 AM / 3 months ago

コラム:円安予想に水を差す外貨準備の「ドル人気低下」=内田稔氏

内田稔 三菱UFJ銀行 チーフアナリスト

 4月25日、三菱UFJ銀行チーフアナリストの内田稔氏は、 ドル円は目先、戻り高値を試す可能性が高いが、世界外貨準備に占めるシェア低下に象徴されるドル人気低下が相場の圧迫要因になり得ると指摘。写真はドル紙幣、サラエボで2月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 25日] - 年初からのドル円相場の値動きは、多くのことを改めて示唆している。まず、日米金融政策の格差や金利差が、必ずしも一貫して信頼できる羅針盤とはならない点だ。特に米長期金利の上昇に関して言えば、その程度やペース次第で市場の不安定化を誘い、かえってドル円を押し下げた。

次に、トランプ米政権の保護主義への傾斜も、市場心理の悪化を招き、ドル円への下押しとなった。本来、米国の貿易赤字縮小はドル高要因だが、トランプ政権の対日圧力は予想以上に強い。これが1980年代半ば以降の日米貿易摩擦やドル円下落局面を彷彿(ほうふつ)させている。

一方、104円台からの切り返しも早く、底堅さも確認された格好だ。やはり国内の長引く低金利にあぶり出される対外証券投資意欲は依然として旺盛と見受けられる。直接投資と合わせた本邦勢の対外投資ニーズは、今後ともドル円下落へのブレーキ役として期待されよう。

このほか、上昇、下落いずれの場面でも、ボラティリティー・インデックス(VIX指数)の動きに代表される市場センチメントがドル円を大きく左右した。米長期金利が急上昇し、世界的に株式相場が急落した2月、主要通貨の中で円が最強となった。対照的に、4月に入ってVIX指数が低下すると、円はスイスフランと並んで、さえない値動きをたどっているといった具合だ。

足元では、すでに投機筋による円ショートが解消し、本邦勢の円買い需要も一服している頃合いだろう。しばらくドル円への下押し圧力が和らぐ一方で、リスクオフの緩和と対外投資の活発化により、ドル円は戻り高値を試す可能性が高く、110円大台の回復も視界に入ろう。

<トランプ政策がドル人気低下を助長>

とはいえ、その持続性も疑わしい。なぜなら、本邦勢の対外投資は、全てが円投を伴うわけではない上、経常黒字がかさむ時期はその威力が衰える。実際、マイナス金利政策が導入された2016年以降、ドル円が持続的に上昇した局面はまれだ。実質実効ベースでは、昨年3―4%の円安が進んだが、過去20年平均よりも25%程度円安と指摘した米財務省の為替報告書が今後、円続落への心理的な抵抗となってこよう。

さらに、VIX指数の上昇要因は、米国の長期金利上昇に始まり、地政学リスクやトランプ政権の保護主義台頭など実にさまざまだ。いついかなる材料が再浮上しないとも限らず、このままリスクオン相場が継続するとみるのは楽観的に過ぎよう。結局、ドル円は戻り高値を確認した後、次第に上値が重くなろう。その後、上下双方とも決め手を欠き、再び動意に乏しい相場へと逆戻りする可能性が高い。

そうした中で、筆者は相対的なドル人気の低下に注意が必要だとみている。国際通貨基金(IMF)による各国外貨準備の通貨構成に関する四半期統計(COFER)をみると、約10兆ドルに上る世界外貨準備総額(Allocated Reserves)に占めるドルの比率は昨年9月時点の63.5%から12月末時点の62.7%へと低下。この間の為替相場変動の影響を考慮しても、やはりドルの比率は落ちている。

昨年第4・四半期と言えば、米国の対外金利差が拡大したものの、ドル高が抑制されたり、下落した時期だ。この通貨構成比の変化とドル相場は無縁ではない。代わりに上昇したのが円のほか、カナダドルやオーストラリアドルといったいわゆる資源国通貨、そして人民元だ。1990年代前半や金融危機前に指摘されたようなドルの信認が低下しているわけではないだろうが、今後とも通貨の多様化は進むとみられ、ドル相場への圧迫要因となろう。

厄介なのは、トランプ大統領の財政政策と通商政策がこの傾向に拍車をかけかねないことだ。米国では、物価上昇が意識されやすい上、減税などに伴う増発懸念、米連邦準備理事会(FRB)による再投資停止など、国債の需給悪化要因が多く、長期金利の上昇(米国債相場の下落)が警戒される。

その上、11月の米中間選挙が近づくにつれて、トランプ大統領の保護主義志向とともに、ドル安圧力が高まれば、既存の米国債投資家にとっては二重の痛手となる。2月分までの米財務省データをみる限り、こうした米国債を敬遠する動きは顕在化していないものの、警戒は怠れないだろう。

<ユーロ圏の動向次第ではドル人気再燃も>

むろん、逆に相対的なドル人気が再燃する可能性も当然ゼロではない。特に欧州中央銀行(ECB)による金融政策正常化機運が低下すれば、その蓋然(がいぜん)性が高まろう。

過去1年余りで、ユーロは対ドルでみて最大2割以上、実質実効ベースでも約9%も上昇した。水準として決してユーロが強過ぎるということではないにせよ、その変化に着目した際、経済への影響は無視できない。物価にも下押し圧力が加わり、正常化を進めづらくなる方向へと作用しよう。

一方のFRBは、利上げペースこそ今後の経済情勢次第だが、着実に正常化プロセスを進める意向を維持しており、両者のコントラストが浮き上がる可能性はある。実際、ユーロドル相場は、年初から何度か1.25ドル台を回復したが、その後は伸び悩み、足元では緩んでいる。

為替市場で最大の出来高を誇るこのユーロドルという土俵において、(ユーロ高)ドル安に歯止めがかかる場合、為替市場全体におけるドル安へのブレーキやドル高への転換点ともなり得る点に留意が必要だ。

筆者は、もともと2017年以降、ドルが緩やかな下落トレンドに入ったとみているが、ユーロ圏の経済情勢やECBによる金融政策正常化の進展は、ユーロのみならずドルやドル円を展望する上でも、極めて重要となってこよう。

内田稔 三菱UFJ銀行 チーフアナリスト(写真は筆者提供)

*内田稔氏は、三菱UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、一貫して外国為替業務に携わり、2012年より現職。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から17年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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