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コラム:ドル105円割れ前倒しも、カギ握る米経済=内田稔氏

[東京 14日] - 昨今の円高を、単なるリスク回避の結果とする見方はいまだに根強い。ただ、3月の相場を振り返れば、そうした見方が適切でないことは明らかだ。

 4月14日、 三菱東京UFJ銀行・チーフアナリストの内田稔氏は、日銀の金融緩和による円安効果は限定的であり、米経済の動向次第では1ドル=105円割れの時期が早まると予想。提供写真(2016年 ロイター)

なぜなら増産凍結合意への期待から、3月は原油先物相場が大幅に反発。米S&P500株価指数も連れ高となり、年初来の下げ幅を全て回復した。別名「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数は、昨年8月の中国人民元急落前の水準に低下し、何かと危機の起点とされる人民元も、対ドルでおおむね上昇傾向をたどった。

これだけリスクオンにも似た相場展開の中、ドル円相場の戻り高値は、114円台半ばまで。ドル円下落の背景は、利上げに慎重化した米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けたドル安の側面がある。ただ、主要通貨の中で、対ドルで最も上昇したのは円だ。つまり、ドル円急落のもう一方の主役は円高であり、それを強めたのは、日銀の金融緩和によって円安が進むという期待感やテーマが剥落したためだろう。

日本では、折からの経常黒字拡大や対外投資による円安効果の鈍化、期待インフレ率の低下といったファンダメンタルズ面での円高要因も併走しているため、円高基調が今後も続く可能性が高い。

<日銀追加緩和の円安効果が限られる訳>

そもそも、日銀の量的質的金融緩和(QQE)に、円を押し下げる効果はあるのだろうか。確かに、国際決済銀行(BIS)などが公表する一般的な円の名目実効相場のチャートをみれば、2012年9月ごろを頂点として、2015年半ばにかけ、ほぼ一貫して円安が進んだ構図となっている。

ただし、ドルの影響を排除するため、ドルを除く主要通貨を対象として算出すると、最も顕著に円安が進んだのは、第2次安倍政権発足前後からQQE開始前後までにおおむね限られており、実際のQQE(マネタリーベースの供給)開始以降は、ほぼ横ばい圏での推移となっている。

2014年10月末のサプライズ緩和を受け、当初こそ改めて円全面安が進んだが、それも1カ月足らずで収束し、その後、反発。そして、昨年半ば以降は、円がほぼ全面高となった経緯にある。このことが示唆するのは、そもそもQQEという政策に、円安効果が必ずしもあるわけではないということだ。

結局、QQEといった金融緩和で円安が進むかどうかのカギは、その政策によって経済が好転し、予想実質金利が低下。それが、円安、株高をもたらすという市場の期待に働きかけることができるかどうかにかかっている。逆に、大胆な金融緩和であっても、その政策効果に、各経済主体や市場が疑念を抱くと、円安を演出する効果が限られるどころか、これまでの反動や失望から円高を招く可能性が高まろう。

これが、マイナス金利政策導入後、かえって円高が進んだ背景と言える。各経済主体や市場参加者の多くは、長期金利がマイナス圏にまで沈んでも、この政策によって、日本経済が好転する道筋を思い描けていないのだろう。

実際、日銀が発表した貸出・預金動向速報でも、マイナス金利政策導入決定後の2月、3月とも、総貸出平残(銀行と信金合計)は前年比でみてそれぞれ2.2%増、2.0%増と1月の2.4%増から勢いが鈍化。期待インフレが一向に盛り上がらない動きと合わせ、予想実質金利の低下による政策波及効果を指摘する日銀の説明に、市場の期待感を突き動かす説得力はないようだ。

日銀は、いずれ追加緩和を講じる可能性が高いが、「日銀の緩和=円安」との期待感が大幅に後退した可能性が高く、円安効果は限定されよう。

<105円割れの時期、2017年より早まる可能性>

一昨年のQQE拡大以降、ドル高円安の持続性を疑問視してきた当方にとって、足元のドル安円高の動きに違和感はない。ただ、速度や値幅は予想以上だ。ここまで、105円割れは2017年以降とみてきたが、その時期が早まる可能性は高まったと言えよう。

前回2月にも指摘した通り、経済協力開発機構(OECD)の購買力平価や実質金利差による推計などに照らし、現在のドル円の適正水準をおよそ105―110円圏とみており、本来ならそろそろ止まってもいい頃合いだ。ただし、75円台から125円台に至る約50円もの上昇をみた後、反落してきた相場だけに、かなりのエネルギーを貯め込んでいる可能性が高く、オーバーシュートも想定せざるを得ないだろう。

相場が大きく変動するのは、期待が裏切られたり、前提が崩れ去る場合だ。その点、ここから改めてドル円がさらに下落するとすれば、それは相対的にみて好調と映る米経済の変調を市場が認知し始める場合だろう。

米アトランタ地区連銀が公表している国内総生産(GDP)成長率のリアルタイム推計「GDPナウ」によると、米国の第1四半期の実質GDPの伸びは、前期比年率換算で0.3%増にとどまる見通しとなっている(13日時点)。労働市場も、まずまずの数字を連発する雇用統計を横目に、幅広い指標から構成される労働市場情勢指数は、年初来3カ月続けてマイナスを記録。これは、2009年7月に今回の景気回復が始まってからでは初めてのことだ。

当方は、米国の景気後退といった極端に弱気の見方をしているわけではないが、米経済が成熟期に差し掛かり、徐々に勢いを失うと予想している。この傾向が一段と鮮明になれば、ドル105円割れの現実味が高まり、レンジはさらに切り下がろう。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から15年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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