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コラム:英国EU残留でもドル安円高基調は不変=内田稔氏

[東京 21日] - 英国の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が目前に迫ってきた。複数の世論調査によると残留派が盛り返しており、市場では安心感が広がっている。ただし、選挙は水ものであり、ふたを開けるまで予断を許さないだろう。

 6月21日、三菱東京UFJ銀行・チーフアナリストの内田稔氏は、英国民投票の結果にかかわらず、ドル円の下落トレンドは継続する可能性が高く、年内100円割れもあり得ると予想。提供写真(2016年 ロイター)

投資家の気が緩んでいるだけに、仮に離脱が決定的ともなれば、市場が混乱する可能性は高い。その場合、為替市場では、リスク回避の円買いと有事のドル買いに、ポンドやユーロといった欧州通貨の下落が合わさり、クロス円での円高に要注意だろう。特にポンドは、対ドルで1.35ドルを下回ると、1980年代半ばの1.05ドル台までこれといった下値目処を見出しにくい状況だ。

ただ、ポンドが急落する場面では、主要7カ国(G7)によるポンドを買い支えるための協調為替介入の可能性が浮上しよう。例えば、ユーロ安(ドル高)が進んだ2000年9月、G7はユーロを買い支える協調介入を実施。また、最近の例で言えば、東日本大震災後の円急騰の場面で行なわれた協調円売り介入が記憶に新しい。

このほか、結果的に未遂に終わったが、2008年4月のワシントンG7でも、史上最安値圏に沈んでいたドルを買い支える協調介入実施の合意が形成された節がある。このG7以降、ポールソン米財務長官(当時)らが、相次いでドル安阻止に向けた為替介入も辞さない姿勢を前面に打ち出していたからだ。

このように表向きでは、自由な変動相場制を志向するG7も、市場の屋台骨が揺らぎかねない場面ではその限りではない。いわゆるグローバルな金融危機(リーマンショック)や欧州債務危機などの教訓から、G7の危機対応能力は格段に高まったはずだ。

今回の英国民投票は、あらかじめ日程も決まっており、離脱が決まった場合であっても、市場の混乱を最小限に抑えることもできるのではないか。このため、残留決定ならもちろん、離脱となった場合も、当初の混乱を乗り切れば、市場では不確定要素が1つ取り除かれたことを好感し、緊張も和らごう。にわかにリスクオンともなれば、ドル円はいったん沈んだ後、多少の反発をみせるだろう。

<日米金融政策の格差縮小で年内100円割れも>

ただ、それでもドル円の下落トレンドは変わらないとみている。なぜなら、ドル安円高の本質は、こうしたリスク回避の円買いの他にも存在するからだ。このことは、今週に入り、世界的に株式相場が堅調に推移している中、依然として上値が重いドル円相場の動向をみても明らかだ。

かねて指摘している通り、こうしたドル安円高の原動力は、主に日本側に起因する「円高」とみている。金融緩和と円高是正によるデフレ脱却シナリオが大きく揺らいでおり、予想実質金利の高止まりが円高を招いてきた。ここに、経常収支の黒字も加わって、年初来の対ドル変化率をみると、円が突出して上昇している。

加えて、ここからは「ドル安」への警戒も一段と必要になりつつある。米国の利上げシナリオが、大きく揺らぎ始めているからだ。

5月分の米雇用統計は、低水準で推移する新規失業保険申請件数などに照らせば、さすがに一時的な落ち込みである可能性が高いが、非農業部門雇用者数を移動平均でみてもやはり低下傾向をたどっている。また、労働市場情勢指数(LMCI)も、年初来5カ月続けてマイナスが続いており、労働市場の改善ペースは鈍化しているとみた方がいいだろう。

特にLMCIは、景気との相関が高く、米経済の回復が変調をきたしていることに警戒が必要だ。連邦公開市場委員会(FOMC)は、最短で9月の利上げを狙っていくのだろうが、時間の経過とともに、利上げの環境が整うというより、やりにくさを増していく公算が大きい。もともと連続利上げは非現実的とみてきたが、次の利上げの行方すら、不確実性が高まったと言えよう。

むろん、米国の名目金利は今でも低いため、仮に利上げシナリオが揺らぐ場合も、金融緩和を織り込みにでもいかない限り、低下余地は限られる。ドル高こそ期待できなくなっても、ドル安までは心配しなくていいとの指摘はあるだろう。

ただし、ドルは、金融政策や金利水準での相対的な優位性を失うだけで、下げ圧力を受けやすいことを忘れてはならない。それは、ドルが経常収支赤字国通貨であるためだ。

これを確認するには、2004年から2006年にかけてのドルの名目実効相場の動きをみるといいだろう。2005年だけドル高となっているが、これは米企業による本国への送金に対する税負担軽減を図った時限立法、「本国投資法」を受けた一時的なレパトリによるものであって、金融政策に起因したドル高ではない。その時期を除くと、17回連続の利上げを実施していたにもかかわらず、ドルは全面安の様相を呈している。

当時、BRICSという造語が誕生した通り、世界経済は好況に沸き、多くの国が利上げを実施していた。つまり、米国の金融政策が、他国と比べて、特に際立っていたわけではないということだ。

翻って足もとの状況をみると、当面の間、欧州中央銀行(ECB)や日銀は緩和的なスタンスを維持しよう。ただ、FRBも利上げが難しいとなれば、金融政策の相対格差は格段に狭まる。そうなれば、円の実質金利の高止まりや日米間の経常収支の格差が、ドル円にずしりと重くのしかかるというわけだ。

この通り、今後のドル円相場を展望する上では、従来の円高要因に加え、ドル安の側面も一段と考慮する必要性が高まってきたと言える。これまでドル円の100円割れは来年以降と予想していたが、今ではそれが前倒しとなり、年内100円割れの可能性が高まったとみている。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から15年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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