February 26, 2018 / 7:49 AM / 4 months ago

コラム:トランプ大統領の「危険な為替政策」=内田稔氏

[東京 26日] - 今年11月に控える米中間選挙を前に、トランプ大統領の支持集めが加速する兆しがある。

トランプ政権は23日、在イスラエル米大使館を5月に現在のテルアビブからエルサレムに移転すると発表した。ペンス副大統領が1月のイスラエル訪問時に「2019年末まで」としていた目安に比べ、これは大幅な前倒しだ。一部では、米国民の25%を占めるキリスト教福音派へのアピールとも報じられている。

同様に、トランプ大統領は、貿易収支不均衡是正に向けた動きも本格化しつつある。今年1月、米国は16年ぶりにセーフガード(緊急輸入制限)を発動。太陽光パネルや洗濯機を対象とした同措置は、主に中国や韓国を対象としている。

また、トランプ大統領は12日、ホワイトハウスで開いた州知事らとの会合で中国と韓国に加えて、日本も名指し、貿易収支不均衡への不満を表明、数カ月以内に「報復関税」の概要を示すとした。

さらに16日、鉄鋼とアルミニウムの輸入が米国の安全保障を損なう恐れがあるとの判断から、米商務省も関税や輸入数量割り当ての導入を大統領に提言。トランプ大統領は、4月中旬までに是正措置の決定を求められている。

こうした中で、大統領経済報告が21日公表された。これは一般教書、予算教書と並ぶ三大教書の1つとされ、相応の注目を集めている。そして同報告書では、経常収支不均衡是正策の1つとして、為替相場による調整が有効との考えが示された。

<ユーロ圏にあって日本にない「免罪符」>

経常収支赤字国である米国は本来、安定したドル相場の演出と対内証券投資(特に米国債)による経常赤字のファイナンスが必要だ。しかし、実質実効相場でみたドルは約15年ぶりの高値圏にある。多少のドル安容認姿勢をちらつかせ、米国が主要な貿易赤字相手国にその是正を迫る可能性は低くない。

やや意外なのは、同盟国として強固な連携を構築してきた日本も、こと貿易収支不均衡問題に限れば、中国や韓国とほぼ同じ扱いを受けている点だ。そこはまさにビジネスマン、トランプ大統領というべきか。安全保障と経済問題を明確に切り分けて是々非々の議論をぶつけてくるとみるべきなのだろう。

本来、日米間の貿易収支不均衡が是正されるなら、円買い圧力が和らぐため、円安材料とみなすこともできよう。ただ、ドル円は長く続いたドル円の適温相場とも言うべき108―114円レンジを明確に下抜けした後だ。米国の貿易収支不均衡是正を狙うスタンスは、中間選挙を見据えたトランプ政権のドル安志向の証左と市場には映り、ドル安期待が刺激されやすい点に留意が必要だ。

ここで気掛かりなのは、ユーロ圏に対して、米国から目立った批判が聞こえてこない点だ。ユーロ圏は、2017年実績でみると、中国に次ぐ2番目の貿易赤字相手国(圏)である。しかも、その筆頭たるドイツは、日本や中国、韓国、スイスと並び米財務省から為替監視対象先にも指定されている。

この疑念に対するヒントは、ユーロ圏の金融政策や通貨ユーロの動向にあるかもしれない。欧州中央銀行(ECB)はすでに昨年から金融政策の正常化に向けて踏み出した。それを受け、ユーロは2017年1月の対ドル安値1.03ドル台からここもとでは1.25ドル台まで最大2割以上の上昇をみせている。

米国からみると、ユーロ圏ではすでに対米貿易黒字の是正に向けた動きが進展しつつあると映り、先の東アジア各国と異なる認識を持っている可能性がある。つまり、ユーロ圏にとって金融政策の正常化が、米国からの批判や圧力をかわす免罪符になっているということだ。

その点、足元のドル安円高傾向を踏まえ、今後、市場では日銀の追加緩和観測が高まるかもしれない。しかし、8期連続のプラス成長を記録したとあって、それは容易ではない。

それどころか、今後、貿易収支不均衡の是正とその手段としての為替相場を重視するトランプ政権が、日銀による上場投資信託(ETF)買い入れや指値オペにまでその批判の矛先を向ける可能性も警戒すべきかもしれない。日本株と円相場、円金利と円相場には、それぞれ相応の相関関係があるからだ。

むろん、日本はかねてより、金融緩和は国内経済を目的としていることを繰り返し説明しており、全く怯む必要はない。ただ、そうした場面では、市場のドル安円高期待が刺激される恐れがあり、要注意だ。

<ツケがトランプ大統領に回ってくる可能性>

もっとも、トランプ大統領にとってもドル安志向は危険な賭けだ。なぜなら、ただでさえ足元では米国の長期金利に上昇圧力が加わりやすいためだ。

昨年末に可決した税制改革(減税)により、米国の期待インフレが2月にかけて上昇し、米国債の増発懸念も重なる。また、米連邦準備理事会(FRB)が金融政策の正常化の一環として進める保有資産の縮小(再投資停止)も米国債の需給悪化要因だ。さらに、貿易摩擦の先鋭化を背景に、米国債の最大保有国である中国が、米国債投資を手控えるとの観測は根強い。

ここに、意図的な通貨価値の減価もいとわないトランプ大統領の為替政策が意識されると、米国債投資の手控えが広がり、ドル安と長期金利上昇を助長する可能性が高まるだろう。

この場合、ドル安が輸入インフレ高進を招くほか、長期金利上昇が株式相場への重しとなりかねない。また、住宅ローン金利の上昇を通じた景気への下押しにも要注意だ。つまり、トランプ大統領がドル安を志向した場合、そのツケは中間選挙を控える同大統領自身にも回ってくると考えられる。

これらを踏まえ、今後の米国の為替政策スタンスを確かめる上で、4月に予定される半年次の為替報告書が参考となろう。昨年以降、為替市場では金利差という羅針盤が機能しなくなった。

ドル円も先行きへの不確実性は極めて高く、不急の為替取引は手控えられやすい。この場合、日本では、潜在的な円高圧力を招く経常黒字が文字通り経常的に続く一方、対外的な直接投資や証券投資は手控えられやすく、需給面では円買い過多に傾きやすい。

また、最近の市場の不安定化を踏まえ、多くの日本企業が先行きへの不確実性を改めて意識した可能性もある。結果的に、春季労使交渉(春闘)での賃上げ機運に水を差された格好となるかもしれない。

ここまでの日本経済の好況と日系企業の好業績でも賃上げが迫力を欠くとあっては、日本の期待インフレ(予想物価上昇率)はしぼみ、予想実質金利に上昇圧力が加わりかねない。少なくとも向こう数カ月の間、ドル円には日米間の経常収支の不均衡とインフレ格差といった伝統的な円高要因が重しとなりつつあるように見受けられる。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年から17年まで個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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