June 25, 2015 / 8:23 AM / 4 years ago

コラム:ドル円の続伸を阻む日米経済事情=内田稔氏

[東京 25日] - 今月、125円台まで上昇したドル円は、黒田日銀総裁による実質実効相場に絡めた発言により、続伸を阻まれた。実質実効相場のテクニカルな発言の真意はともかく、昨夏以降、「円安は全体として日本経済にプラス」と繰り返していたことからすれば、「これまでプラスだから、円安が今後もメリットとは限らない」とした部分こそ、最大の変化だろう。

また、原田日銀審議委員も今月4日、米メディアとのインタビューで「いろんな産業が競争力を取り戻しているところを見ると、かなりいいところまできたのかもしれない」と発言。4月、浜田内閣官房参与がテレビ番組で「購買力平価からすると105円ぐらいが妥当」と述べたことと合わせ、いわゆるリフレ派陣営から事実上の円安けん制発言が相次いでいることの意義は大きい。

さらに今月8日には、オバマ米大統領がドル高を問題視していると報じられた(後に米当局は否定)。125円を超えていくドル高円安には、内外からのけん制が出やすく、警戒も必要な領域となってこよう。

むろん、円高けん制発言の中で、ドル円相場が75円台まで下落した経験を踏まえると、ここからのドル円にとってより重要なのは、日米のファンダメンタルズを映した円とドルの実力だ。その点、この2015年も折り返しを迎えようとしている今、ドル円相場は年初と比べ、約3%程度上昇しており、依然として利上げ期待を背景にドルは強く、円は弱いと映る。

ただし、主要通貨に対し、円安が進んだ通貨ペアは、このドル円のほかは、サプライズとなる上限撤廃に踏み切った対スイスフランと、利上げ期待が高まっている対英ポンドのみ。年初145円付近だったユーロ円相場が足元では140円を割り込んでいるのをはじめ、多くの通貨ペアが年初と比べ、円高水準で折り返す見込みだ。

しかも、その対ドルや対英ポンドなどを含め、主要通貨に対する年初来の円の変化率を平均するとおおむね横ばい。円は対主要通貨で見て、円高にこそなっていないが、円安でもないことになる。

<需給は円高を示唆>

上記のことが示唆するのは、円安要因として意識される日銀の金融緩和(マネタリーベースの拡大)や対外投資フローなどが、機械的に円安をもたらすわけではないということだ。なぜなら、年初来、日銀のマネタリーベースは約42兆円も増加しているし、毎月ほぼ1兆円ペースでM&Aといった対外直接投資も実行されてきた(国際収支ベース)。

さらに、対外証券投資も1月から5月の間、株式・投資ファンドと中長期債の合計で約5兆円(指定報告機関ベース)。直接投資と合わせ、年初から5月までに、約10兆円の資本流出が生じた計算だ。

円安圧力に歯止めをかけているのは、潜在的な円高圧力である経常収支の黒字だろう。4月までの累計は約5.6兆円と、すでに昨年(暦年)の経常黒字額2.6兆円をはるかに上回る。このペースが続けば、今年の経常黒字は年間約17兆円規模と、東日本大震災以前の平均的な額に匹敵する。経常収支は、来週や来月の相場を占ううえでは、あまり役に立たないが、経常収支が安定して黒字化すると、多少の資本流出では、そう容易に円安には進まないことを示唆している。

こうしたことを踏まえ、今後の円の実力を評価すると、それほど円安は進まないと考えられる。まず、外国人株主に対する日本からの配当金の支払いは例年6月に嵩(かさ)むため、これが一巡する7月以降は、逆に日本人の配当金の受け取り(第一次所得収支の黒字)が拡大する。

今年は、国内での設備投資意欲も相応とされ、従来よりも円資金への需要は強い。一年前と比べ、ドル円で言えば約20円もの円安とあって、受け取った配当金を円転するインセンティブも強いだろう。つまり、7月以降、需給面では円買いが強まりやすい環境ということだ。

ここまで円安が進むと、外国株式の上昇とも相まって、円建てで見た投資額が嵩むため、M&Aといった対外直接投資の増勢が衰える可能性もあろう。さらに、円投を伴う対外証券投資も、ここから一段と活発化するとは考えにくい。足元のドル円相場水準を踏まえれば、高値つかみとなってしまうリスクが意識されるためだ。市場の注目を集める年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)にしても、外国債券、株式残高ともに、基本ポートフォリオ中心からの許容範囲内にすでに達しているとみられる。

加えて、円安材料として意識される日銀の追加緩和も、よほど何らかの外部環境に変化がない限り、年内に関して言えば、見送られよう。日銀は、4月に物価安定目標の達成時期を先送りしており、様子をうかがう時間を手にした。5月には景気判断も「回復基調」から「回復」へとじわりと上方改定している。

何より、先の黒田総裁発言の通り、円安がいつまでも日本経済にとってプラスとは限らないとすると、副作用として円安を招きかねない追加緩和に、本当に躊躇(ちゅうちょ)しないか疑問も残る。

<米景気の息切れ懸念>

さて、需給面などの理由から円安がそれほど進まないとすれば、ドル円のカギを握るのは、ドルの実力やドル高の持続性だ。6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策金利予想分布図(いわゆるドットチャート)において、17人中15人が年内利上げを支持しており、市場もすでに早ければ9月の利上げを意識してはいるが、その時期は今後の経済情勢に委ねられている。

ただ、いずれにせよ、利上げ開始前後では、住宅ローン金利がじわりと上昇し、また低金利の追い風を失うことで株式相場も不安定化しかねない。ここまでのドル高もすでに金融引き締めに近い効果を発揮しているとみられ、2度目、3度目の利上げには、さらに時間を要する可能性が高い。

2009年7月に始まった米国の景気回復はすでに72カ月目と息が長く、8月には戦後12回の景気回復の中で4番目の息の長さとなる。量的緩和策による金利の低位安定とドル安といった追い風を失うと今後、景気回復の勢いは次第に和らぐとみられ、米国が連続利上げのサイクルに入ることは容易ではなかろう。

翻って、ドルは経常収支赤字国の通貨だ。大した利上げができないとの見方が市場に浸透すると、一転してドルの旗色は悪くなると考えられる。実際、米国が連続利上げをしていた2004年から2006年当時でさえ、幅広い通貨に対してドル安が進んでいる。世界的に景気が好転したため、当時、他の主要国も利上げを実施。利上げが米国固有のものではない以上、経常収支の赤字がドルに対する下落圧力となったためと考えられる。

これらを総合的に勘案すると、足元では先高観が強いドル円相場ではあるが、125円を大幅に超えて一段と上昇していくのは、それほど容易なことではないと考えられる。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年、14年と個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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