August 28, 2015 / 7:38 AM / 4 years ago

コラム:ドル円「じり安」シナリオの現実味=内田稔氏

[東京 28日] - 世界的な株式相場の急落に歩調を合わせ、ドル円相場は短期間で約8円も値下がりする波乱の動きをみせた。その要因として、中国の景気減速懸念が挙げられているが、それだけではなかろう。

中国がそうした状況であるにもかかわらず、米国は正常化という名の利上げに近づきつつあるという相性の悪い組み合わせこそが、世界的な株価急落の根底にあると考えられる。

そして、この「さえない中国」と「米国の一人勝ち」という相性の悪さは、為替市場における暴力的なまでのドル独歩高も引き起こしてきた。米連邦準備理事会(FRB)のデータによれば、過去1年間でドルの名目実効レート(ブロードベース)は約16%上昇している。

このドル高は、資源価格や新興国通貨の急落を通じ、市場の緊張を高めており、今回の人民元相場急落とも無縁ではない。多くの新興国にとって根底での債務はドル建てであるため、ゼロ金利解除は米国にとっては正常化でも、やはり多くの新興国にとっては金融引き締めに似た効果をもたらす。

新興国でみられる資本流出も、同じく引き締めの効果を強めるうえ、通貨安により生じる輸入インフレや通貨防衛といった観点から、金融緩和策を講じる自由度も大幅に制限されているようだ。

また、ドル高は米経済に対する逆風でもある。インフレ率の伸びを鈍化させ、企業収益の下押し要因として意識され、しばしば米国株式相場のストレス要因ともなっている。つまり、ドル高は様々な経路をたどり、利上げ開始やその後の正常化プロセスに対するハードルを高めていると言えよう。

<今年の円はドルに比肩する強い通貨>

ドル高によって市場の緊張が高まると、結果的に安全資産との連想から日本円も強含む。折しも、経常収支の黒字拡大を主因に、2015年の円相場は底堅く推移している。

意外に思われがちだが、年初に比べ、円に対して上昇した主要通貨はスイスフラン程度だ。ドルや英ポンドはほぼ横ばい圏にとどまっており、残りは全て下落している。しかも、スイスフランと言えば、スイス国立銀行(中央銀行)の突然の介入停止宣言を受けて全面高となった例外的な存在であって、円が弱い証左ではない。新興国通貨まで含めると、今年の円は利上げ観測によって上昇してきたドルに比肩する強い通貨となっている。

これは、経常収支が安定的に黒字基調を維持すると、直接投資や証券投資といった対外投資が活発化しても、円安が進むとは限らないことを物語っている。確かに、足もとのドル円急落直前では、投機筋の円の売り越しポジションも相応に積み上がっていた。このため、今回のドル円急落が単なる「リスク回避の円買い」という一過性の現象と片付けられ、改めて円安観測が強まる可能性はあるだろう。

ただ、ここまでの動きをみる限り、世界経済の先行きに対する不透明感が強い中では、米国の利上げ観測は極端なドル独歩高を通じて市場の緊張を高めかねない。ドル円は今回同様に上昇を阻まれるばかりか、下押し圧力すら受けかねないと言えるだろう。

実際、米国の利上げ観測がくすぶり続ける中、124―125円付近での上値の重さや、今回のような急落劇を目の当たりにし、米国の利上げ観測や利上げが本当にドル円上昇を招くのか疑問を抱いた市場参加者は決して少なくないはずだ。

<相場形成で重みを増す経常収支>

振り返れば米国の景気回復が始まってから、すでに74カ月目に突入した。戦後12回目となる今回を含め、その持続期間は過去第4位の息の長さだ。

こうした景気回復を後押ししてきたのが、住宅ローン金利の低位安定や堅調な株式相場による資産効果とドル安など多くの恩恵をもたらした量的緩和策だった点に異論を挟む余地は乏しい。ただ、その量的緩和策もフローの点で言えばすでに打ち切られ、金融政策面での追い風が弱まるうえ、ドル高がのしかかっている。

好調とされる米労働市場の改善も、19もの指標から得られる労働市場情勢指数でみると、今年に入り、3月、4月とマイナスを記録したほか、辛うじてプラスを維持する程度であり、むしろ改善ペースは鈍化している。そこに世界経済の勢いも鈍いとあっては、年内利上げに着手した後も、米連邦公開市場委員会(FOMC)は2回目以降の利上げに対して慎重に判断する姿勢を崩さないだろう。すなわち、米国が連続利上げ局面に入れるかどうか不透明感は非常に強いと考えられる。

利上げを目論む米国のドルと異次元緩和を断行中の日本の円を比べ、セオリー通りにドル高・円安が進む可能性を決して否定しない。しかし、ここ最近の動きは、そうしたセオリーが有効とは限らないことを如実に示している。

加えて、米国の連続利上げの難しさが、市場参加者の間で見透かされた場合、ドル高は失速しかねない。日銀の黒田総裁の発言をみても、一段の緩和策が講じられる可能性は、現時点では低いと言えよう。これまでのドル高の反動に加え、経常収支の黒字が東日本大震災以前の規模にまで復元した日本の円に対しては、ドル高が困難となるばかりか、ドル安圧力すら強まりかねないだろう。

ここからのドル円は、金融政策の格差によって上昇するシナリオよりも、金融政策の格差がこれ以上は広がりにくくなる中、経常収支の格差が重みを増し、ドル安・円高方向へじりじりと転じていくシナリオに十分な留意が必要と思われる。

*内田稔氏は、三菱東京UFJ銀行グローバルマーケットリサーチのチーフアナリスト。1993年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、国内外で一貫して外国為替業務に携わる。J-money誌の東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では2013年、14年と個人ランキング1位。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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