September 10, 2018 / 9:36 AM / 8 days ago

コラム:熱狂冷めた仮想通貨、新興国危機の救世主に名乗りか=大槻奈那氏

[東京 10日] - 8月中旬、トルコリラ暴落の裏で、リラからビットコインへの流入額が前日の2倍を超えた。景気後退もあり、連れ安している南アフリカランドからの流入も9月に入り急増、8月平均から3―4割増加している。

 9月10日、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト、大槻奈那氏は、仮想通貨はマイナー通貨を中心に為替の非効率性を補完できる可能性があると指摘。写真は仮想通貨のレプリカ。サラエボで2月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

新興国通貨の動揺は、なかなか収まりそうにない。トルコリラの暴落は極めて政治的な色が濃かったが、影響はその他の新興国にも広がっている。

今後、新興国通貨がクラッシュした場合、仮想通貨がより大きな資金の受け皿になる可能性はあるだろうか。

<海外でじわり利用進む仮想通貨>

仮想通貨が資金の逃避先になるためには、一定の市場性が必要だ。

現在日本では、仮想通貨取引に一時期の熱狂は見られない。だが、他国では、投資も利用も連綿と続いている。

仮想通貨の情報提供サイト「クリプトコンペア」によれば、ビットコイン購入額に占める日本円のシェアは昨年末の50%超から足元で1割程度に落ち込んだが、代わりに増えたのが米ドルで、そのシェアはドル連動型コインを含むと70%を超えているという。

米国では機関投資家の動きが活発だ。米銀大手JPモルガン・チェースは5月、仮想通貨事業戦略部門を設立。ノーザン・トラストなどの信託銀行は、仮想通貨のカストディ(保管)ビジネスを検討していると伝えられている。

また、米証券取引委員会(SEC)には、いくつかの上場投資信託(ETF)が上場申請されている。不正対策の不備などを理由に却下されているファンドもあり、今後もハードルは高そうだが、一部では私募の仮想通貨ファンドの取引が始まっている。

実社会での利用への模索も続いている。ニューヨーク証券取引所の親会社ICEは8月、スターバックスなどの小売業者や大手投資家とともに「Bakkt(バックト)」という仮想通貨決済プラットフォームの立ち上げを発表した。これにより、仮想通貨で今より簡単にモノが買えるようになる可能性がある。

仮想通貨の出し入れができる自動預け払い機(ATM)も増加している。9月7日時点の世界のビットコインATM台数は3728台で、1日あたり11台のペースで増えている。その6割が米国で、カナダ、オーストリア、ロシアと続く。オーストリアでは、郵便局の窓口でも仮想通貨を購入できる。日本の仮想通貨ATMは、東京を中心に12台にとどまっている。

欧州でも、ドイツやフランスなどの大国を除く各地で関心が高い。オランダの金融大手INGが今年3月末から4月にかけて行った調査によれば、欧州では約9%の個人が仮想通貨を保有している。これは、同じ調査で8%とされる米国の保有比率より高い。

しかも、さらに多い25%が「今後保有したい」と回答した。その期待の源泉は、投資より利用価値の拡大だ。ほとんどの国で、仮想通貨には投資目的よりも利用拡大による将来性に期待するという回答が多かった。

ちなみに、このING調査において、仮想通貨の保有が最も高かった国はトルコで、18%もの人々が仮想通貨を保有していると答えている。自国通貨が弱く、欧州とも東欧とも行き来が激しく、しかも人口構成が若いトルコの特性を表している。夏場のトルコリラ暴落を経て、同じ調査をしたら、どのような数字が出るのか興味深いところだ。

<政府や地方自治体も仮想通貨への関与拡大>

いくつかの国では、政府レベルで仮想通貨(デジタル通貨)に関与しようとしている。最も大胆なのは、金融危機下のベネズエラである。

独自の仮想通貨ペトロを8月のデノミ後の法定通貨ソブリン・ボリバルに連動させている。ペトロは、その名の通り、価値の裏付けは原油だとされているが、その存在量も通貨発行量も明らかになっていない。

ベネズエラの事例は苦し紛れの感があるが、一方、先進国でもデジタル通貨の調査が行われている。最も早くからデジタル通貨の研究に取り組んでいるのがスウェーデンである。

しかし、技術面などにクリアすべき点がまだ多く、今年末までにデジタル通貨発行の検討を進めるかどうか決定するとしている。そのほかスイスやカナダなどでも政府によるデジタル通貨の調査が行われている。

こうした動きは地方自治体も広がっている。9月2日、イタリア・ナポリ市長が、市独自のデジタル通貨を発行し、流通させると宣言している。日本でも、人口約1500人の岡山県西粟倉村が地域振興のため、2021年度までに仮想通貨技術を使った「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」で資金調達する方針だと報じられている。

<仮想通貨が為替の非効率性を補完する可能性>

毀誉褒貶の激しい仮想通貨だが、このように、金融商品として、また代替貨幣としての活用の模索が続いている。ならば、仮想通貨は次の通貨危機が起きたときの逃げ道になり得るか。

もちろん、有事には、流動性ではるかに勝る円や金がある。仮想通貨は価格が乱高下するし、金利も原則として付与されない。しかし、金価格はこのところ弱い動きが続いている。金利は、金にもつかないし、円にいたっては一部マイナスだ。

金は現金以上に持ち歩きに不便だし、円も海外ではそのまま使うことはできない。仮想通貨は海外の一部のカフェなどで使える。暴落通貨の逃避先に選ばれる要素はあるだろう。

さらに技術が確立すれば、活用は新興国通貨にはとどまらないかもしれない。

国連によれば、世界に流通する通貨は現在180種類ある。ということは、これらすべての交換の組み合わせは1万6110通りにも上る。マイナー通貨同士のやりとりではスプレッドがとても高いか、交換業者が受け付けない組み合わせも多くある。

例えば、空港での片道の現金交換スプレッドは、米ドルは約2%だが、豪ドルは約10%、トルコリラに至っては30%を超える。特殊な状況とはいえ、トルコリラを買って再び円に戻したら大半が吹っ飛ぶことになる。

仮想通貨ベンチャー「バロック・ストリート」のアナリスト松嶋真倫氏によれば、こうした非効率性を緩和するため、オランダのスキポール空港では、持ち帰った外貨で仮想通貨を購入できるという機械が実験的に設置されたという。

同じような発想で、何らかの共通通貨を外貨交換用の資金としてプールしておくことができれば、他国に行くたびに、買った外貨を自国通貨に戻し、次の渡航時他のまたスプレッドを払って別の通貨に交換するという非効率は回避できる。そのプール先として、比較的値動きが安定しているステーブルコイン(ドルや円といった法定通貨の価値などと連動する仮想通貨)が選ばれる可能性もあるだろう。

リーマン・ショック後、機関投資家向けに開発されていた金融イノベーションはスローダウンしている。画期的なイノベーターは、デリバティブのブラック氏、ショールズ氏以降ほとんど出現していない印象である。そのような中で現れたのが仮想通貨だ。

マネーロンダリング対策や、ハッキングに対するシステム的な耐性の向上、信頼できる資産管理会社の確立、安全なウォレットの整備など、取り組むべき課題は山積だ。しかし、ドルや円、ユーロなどのメジャー通貨は別としても、今後の方向性次第では、マイナー通貨を中心に為替の非効率性を補完できるかもしれない。

大槻奈那氏(写真は筆者提供)

*大槻奈那氏は、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト兼マネックスユニバーシティ長。東京大学卒業。ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)取得後、スタンダード&プアーズ、メリルリンチ日本証券などでアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授、クレディセゾン社外取締役、東京海上ホールディングス社外監査役を兼務。財政制度審議会財政制度分科会委員、東京都公金管理アドバイザリー会議委員などを務める。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below