November 19, 2018 / 8:24 AM / 22 days ago

コラム:「ゾンビ企業」破たんの足音、08年超える危機にも=大槻奈那氏

[東京 19日] - 9月末までのこの上期、日本の地方銀行がほぼ「貯金」を使い果たした。顧客預金の話ではない。朝日新聞11月16日付朝刊によると、毎年上期(4─9月)に取り崩してきた貸倒引当金が、今年は5年ぶりに繰り入れに転じた。

 11月19日、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト、大槻奈那氏は、「ゾンビ企業」が増加の一途をたどっており、急速な景気後退に見舞われた場合、2008年の悪夢を超えるショックが訪れる可能性も否定できないと指摘。写真は2014年11月に東京で撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)

地銀はこれまで、2008年のリーマン危機直後に積んだ引当金が決算上の「貯金」となり、取り崩しによる戻入益を計上することで減益を補ってきた。しかし、ついにこのバッファーが尽きつつある。ある地銀の関係者は、収益のサイクルがいよいよ「最終コーナーに差し掛かった」と表現した。

<上場企業の12%がゾンビ企業>

日本だけの話ではない。世界でも、何とか生きながらえる「ゾンビ企業」が増加の一途をたどっている。国際決済銀行(BIS)の9月のリポート「The rise of zombie firms(増加するゾンビ企業)」によれば、データが入手可能な14カ国の上場企業の12%が、今やゾンビ企業となっている。

BISが定義するゾンビは、過去3年間、利払いが利益で賄えない状態に陥っている企業である。この低金利環境ですら負担に耐えられないようでは、金利の上昇時にはひとたまりもない。こうした破たん予備軍の比率は現在、過去30年余りで最悪である。

もし上場企業の12%が本当に倒産したらどうなるか。金融危機が起きた08年ごろに、BISがゾンビと認定した企業の比率は8%程度だった。一方、S&Pグローバル・レーティングによると、当時の社債デフォルト率は4.24%だった。ゾンビ比率が12%まで上昇している今、急速な景気後退に見舞われた場合、08年の悪夢を超えるショックが訪れる可能性も否定できない。

<安易な借入れが膨張>

ここまで苦しい企業が、なぜ温存されているのか。支えているのは、「イージーマネー」の存在だ。資金調達はこの数年間で圧倒的に企業に有利になっている。それを端的に表しているのが、格付けは低いが高利回りの「ハイイールド債」や「レバレッジドローン」に対する投融資ブームである。

レバレッジドローン市場の規模は現在、米国だけで1.1兆ドル(120兆円)に上る。この6年で2倍に膨れ上がった。この流れは債券の世界でも加速しており、今年発行された債券の7割以上が格付BB以下のハイイールド債となっている。英中銀のカーニー総裁は10月の講演で、「レバレッジドローンの成長ぶりは金融危機前のサブプライムローンを彷彿(ほうふつ)とさせる」と発言している。

しかも、資本比率や流動性の維持を定めたようなコベナンツ(財務制限条項)が付されていないローンも増えている。銀行やファンドによる融資競争が激化しているためだ。こうした「コベナンツ・ライト」と呼ばれる審査の甘い融資は、08ごろ年ごろにはほとんどみられなかったが、今や欧米のローン全体の75%を占めるまでに膨張した。米連邦準備理事会(FRB)前議長のイエレン氏も10月の講演で、レバレッジドローンやそのコベナンツの緩みに懸念を示した。

日本も例外ではない。日銀が今年行った、相対的に信用度の低い「ミドルリスク企業」向け貸し出しに関するアンケートで、「貸出金利が信用コストに見合っていない案件が多い、またはほとんど見合っていない」と回答した地銀は5割に上る。ならば金利を引き上げれば良いのでは、とも思うが、それは「競争が厳しい」、「貸出先が納得しない」などとして、9割の銀行が「金利引き上げは難しい」としている。

邦銀の貸出金利は、過去最低の水準にある。マイナス金利導入直後の16年3月から、預貸スプレッドは1%を切り始めた。それとともに、都市銀行と地方銀行との貸出金利の差も縮小、リーマンショックごろには0.3%程度だった差は0.18%まで縮小している。地銀が、金利を下げて貸し出しを伸ばしている状況が垣間見える。

地銀による海外貸出の拡大が目立つようになったのも最近の特徴だ。12年ごろまでは都銀と同程度のペースだったが、そこから地銀の拡大ペースが都銀を大きく上回るようになった。アベノミクス開始から直近18年7月までの6年弱で、都銀の海外貸出が1.5倍になったのに対し、地銀は2.6倍に膨れ上がった。もともとの母数が小さいとはいえ、外貨調達も思うに任せない地銀にしては目覚ましい快進撃である。

<売りが売りを呼ぶ債券の怖さ>

ところが、足元では少し風向きが変わってきている。今年に入って世界の債券価格は下落(利回りは上昇)が顕著になっており、投資リターンは08年以降最悪となっている。大手運用会社リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメント・アメリカのグローバルクレジット投資責任者は、11月15日のブルームバーグの記事で、これはまだ低迷の始まりにすぎないと発言している。

社債市場は軟化し始めると、株式市場以上に怖い面がある。格付け条項というトリガーが極めて似通っているため、格下げされると投資家が一斉に売り始めるという特徴がある。投資家が強制的に売却を迫られる格付けは、BBBネガティブかBBBマイナス辺りに集中している。

また、債券市場は株式市場と異なり、「逆張り」がしにくい。企業がBBという投機的な格付けに陥った場合、業績が改善し、債券価格が反転するのには時間がかかる。株式のように、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割れたからと見直しが入り、1、2カ月で復調するというケースは多くない。

しかも、企業が本当に経営難に陥ったときには、後で倒産して管財人が否認しない限り、限られた資産から早目に押さえた者の勝ちだ。資金の引き上げが始まると、そのスピードは速い。そうなると、格付け会社が「資金繰りの懸念が増した」と判断してさらに格下げする。

従って「逆張り」できるのは、長期的視野に立ち、資金力があり、格付け条に項縛られない希少な投資家だけだ。債券市場には上場株式のような流動性はないため、流動性がなくなる前に売り抜けようという戦いになりやすい。

<危機は「気」から>

こうした「クレジットリスク顕在化」シナリオは杞憂(きゆう)なのだろうか。そうとも言い切れない。

ある単語がどれだけ検索されたかを時系列で公開するウェブサイト「グーグル・トレンド」を見ると、この秋以降、「zombie companies」というフレーズの検索数がじわじわと増加し、5、6年ぶりの高水準になっている。「financial crisis」もこの秋、15年8月に中国株が暴落したチャイナ・ショック以来の高い水準に達している。人々が危機に敏感になっているのかもしれない。

どのような危機も、市場参加者の不安心理なしには発生しない。「危機は気から」である。市場関係者のマインドが危機を意識し始めている今、そろそろシートベルトを締めておくのに越したことはないだろう。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

(編集:久保信博)

大槻奈那 マネックス証券 執行役員チーフ・アナリスト(写真は筆者提供)

*大槻奈那氏は、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト兼マネックスユニバーシティ長。東京大学卒業。ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)取得後、スタンダード&プアーズ、メリルリンチ日本証券などでアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授、クレディセゾン社外取締役、東京海上ホールディングス社外監査役を兼務。財政制度審議会財政制度分科会委員、東京都公金管理アドバイザリー会議委員などを務める。

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