June 20, 2019 / 1:52 AM / a month ago

コラム:米FB参入で仮想通貨再び、時代のあだ花か先駆者か=大槻奈那氏

[東京 20日] - 米フェイスブック(FB.O)が独自の仮想通貨(暗号資産)「リブラ(Libra)」を18日正式発表した。開発プロジェクトにかかわる企業の豪華な顔ぶれが報じられた15日、ビットコインBTC=BTSPは1年1カ月ぶりとなる100万円の大台に乗せた。

 6月20日、米フェイスブックが独自の仮想通貨(暗号資産)「リブラ(Libra)」を打ち出したことで、今年、瀕死の状態から息を吹き返した仮想通貨市場の将来はどうなるのか、マネックス証券の大槻奈那氏が説く。18日撮影(2019年 ロイター/Dado Ruvic)

今年、瀕死の状態だった仮想通貨市場は息を吹き返した。20日朝時点の価格は約100万円。年初からなんと2.4倍まで上昇した。回復の予兆は3月頃、4月に価格暴騰する少し手前から取引高の増加が観測された。これが今回の復調劇の序章だった。

<取引高上昇「3つの背景」>

3月以降の取引高上昇は何がトリガーとなったのだろうか。

第1に金融緩和の影響による投資家層の拡大がある。3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが見送られ、市場は一気に金融緩和を織り込み始めた。緩和マネーは当然、株式市場に向かったが、それに加えて、値動きの激しい仮想通貨も富裕層などの買いターゲットとなった。

富裕層の関心の高まりはアンケート調査などにも表れている。大手投資アドバイザリー会社deVereグループが5月公表した顧客アンケートによれば、世界の富裕層の68%が「3年以内に仮想通貨に投資したい」と回答している。

こうした動きを受け、機関投資家も仮想通貨市場を意識し始めた模様だ。仮想通貨関連の投信を運用するグレイスケールによれば、今年の1─3月の資金流入額は47億円と、前四半期から42%増加した。

同社の預り資産は、2018年末の8億2500万ドル(900億円)から、5月末には、2.4倍の20億ドルに膨らんだ。同社は、新規マネーの73%が機関投資家からの流入だとしている。

まだ絶対額としては少額であり、時価変動もあるため、実際にどの程度の新規マネーがこの運用会社に流入したのかは不明だが、他にも機関投資家の関心を裏付けるデータがある。

世界最大級の資産運用会社フィデリティ・インベストメンツが昨年末から年初にかけて行った機関投資家向けアンケートによれば、22%の投資家が仮想通貨に既に投資しており、57%が今後投資したいと回答した。他の資産との相関の低さがその理由だという。

通常、他の資産との相関の低さからヘッジ手段となるのは「金」だが、仮想通貨の強気派は、金に比べてはるかに市場規模が小さく、保管コストもかからない仮想通貨市場のポテンシャルを強調する。グレイスケールは5月初頭から米国のテレビで、「Drop Gold」というコマーシャルを流し、「金の代わりに将来性のあるデジタル資産をポートフォリオに入れるべき」と呼びかけている。

第2の資金流入の要因は、ユースケース拡大のニュースが相次いだことだ。

昨年末から、米オハイオ州では、法人税がビットコインで納入できるようになり、今年4月には、仮想通貨決済会社ムーンが自社の技術によってアマゾン・ドット・コム(AMZN.O)での仮想通貨決済が可能になったと発表。さらに同じころ、フェイスブックが、一時期禁止していた仮想通貨関連の広告を解禁した。これは、今回の独自通貨発行の布石と解釈され、仮想通貨価格は敏感に反応した。

第3にセキュリティの改善である。昨年1年間の仮想通貨取引所のハッキングによる被害額は約8億6500万ドルと過去最大を記録した。だが19年に入ってからは大きな不正案件が発生していない。

今年5月8日に世界最大級の仮想通貨取引所バイナンスでビットコインの不正流出事件が発生した時も、被害額は44億円と比較的少額で済んだ。過去の教訓から、ほとんどの資産がネットに接続されていないコールド・ウォレットに保管されていたためだ。

特に日本では、こうした管理手法が一般化しつつある。5月31日に可決成立した新たな法律により、交換業者は原則コールド・ウォレットに保管するよう義務付けられた。取引上やむを得ずホットウォレットに資金を置いておく場合は、同じ通貨、同じ量の資産を保有しておくことが求められる。

<「ユーザーベースの拡大」と「半減期」に期待>

そうは言っても、おそらくハッキングはイタチごっこだ。無くなることはない。過去においても、システムの脆弱性が露呈する度に、仮想通貨価格が暴落するトリガーとなってきた。それでもビットコインの積極派は以下の2点に期待を寄せている。ユーザーベースの一層の拡大と、半減期だ。

ユーザーベースの拡大は、例えば冒頭に触れたフェイスブックのリブラなどが挙げられる。フェイスブックの月間アクティブユーザーは23億人を超えるとされている。一方、仮想通貨の口座数は、17年以降増加しているものの、まだ約1.4億口座程度だ(2018年第3・四半期時点)。フェイスブックユーザーの1割が口座を開設しただけでも、仮想通貨の口座数は倍増する。

そして、口座数が世界的に拡大すれば、リブラでの国際送金が可能になるかもしれない。それは銀行の国際銀行間金融通信協会(SWIFT)が独占する国際送金の枠組みに風穴を開けることになる。ビットコインなどの他の仮想通貨に対しても、送金手段としての活用への期待が高まるだろう。

強気派のもう1つの支えが、ビットコインの「半減期」、つまりマイニング報酬の引き下げである。

ブロックチェーン上の取引の鍵は、分散的に参加者で取引を承認する作業である。その作業に対する報酬は、発行総量を制御するため、累積で特定数のブロックが発行された時点で半分に引き下げるとあらかじめ決められている。報酬が引き下げられると、市場に参加するインセンティブが失われ、仮想通貨の発行が抑えられ、需給がタイト化する。

前回のビットコインの半減期は2016年7月だった。この時にも、最初は報酬が引き下げられたことで、価格は一瞬下落したが、その後需給のひっ迫で上昇し始めた。次の半減期は、63万のブロックが生成された時点であり、現在の58万ブロックと現在の生成速度から勘案して、あと1年弱、来年の5月24日に訪れると予想されている。

フェイスブックは、新通貨の名称をリブラと決める際、同名のブロックチェーンのスタートアップ企業から商標を買い取ってまで、この名前にこだわった。「LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)」と響きが似ている言葉を選ぶことで、「LIBORは銀行のため、リブラはみんなのため」という想いを込めたのでは、などと推測されている。

19日時点では、米金融当局の審査・承認は済んでおらず、まだ紆余曲折があるかもしれない。果たして、「みんなのため」の決済手段が生まれるのかどうか、仮想通貨は次の展開を決める大きなステージに差しかかっている。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

大槻奈那氏 マネックス証券 執行役員チーフ・アナリスト

*大槻奈那氏は、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト兼マネックスユニバーシティ長。東京大学卒業。ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)取得後、スタンダード&プアーズ、メリルリンチ日本証券などでアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授、クレディセゾン社外取締役、東京海上ホールディングス社外監査役を兼務。財政制度審議会財政制度分科会委員、東京都公金管理アドバイザリー会議委員などを務める。

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編集:下郡美紀

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