August 22, 2019 / 9:08 AM / a month ago

コラム:マイナス金利に苦しむ欧州銀、迫る景気後退の時限爆弾=大槻奈那氏

[東京 22日] - 欧州の銀行株が乱高下している。景気後退に陥った場合にドイツには財政出動の準備があるとの報道で若干値を戻したものの、資産価値に比べて株価が割高か割安かをみる株価純資産倍率(PBR)は、ドイツ銀行(DBKGn.DE)とコメルツ銀行(CBKG.DE)で0.2倍前後、フランスのソシエテ・ジェネラル(SOGN.PA)や英国のバークレイズ(BARC.L)、イタリアのウニクレディト(CRDI.MI)でも0.3─0.4倍と、ことごとく1.0倍を大きく割り、ほぼ今年の最安値近辺で推移している。

 8月22日、マイナス金利に苦しむ欧州の金融システムは、セーフティネットが整わないまま次の景気後退を迎える恐れがあると、マネックス証券の大槻奈那氏は指摘する。写真はドイツのフランクフルトの金融地区。2018年10月撮影(2019年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

<貸出金利の低下、ここに極まれり>

何が問題なのか。2014年に欧州中央銀行(ECB)が導入したマイナス金利は、もちろん元凶の一つだ。デンマークでは今月、一定額以上預金者が対象ながら、貸出金利がマイナス0.6%の住宅ローンが登場して話題になった。ユーロ圏でもドイツの一部の銀行は0.5%の住宅ローンを提供している 。欧州では、少なくとも14銘柄の投機的格付企業の債券がマイナス利回りで取り引きされている。

日銀が2016年にマイナス金利政策を始めた当時、「欧州では案外貸出金利が下がっていない」という分析が多く見られたが、今年に入って大きく低下している。2014年以降の貸出金利の低下幅は約60ベーシスポイント(bp)に達する。年平均12bp前後の下落は、日本の銀行を上回るペースだ。

この間、ユーロ圏の銀行貸出残高10兆ユーロ(約1180兆円)に対し、約600億ユーロの収益が失われた計算になる。同様に、債券の利回りも下落しており、トレーディング収益にもひところの勢いはない。このような傾向は、金利低下が続く中、当面続きそうだ。

<枯渇する不良債権バッファー>

さらに問題なのは、こうした利回りの低下で、不良債権が発生した時のバッファーが枯渇しつつあることだ。

2010─11年の財政危機後、欧州の不良債権問題は景気回復と債権売却などで徐々に落ち着いてきた。それでも、貸し出しに占める不良債権の比率はギリシャで41%、ポルトガルやイタリアでも8─9%と、日米に比べてまだ高い。欧州連合(EU)全体の不良債権額は 2019年3月時点で77兆円と、日本の10倍以上だ(ちなみにEUの貸出総額は日本の銀行の約4倍)。

さらにこのところ、地政学リスクの拡大などからクレジットリスクへの市場の警戒感は高まりつつある。これまで拡大基調にあった欧州のローン担保証券(CLO)市場は極めて低調だった 。報道によると、米国では今月、約2カ月前から資金を募っていた3社がレバレッジドローンの販売を中止した 。貿易摩擦の高まり、不安定な原油価格、景気後退リスクを懸念する投資家が質へと逃避していることが背景だ。

忍び寄るダウンサイドに備えるべく、今年4月 、欧州委員会は不良債権に対する統一ルールを決めた。例えば、無担保貸出が新たに不良債権になった場合、3年以内に貸出に対して100%の資本を積まなければならない。

ドイツなどは当初、このルールを既存の貸出全体に適用すべきだと主張していたが、不良債権比率が高い他の国に押し切られ、新規に発生した不良債権だけが対象となった。それでも、銀行にとっては負担増となる可能性が高い。銀行の利ざやは薄くなっており、こうした負担増は収益で吸収しにくくなっている。

規制は好況時に強化するのが鉄則だ。今回のルールも、銀行財務の余裕を減らし、貸し渋りを発生させる可能性がある。早めに景気後退期に備えるためのルールが、むしろプロシクリカル(景気サイクルを加速させること)に働いてしまうかもしれない。

<準備整わぬまま景気後退か>

こうしたルールが導入された背景には、欧州危機後に提唱されてきた「銀行同盟」案の一つである「預金保険制度の統一」のめどが立たないことがある。その他の柱である「銀行監督の統一」と「破綻処理の統一」はなんとか仕組みができたが、預金保険については、脆弱(ぜいじゃく)な銀行預金の払い戻しにまで応じることに、保険システムが堅固なドイツなどが反対している。

ドイツの気持ちもわかる。つい先週も、ラトビア第5位のPNB銀行が閉鎖され、預金保険で10万ユーロまで保護されると発表された。

EU域内で預金保険制度が統一されぬまま、次の景気後退に突入してしまえば、保険システムが脆弱(ぜいじゃく)な国の銀行から預金が流出し、金融格差が拡大してしまう可能性が高い。前回の財政危機時は、今ほどネットバンクが発達していなかったため、地元銀行への預金の粘着性は高かった。だが、今後は預金の流出が想定以上に大きくなるかもしれない。

欧州では、足元で製造業を始めとする様々な経済指標が鈍化している。イタリアでは、ポピュリスト政権が空中分解し、政治的にも不確実性が増している。報じられているドイツの財政出動がどこまで景気を浮揚できるのか。

ドイツは2014年以降、「シュバルツェ・ヌル(黒いゼロ)」をスローガンに財政均衡に取り組んできた。「500億ユーロ程度の財政出動が可能」というショルツ財務相の発言もあるが、そんなドイツが他国のためにどこまで身をていするかは未知数だ。

次の景気後退まで残された時間は多くない。欧州の金融システムには試練の時が近づいている。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*大槻奈那氏は、マネックス証券の執行役員チーフ・アナリスト兼マネックスユニバーシティ長。東京大学卒業。ロンドン・ビジネス・スクールで経営学修士(MBA)取得後、スタンダード&プアーズ、メリルリンチ日本証券などでアナリスト業務に従事。2016年1月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授、クレディセゾン社外取締役、東京海上ホールディングス社外監査役を兼務。財政制度審議会財政制度分科会委員、東京都公金管理アドバイザリー会議委員などを務める。

(編集:久保信博)

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