Reuters logo
コラム:「トランプリスク」は幻影、円安再開へ=村上尚己氏
October 18, 2016 / 1:57 AM / a year ago

コラム:「トランプリスク」は幻影、円安再開へ=村上尚己氏

[東京 18日] - 9月掲載のコラムでは、円高局面が終わりつつあると述べた。当時そして現在も指摘される円高要因は、米大統領選挙、米利上げが困難になるショックの発生などだろう。そして、日銀の金融政策決定会合が期待外れとなり、今年に入って何度か見られたパターンが続くとの疑念もあるだろう。

筆者は、英国の欧州連合(EU)離脱選択(以下、ブレグジット)でドル円が一時100円を割れた夏場以降、上記の材料は円高要因にならないと一貫して主張してきた。実際、10月になってからドル円は一時104円台半ばまで戻り、100円割れのリスクは遠のいたように見える。

むろん、米大統領選で9月末から劣勢が伝えられるドナルド・トランプ共和党候補がここから逆転勝利すればサプライズになろうが、そもそも米大統領選が円高要因となるのかは不明だ。

米国の政治都合に日本の当局が振り回され、円高が起きてきた歴史のトラウマがあるのは理解できるが、トランプ氏の言動を過大評価し、例えば日本の自動車メーカーが米国で大きな雇用を生み出している状況を、市場関係者は十分理解していないのではないか。とどのつまり、米大統領選が円高要因になるとの見方は根拠が薄いポジショントークにすぎず、ドル円の方向性にほとんど影響しないと筆者は見ている。

<米大統領選が話題になるうちは投資機会>

為替市場で「トランプリスク」が最も色濃く表れたメキシコペソ(5月に下落し始め、9月初旬には急落)にせよ、第1回の大統領候補テレビ討論会直前の9月末には大底をつけ、その後は民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢との見方とともに反転している。

また、そもそもメキシコペソとドル円の相関は低く、為替市場で「トランプリスク」が円高要因として市場で意識されているようには見えない。

恐らく、日本の市場関係者の多くが「トランプリスク」を強く意識した背景には、予想外と言える6月のブレグジットの影響があるのだろう。グローバルな政治の潮流について、筆者は深い見識を持っているわけではないが、ブレグジットを受けて、ポピュリズム(大衆迎合主義)的な動きが各国に広がりつつあるとの論説が投資家心理を過度に悪化させた可能性もありそうだ。

確かに、日本を除く、欧米、中国、中東、中南米など多くの地域で政治は不安定化しており、リスク資産の下げ材料となってきた。昨年夏場の人民元切り下げ以降高まった中国当局への不信が投資家の心理を抑制した面もあろう。

ただ、不安定な政治情勢は今に始まったことではなく、2010年の欧州債務危機やアラブの春(中東・北アフリカ諸国での政変)以降続いていることである。これらは当初こそ悪材料となったが、今となって考えれば、いずれも底値でリスク資産に投資する機会をもたらした。中国懸念や原油急落局面など2015年以降の政治経済イベントも同様に位置付けることが可能だろう。

こうした筆者の見方が妥当なら、為替アナリストらが米大統領選を円高要因と言及しているうちは、まだ投資機会が残っていることを示唆しているのではないか。

<リフレ政策「失敗」論の根拠薄弱>

実際にドル円の方向性に影響するのは、世界経済と米国金利、そして脱デフレを後押しする日本の財政金融政策である。世界経済については、5月にコラムを書いた時から状況は同じで、最悪期を抜け出し、緩やかながらも回復が続いている。

それでも、米国の長期金利が歴史的な低水準にとどまっていたのは、米連邦準備理事会(FRB)が利上げ再開に慎重姿勢を保っていたこと以上に、日欧で長期金利がマイナス圏に低下したことが大きかった。実際にはFRBの12月利上げを阻む要因はなくなりつつあり、また日欧の行き過ぎた金利低下が是正され、今なお低い米長期金利はファンダメンタルズで説明可能な水準まで上昇すると予想する。

加えて、2016年の円高局面の主たる要因は、日銀や政府の経済押し上げ政策に対する失望である。これが今後変わるかという点で、政府の財政政策と日銀の政策転換をどう考えるかが重要になる。

財政政策については、10月に成立した第2次補正予算のみであれば限られた財政拡大にとどまる。いわゆる「ヘリコプターマネー」には程遠い小粒な財政政策だが、2014年の消費増税以来の緊縮財政政策を転換したことは意味がある。今後、安倍政権の政権基盤が強まり、この路線転換をより鮮明に打ち出すことができるようになれば、財政政策は円安要因になるだろう。

金融政策については、依然大きく見方が分かれている。9月21日に日銀が導入した「イールドカーブ・コントロール」と「オーバーシュート型コミットメント」は金融緩和強化と位置付けられると筆者は見ている(前回コラム参照)。

こうした見方に対して、主に2つの異なる見解がメディアで聞かれる。1つは、ベースマネーターゲットを曖昧にしたことは、「リフレ政策の失敗」であり、テーパリング(量的緩和縮小)の始まりを意味するとの見解だ。実際には、日本国債市場に対する日銀の関与という点で考えると、10年国債をゼロに誘導する政策はより強力である。

また、日銀のバランスシートを増やすことだけがリフレ政策であるとの認識は、的外れな議論だと考える。リフレ政策とは、緩和的な財政金融政策を徹底し、インフレ期待を引き上げてデフレからの完全脱却を果たし、完全雇用・経済正常化を実現することと筆者は認識している。

メディアで聞かれるもう1つの見解は対照的だが、今回は政策枠組みを変えただけで、金融緩和としては不十分との批判である。この見解については、これまでの円高やインフレ期待の低下を踏まえれば、筆者も理解できる。ただ、現在の政策枠組みは、インフレ期待により強く働きかけることが可能であるという点において、高く評価できると考える。

2016年初頭からのインフレ期待低下による円高トレンドは、6月のブレグジット後の市場変動が大底となり、日銀の政策レジーム転換によって反転すると筆者は引き続き予想している。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below