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コラム:トランプ政策への市場反応、正解は米株か=村上尚己氏
2017年3月3日 / 04:30 / 8ヶ月後

コラム:トランプ政策への市場反応、正解は米株か=村上尚己氏

[東京 3日] - 年初来、方向感がなかなか定まらない日本株市場だが、3月に入ってからは、年初来高値をつけるなど堅調に推移し始めている。

振り返れば、日本株市場は2016年11月から17年初までは、トランプラリー(米株高・ドル高・金利高)を受け、大きく上昇したが、その後はトランプ政権が打ち出す政策(トランプノミクス)への思惑で揺れ動いている。

それは、以下に説明するような、米国の株式市場と債券・為替市場の温度差(異なる市場シグナル)を映した「こう着相場」だと言えるだろう。

周知の通り、米国株はトランプ政権への期待から12連騰を含めじりじりと最高値を更新し続けている。ダウ工業株30種の終値は3月に入り、2万1000ドルの大台を超えた。米国株は、トランプノミクス実現期待を背景に、企業業績の一段の改善を織り込んでいると思われる。

一方、米国の債券・為替市場は17年に入ってから、対照的な反応を見せ始めている。債券市場では長期金利上昇が止まり、為替市場では円高ドル安地合いがやや強まったのだ。これらの市場では、恐らくは閣僚人事の遅れなどを理由に、トランプ政権の政策転換への疑念が高まっていたのだろう。

加えて、フランス大統領選挙に対する警戒なども、そうした値動きに作用したと思われる。米国やドイツなど安全国債の買いが促され、それが米国の長期金利低下をもたらし、ドル高に歯止めをかけた面もあろう。

ただ今後は、そのような悲観心理の巻き戻しが起こるのではないだろうか。フランス大統領選挙を理由に、ドイツ2年国債金利が2月に史上最低水準(マイナス0.9%)まで低下したが、いくらなんでもリスク回避の行き過ぎだ。

筆者は、今年は米国政権交代による大規模な政策転換が各金融市場の方向を決すると考えている。このため、上記のような、米国株式と米国債券市場の値動きの差は長期化しないとみている。

フランスなど欧州政治に関する思惑は、一時的な相場変動要因にすぎず、今年の相場の主役にはなり得ない。フランス大統領選挙でルペン国民戦線党首が勝利するシナリオに対する懸念は今後も浮上する場面があろうが、それが米国の金利低下や円高を長期化させる可能性は低いと考える。

<トランプ政策のリトマス紙は国境税調整>

さて、筆者の見立てが正しければ、高値更新を続ける米国株式市場の値動きの方が妥当であり、米欧債券市場でみられた年初からの金利低下もいずれ終わる、ということになる。

こう書くと、以下のような反論が聞こえてきそうだ。トランプ大統領は2月28日に行った初の議会演説で、1兆ドルのインフラ投資を議会に要請するとともに、法人税率引き下げと中間層減税を含む税制改革を打ち出したが、いずれも事前の言及を超えるものではなかったではないか、と。

恐らくは閣僚人事承認の遅れだけではなく、就任当初の大統領としては異例の支持率の低さ、強硬的な保護主義政策なども、当初からトランプ政権に対して懐疑的だった市場参加者の心理を一層慎重にさせているのだろう。日本のメディアや市場関係者の多くは依然、総じてトランプ政権への疑念を強調している。

確かに筆者も、拡張的な財政政策というトランプノミクスの核心については、いまだに具体策の面で不透明な部分があることは認める。ただ、「米国製品を買い、米国人を雇う(Buy American and Hire American)」という方針を掲げる大統領が、減税・政府支出拡大を実現させる可能性はやはり高い。

問題はどのくらい財政拡張的になるかだ。その意味で注目されるのは、共和党が以前から提案している国境税調整の扱いだろう。

国境税調整の導入は輸入企業を中心に大きな増税となり、法人税率引き下げによる減税効果を薄める。米国の製造業を優遇する通商政策の観点から国境税導入を目指しているトランプ政権が、共和党案に沿った制度改定に慎重になるのは当然だ。

「均衡財政政策」にこだわる共和党議員との折衝を経て、国境税調整に伴う増税措置の部分を縮小させることで拡張的な財政政策を徹底できるのかが、トランプノミクスの正体を見定める上での大きなポイントになると筆者はみている。

<日本株、15年の高値トライへ環境整うか>

トランプ政権が拡張的な財政政策を打ち出せば、日米英で財政政策拡大が実現する。フランス大統領選挙次第では、ユーロ圏も拡張財政に転じるシナリオを想定できる。

リーマン・ショックから8年が経過して、先進各国が遅ればせながら金融・財政政策のアクセルを全開にするということは、過去20年続いた米国を含めた先進国の経済成長減速・インフレ率低下という、大きなトレンドの終焉をもたらすことになるだろう。

また、金融市場では、トランプ大統領の発言に一喜一憂する場面が多くなり、米国などの経済指標に対する感応度が今年になってから低下しているようにみえる。実際には、米供給管理協会(ISM)発表の2月製造業景気指数は57.7と、14年8月以来の高水準まで改善している。

景気回復は米国だけではなく、グローバル製造業購買担当者景気指数(PMI)も52.9と、11年5月以来の水準まで改善した。バブル崩壊リスクが意識される中国など新興国を含め世界経済は回復しているのだ。11年から深刻化した欧州危機を引き金に中国など新興国の減速、そして原油など国際商品市況のブーム崩壊を招いたが、こうした大きな流れが転換しつつあることを、今年に入ってからの企業景況感改善は示唆している。

回復しているのは企業景況感だけではない。2月分のハードデータが判明していくのはこれからだが、2月の韓国輸出は前年比プラス20%と大幅な伸びとなり、年明け以降の輸出の伸びが顕著になっている。価格上昇で輸出金額が膨らんでいる側面は大きいが、先進国経済の回復と新興国経済の安定で、12年以降停滞していた世界貿易も回復しつつあるとみられる。

もちろん、こうした動きはトランプ政権誕生によるものではなく、過去の金融緩和の徹底と緊縮財政の緩和を背景に16年前半から始まっていた。そして、始まりつつある世界経済復調が、経済重視を掲げるトランプ政権や安倍政権の支持率の追い風になるだろう。

米国株市場が最高値を更新し、トランプ政権や安倍政権に懐疑的なエコノミストなどから「過熱感」が指摘されているが、成長率回復による業績改善が素直に織り込まれているのだと筆者はみている。高値を更新する米国株市場に追随し、米金利上昇とドル高が早晩再開するのではないか。日経平均株価が、15年の高値をトライする環境は整いつつあると考える。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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